訳あり魔法少女

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第一章 我らが魔法戦士3人組

ちぐはぐな二人と不思議な部屋

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「ねぇ。あんたもそう思うでしょ?」
 舞台は20xx年。街が桃色に溢れる新春。街の片隅にひっそりと佇む洒落た喫茶店の窓際の席でグラスに入った桃色の飲み物片手に外の景色を黄昏ていたのはこの物語の主人公。菜の花 楓華なのはな ふうかだった。
「はぁ……ねぇ、楓華。あんた話聞いてないでしょ。」
 暗紅色の髪を二手に括った彼女が声を掛けてくる。名は莉々原 麗緒りりはら りお。菜の花の唯一の親友であり同居者だ。なぜ同居しているかはまたの話。
「えっ、あ、ごめんね!ちょっとぼぉっとしてて!」
「たく、こっちは真面目な話してるんですけど?」
 莉々原が手元の空になったグラスの縁を指でなぞっている。
「えっと……なんだっけ?」
「はぁ……だ!か!ら!」
 莉々原が音を立てて机を叩き携帯の画面を押し付けてくる。
 その画面には【あの国民的アイドル EVE、卒業!?やはりあのLIVEが原因か!?】という見出しが見えた。
「ほら!私の大好きなアイドル!イブチが……卒……業……」
「ま、まぁあぁ」
 机に突っ伏している莉々原を菜の花がなだめようとする。
「慰めはやめてくれ……私がどれだけ泣いてもイブチは戻ってこないんだぁぁぁっ!」
「よ……よし!あの高級チョコレート奢るから!ね?」
 天を仰ぎ涙を流していた莉々原がハッとした顔をした後口角が徐々に上がって行った。
「言ったね!?言質とったよ!?」
「はいはいw」
 窓の外を眺めると先程より空が晴れていた気がした。



 [菜の花家]
「ただいま~」
 家の扉を開けて莉々原が玄関に座り込む。
「まさか……チョコレート屋さんが定休日だったとは……」
「チョコレート……」
 莉々原がゆっくり立上りフラフラ莉々原の部屋に戻っていく。
(あー、落ち込んじゃった……)
 菜の花が買い物の荷物をリビングの机の上に置いてソファーに座る。
(ふぅ……後でコンビニでアイス買ってきてあげよ。)
 一息つき夕ご飯の支度にかかろうとした時ドタドタ急いで階段を下りてくる音が聞こえた。
(ん?麗緒?)
 扉の方を振り返ると扉からは焦った様子の麗緒が出てきた。
「どうしたの?」
「扉がっ!私の部屋の!知らない扉が!なんか見たことない!廊下の所に!」
「えっ、あぁ……よくわかんないけど、見に行くから連れていって!」
 莉々原は二度頷いて階段を駆け上がった。




「なに……この扉……」
 二階の二人の自室の間の空間に謎の錆びた石造りの扉が出来ていた。
「こんなの……今までなかったでしょ!?」
「うん……十五年間気付かなかった……」
 菜の花がドアノブに手を掛けようとすると莉々原が急いで止めにかかる。
「ちょ、待って待って!まずはサツ警察呼ぼ!ね!」
「え……でも、気になるし……」
「気になるからって!」
「あ。もしかして……麗緒怖いの?」
「にゃっ!?こっ、怖くないし?」
「よし!じゃあ……開けるよ?」
「はぁ……本当に楓華の好奇心は止められないんだから……」
 好奇心からか恐怖心からか心臓の高鳴りを抑えつつ扉を押す。
「……」
 ガガガガと音を立てて開く。
「錆びてる……でも、何で?」
「さぁ……っていうか、何よ。この空間は……」
 扉の奥にはコンクリートに囲まれた部屋で奥には下に続く階段が見える。
「あれは……階段?」
 菜の花が扉の奥の空間に一歩踏み出す。
「え、ちょ、楓華!?入るの!?」
 莉々原の言葉を無視し、菜の花は恐る恐る闇に消えていく。
「んもぉ~!ま、待ってよ楓華!」
 莉々原はスマホのライト機能を駆使し菜の花の後に続いた。



