門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎

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第一章:不当解雇

第24話:治療院のエミリー

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 ……おかしい。この雰囲気は、誰がどう見てもおかしい。
 どうしてリムルの機嫌は悪くなっているんだろうか。

『お主のせいであろう』
「お、俺が何かしたのか?」
『自覚がないのであれば、黙っておれ』

 ぐぬっ! ……デンは何かに気づいているようだが、教えてくれない。
 肝心のリムルは俺の隣ではなく、少し前を無言で、これまた大股で歩いている。
 案内を買って出てくれたのに、その態度はどうなのかと思わなくもないが、女性の考えている事を俺が理解できるわけもない。
 何せ、女性と付き合った経験もないし、ジラギースでもエリカ以外の女性と話した記憶すらないくらいだからな。

「……ここを、上るのか?」

 リムルについて進んでいた俺だったが、その先に視線を向けると小高い丘になっている。
 丘の上に一軒の建物があり、そこが目的の場所なんだろう。

「あそこは治療院になっているんです」
「治療院って、何も丘の上に造らなくてもいいだろう」
「足腰を鍛えてもらうために、丘の上に造ったらしいですよ?」

 怪我人や病人が丘を上る光景は、あまり見たくない気もするがな。
 とはいえ、そんな事を言っていても意味がないので、ようやく隣に並んでくれたリムルと一緒に丘を上がっていく。

「……なあ、リムル」
「……」

 ……返事はしてくれないんだな。

「……俺、何かしたか?」
「……何もしてませんよ?」
「じゃあ、なんで怒ってるんだ?」
「怒ってませんよ?」
「……いやいや、怒ってるだろう?」
「怒ってませんってば!」

 ほら、怒ってるじゃないか!

「――あらあら、どうしたんですか?」

 俺がさらに問い掛けようとした時、丘の上の方から柔和な声が聞こえてきた。
 声の方に視線を向けると、そこには白衣を纏った黒髪の女性が立っていた。

「エミリー先生!」
「初めまして。俺は、昨日から移住する事になった、レインズと言います」
「知っているわ。わたくしは治療院を経営している、エミリーと申します」

 声の雰囲気とそっくりな柔和な笑みを浮かべながら、エミリー先生はリムルの頭を撫でている。

「エミリー先生は、私の回復魔法の師匠でもあるんですよ!」
「なるほど。だから先生なのか」
「治療院でも先生なんですから、先生は先生なんです!」
「うふふ。ですが、先生と言っても、レジーナさんの回復魔法の方が治癒力は高いんですけどね」
「えっ? レジーナさんも、回復魔法が使えるんですか?」
「こちらの治療院も、元はレジーナさんが運営をしていたのです。せっかくですから、中に入りませんか?」

 丘の中腹で会話をしていたからか、エミリー先生は歩き出すと治療院の中に入れてくれた。
 治療院と言うだけあり、整理整頓もされていて、とても清潔な空間になっている。

「それで、今日はどうしたのですか、リムル?」
「えっと、レインズさんに村を案内していたんです」
「そうだったのね。それで、レインズさんは村を見てどうでしたか?」

 そう口にしながら、エミリー先生は俺の前に紅茶が注がれたカップを置いてくれた。
 正面からの行動に、俺は目のやり場に困ってしまう。
 白衣を纏っているものの、白衣の下は胸がやや開いた服装をしている。
 ……はっきり言えば、谷間が露わになっているのだ。

「えっと、まあ、その……良い村だと、思います」
「そうですか、それはよかったです」
「……ねえ、レインズさん」
「な、なんだ、リムル?」

 ……リムルの言葉に怒気を孕んでいるように感じるのは、気のせいだろうか?

「……どこを見ているんでしょうか?」
「どこをって、このカップ、だが?」
「……本当に~?」
「ほ、本当だよ! それに、部屋もとても清潔にされているみたいで、心地良いな!」
「うふふ。ありがとうございます、レインズさん」

 声や笑みだけではなく、エミリー先生の持つ雰囲気が柔和なものなんだろう。
 なんだろうが……どこか、色気のようなものを感じるのは気のせいだろうか。
 いや、胸の開いた服装をしているからってわけじゃなくて、妙に人を引き付ける雰囲気を持っているような気がする。

「……これは、ヤバいな」

 俺はそんな言葉と共に出された紅茶を一気に飲み干すと、イスから立ち上がり簡単な挨拶をする。

「魔獣狩りの時に怪我をしたら、お世話になります」
「うふふ。遠慮せずにいらっしゃい。リムルも遊びに来てちょうだいね」
「えっ? あ、はい。もちろんです、先生」

 なんとなく、俺がここに長居するのはマズいと感じ、挨拶もそこそこに俺は治療院を後にした。
 外に出てからしばらくは丘の先にある大きな木を目指して歩き、木を背にするともたれ掛かり大きく息を吐き出した。

「……はああぁぁぁぁ」
『どうしたのだ?』
「どうにも、俺は色気のある女性に弱いみたいだ」
『あれがか? 色気を武器にする女性とは、もっと積極的なものだろう』
「そうかもしれんが、俺は女性と接する機会なんてほとんどなかったからな。……なんというか、あの雰囲気には慣れない」

 解体屋や鍛冶屋では、仕事の雰囲気が強くあり問題はなかった。
 だが、治療院の中で、女性二人とお茶をしている状況に、俺自身が追いつかなかったのだ。

「……はぁ。情けないよ」
『まあ、そこがお主の良いところでもあり、悪いところでもあるか』
「良いところなわけないだろう」

 そんな事を話していると、治療院の方からリムルが追い掛けてきてくれた。
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