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第一章:不当解雇

第8話:助けた女性

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 女性はデンに任せていたので問題ないとわかっていたが、すでにモフモフの毛並みに癒されていた。

「大丈夫ですか?」
「は、はい! あの、助けていただき、ありがとうございました!」
「デンもありがとう」
「……ガウッ!」

 デンは見ず知らずの相手がいる前では言葉を口にしない。
 見た目もいつもの大きさよりも小さくなっており、俺の膝くらいの高さである。

「あっ! この犬は、あなたの飼い犬だったんですね」
「犬……まあ、そう見えるよな」
「……ガゥ」
「えっ? 違うんですか?」
「あー、いや、合ってるよ。それよりも、ここを離れないか? この状況は、さすがにマズい気がするしな」

 気絶した大男が三人。
 女性に説明してもらえば俺が悪者になる事はないかもしれないが、衣服を見るに外からやって来た人だろう。
 そうなると、国民を傷つけたとかなんとか理由を付けて、結局は俺が捕らえられる可能性だってあるかもしれない。

「この人たち、死んでないんですか?」
「殺さないよ。気絶してるだけだから大丈夫だ」

 さすがに人殺しは捕まるって。

「俺はレインズ」

 苦笑を浮かべながら、自己紹介を口にして手を差し伸べる。

「わ、私はリムルです!」

 リムルさんは俺の手を取って立ち上がると、そそくさとその場から移動した。

 俺たちはリムルさんが襲われていた場所から離れたところにあるベンチに腰掛けていた。
 そこで襲われた状況を聞いたのだが、まさかの展開に驚きを隠し得ない。

「……リムルさんから、声を掛けたのか?」

 そう、酔っぱらいに女性であるリムルさんから声を掛けていたのだ。
 だが、それにはわざわざ他国からジーラギ国にやって来た理由が起因していた。

「その、私は故郷に移住してくれる人を募集しながら、商船に乗って色々な国を回っていたんです。なので、近くにいた人に声を掛けたんですが……まさか、真昼間から飲んでいる人がいるとは思わなくって」
「……まあ、俺もそれには驚いたけどな。だが、ジーラギ国は外交も最低限にしかしてないし、移住なんて誰もしないと思うが?」
「それも知ってはいたんですが、誰にも声を掛けずに立ち去るのは、意味がないと思ったんです」

 そして、声を掛けた相手があいつらだったと。……なんて運のない女性なんだろうか。

「しかし、どうしてそこまでして移住者を探しているんだ? それに、自国で探す方が効率がいいだろうに」
「それは、そうなんですが……」

 声が尻すぼみに小さくなってしまった。
 他国の事情なんて知らないが、何かしらあるんだろうな。

「ちなみに、どんな人材を募集していたんだ?」
「だ、誰でも構いません!」
「……誰でも?」
「あ、いえ、その……できれば、若い人がいいです。私の故郷は田舎にありまして、腕に覚えのある若い人はどんどん大きな都市へ出て行ってしまうんです」

 話を聞いてみると、リムルさんの田舎には魔獣が多く現れるらしい。
 それらを自警団を組んで討伐しながら生計を立てているらしいのだが、そんな生活に嫌気がさした若者が大都市に流出しているのだとか。
 今はまだ親世代が現役なので問題はないが、将来的に村を維持する事ができるかどうかという問題が噴出し、移住者探しを決行したようだ。

「ウラナワ村と言うんですが、自国では田舎の村だと知られていて、大都市からそんなところに移住する人はいないんです。だから、こうして他国を回っているんです」
「……他国でも、そんな田舎に移住したいなんて言う人はいないんじゃないか?」
「それは、その……」
「ちなみに、今日までにいくつの国を回ってきたんだ?」
「……五つです」
「移住者は何人だ?」
「……」

 ……うん、無言が答えだと理解したよ。

「一人の説得にも成功してないんだな?」
「……はいいぃぃぃぃ」

 まあ、そんな事だろうと思ったよ。
 内にこもる国民性であるジーラギ国出身の俺でも、他国に行くとなれば大都市を見て回りたいと思ってしまう。それが他国の人間であればなおさらだろう。
 そもそも、自国民が敬遠する様な田舎の村に移住してくれると、どうして思ったのだろうか。

「動かないと、何も起きないと思ったんです」
「間違いではないが、動くにしても成功する可能性を考慮しないとダメだろう。移住するにあたって、何か旨い話がないとダメだろう。そういうものはないのか?」

 俺の質問に、リムルさんは口を開くではなく、大きく肩を落として俯いてしまった。

「……何も、ないんですね」
「……はいいぃぃぃぃ」

 これじゃあほとんど詰みじゃないか。
 まだ他の国に回るとしても、このままでは誰も移住を決めないと思う。

「はぁ。次で国に戻るんですよ。これじゃあ、みんなに顔向けできません」

 ……もう戻るみたいでした。

「ガウガウッ!」
「ん? どうしたんだ、デン?」

 何か言いたいことがあるようで、俺は耳を小さくなっているデンに向ける。
 ……ふむふむ……えぇ……マジでか。

「……まあ、いいか。特に目的地は決めてなかったし」
「うふふ、デンちゃんと会話ですか?」

 これ、絶対に冗談だと思われている感じだな。
 とはいえ、俺はデンの提案を受け入れる事にした。
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