「ね、ねぇ楓華ぁ~っ、やっぱりサツ呼ぼうよぉ~絶対なんか出るって……」
「ほ、本当に麗緒は怖がりなんだから~、それに、幽霊だったら警察さんでもどうにもできないでしょ?」
「そっそうだけどさぁ~っ、」
 スマホのライトを頼りに古くなって錆びた階段を一歩一歩降りていく。
「あっ……あれって……」
「また扉?」
 階段の先には黒い高級そうな両開き扉があった。
「また高そうな扉~、」
「あ、でも鍵付きみたい……」
 扉には鍵穴が付いており、鍵が無いと開かない造りになっていた。
「鍵……か……ねぇ楓華。なんか心当たりある?」
「鍵……鍵……えぇっと、う~ん?」
「えぇ~っと、あ!楓華!ネックレス!」
「え?って、あ!」
 楓華が首にかけていたネックレスには可愛らしい金作りの鍵が着いていた。
「これ……お父さんがくれたネックレス……」
「あ……お父さんが……えっと、と、取り敢えず!ハマるかもしれないし!」
「うん……」
 ネックレスを首から外し鍵を鍵穴に入れる、と。
 カチャリ。
「えっ、」
「開くんだ……って、どうする?開ける?」
「うん……」
 二人で片方ずつドアノブを握り扉を開く。
「失礼します……って、え、」
「なっ、何この部屋あああっ!めちゃかわじゃん!」
 扉の奥にはありとあらゆるパステルカラーのアクセサリで埋め尽くされ、きらびやかで鮮やか、とにかく可愛らしい部屋が続いていた。
「やばっ!この家にこんな可愛いところがあるなんて……えっ、このリボンちょー可愛い!!」
 可愛い物好きの莉々原が目を輝かせて興奮している。
「うわぁ!このワンピースめっちゃ可愛いじゃん!ねぇ楓華!これ着てもいい?」
「えっ、あっ、う、うん……」
(さっきまで落ち込んでたのに……ま、いっか。……それにしても……お父さんに貰ったネックレス……この為にあったんだ……)
 ネックレスに着いた鍵をじっと見つめる。部屋の天井についてるシャンデリアの光が他の宝石や指輪に反射してキーホルダーを照らす。
 心の奥に潜めていた思いがグッと溢れてきて涙腺が震える。と、莉々原が声を掛けてきた。
「ねぇ楓華!これみて!」
「えっ、あぁ、なぁに?」
 声をかけられて莉々原の隣に駆け寄ると目の前にはピンク色の丸机の上に金色の縁が付いたテーブルクロスがかぶさっている。その上には黄緑、桃色、淡い水色をした可愛らしい飾り付けが施されている腕時計が大切そうに飾られていた。
「この腕時計……めっちゃ可愛くない!ねぇ、これ貰っちゃおうよ!」
「え!?でも……」
「だってさ!楓華黄緑好きじゃん!私はピンク好きだし……それに友情の証にお揃いの腕時計とかちょーいいじゃん!」
「う~ん、」
 家にあったからとはいえ、他人の物を無断で盗むのは……と心の中の天使が呟くが、自分の乙女の気持ちであの可愛らしい腕時計に一目ぼれしたのは確かな事だ。
(確かに……すっごく可愛い……)
 首を傾げて考えていると左手に何かが触れた感触がし、視線を向けてみると。
「ね!ほら、似合うじゃん!楓華かぁわいい!」
「えっ、ちょ、もぅ……麗緒ったら……」
「えぇ外しちゃうの?勿体無い……お揃い可愛いのに……」
「ほんと、可愛い事に関係すると正確変わるね、麗緒は!」
 正義心が勝ち腕時計を外そうとする……がある事に気付いた。
「え、ねぇ、この腕時計、小穴とか美錠がないんだけど、」
「こ、こあな?びじょう?」
「腕時計を緩めたり外したりする穴とか金具の事だよ。ねぇ、麗緒、これどうやって付けたの?」
「え!噓!私が付けた時はあった……のに……ああぁ!?私の腕時計も金具が無くなってる!?……これじゃ、外せないねぇ?」
 莉々原の口角がニヤリと上がる。
「もぉ……しょうがないなぁ……」
 チラッと腕時計に目をやると、時計の針は午後六時を指していた。
「えっ!?もう六時!急いで夜ご飯の準備しなきゃ……行くよ!麗緒!」
「え?まだ四時だけど……」
「え?」
 莉々原が菜の花にスマホの画面を向ける。確かにそこには[16:22]と記載されていた。
「あ……あれ?」
「えぇ~、この腕時計壊れてるの!?まったく……時間ずらさなきゃ、」
 時間を合わせようと二人が時計の針を十二に合わせた時だった。
「えっ、」
 時計から太い光線が発射され部屋全体を光で覆い、眩しくて目を瞑ってしまう。
「なっなに?」
「ちょ、ふ、楓華!?無事!?」
「ぶ、無事だけど、」
 光が収まり目を開いた瞬間だった。右目に黄緑色の光線が突き刺さり激痛が走る。
「い゛っ、」
「えっ、楓華っ、」
 莉々原も目を開こうとした瞬間、右目に桃色の光線が突き刺さり意識を失うほどの激痛が走る。
「あ゛っ、……ああああああああああああああっっっ!!!痛いっ!痛いっ!」
「うぐ……あ゛、あ゛、ぁ……」
 痛みから二人は床に倒れ込んでしまう。
(な……にこれ……痛、痛い……というより……あ、つい……だれか……た……すけ……)
 何とか呼吸をして意識を保とうとするが、だんだんと意識が遠のいて行く。そして、二人は気付けば気を失っていた。

 ――
(ここは……)
 ぼやけた視界の中、聞き覚えのある声が聞こえた。
「楓華……このネックレスをあげよう。」
(え、お、お父さん……?)
「……楓華。私の事は忘れて、立派に生きろよ……」
(なんで、お父さん、どうして、)
 どんなに叫ぼうとしても思った事と別の事が口から出て来る。
「お父さん……私は、貴方を一生……」
「あぁ……そうか……お前の気持ちは……楓華はやはり、そう思うよな……」
 堪えていた色々な感情があふれ出る。
(もし……あの頃に戻れるなら……私、は……。)

 ――
 「お……父……様……、」
 意識を取り戻し段々と瞼を上げる。目を覚ますとそこは何事もなかったようにしんとした先ほどの部屋だった。
(変な夢……見ちゃったな……)
「いてて……えっと……そうだ、時計から光線が出て……あ、そうだ麗緒!」
 急いで莉々原を探すと床に倒れて息を切らしながら苦しんでいる莉々原が居た。
「はぁっ、はぁっ、」
「麗緒っ!」
 急いで莉々原の下に駆け寄り体を揺らして起こそうとする。
「どうしたの麗緒!しっかりしてよ!起きて麗緒!」
「ゔ……あ、あれ、私……」
「あ!麗緒!大丈夫?すっごくうなされてたけど……」
「え?あぁ……ちょっと昔の夢見ちゃってw」
「そうなんだね……それは辛かった……」
「ん?どうしたの?楓華?」
 ある違和感に気付いて体が固まる。
「麗緒……」
「何?」
「麗緒……」
「だから、何よw」
「右目が……右目が……」
「右目?」
「ピンク色になってる!?!?」
「はあぁっ!?って、言われれば、楓華も右目が黄緑色になってるよ!」
「嘘!?」
 莉々原の右目は元々黒だったのだがカラコンを付けたような桃色に変わっていた。勿論、楓華も同じ状態だ。
「えっと……確か、眩しくて、目を瞑って、目を開けたらなんかピンク色の……えっと、」
「光線、かな?」
「多分……が飛んできて、すっごく痛くて、目を開けたら……この状況?意味わかんない!」
「そうだね……取り敢えず、1回上に戻ろっか。」
「うん……」
 二人は恐怖心と好奇心でどうすればいいか分からないまま階段を昇って行った。

 ――
 階段を下りて一階に辿り着いた二人。そこには、異様な目を疑う景色が見えていた。
「はっ、」
「え、これって、これって……幽霊ぃっ!?!?!?!?」
 リビングの真ん中に一人?一匹?の体が透けた怪物のような物がこちらを睨んでいた。
「なっなになになに、こんなの、さっきいなったのに!?」
「……」
 莉々原が菜の花の後ろに隠れ、菜の花は莉々原を守る体制に入る。
「あなた……もしかして……」
「いや、もしかしなくても、悪霊でしょ!!」
「えっそうなの、」
 すると悪霊が右腕を勢い良く振り上げ二人向かって殴りつけてこようとする。
「危ないっ!」
 菜の花が莉々原を抱きしめながら横に回避する。
「ひいいいっ!?なによあいつ!」
 回避したはいいもの、再度こちらに殴りつけてこようとする。
「避けて!麗緒!」
「ええっ!?何なのよもぉ!」
 避けても避けても殴ろうとして来る為、室内の家具は瞑れ、床も壊れかけている。
「これじゃ……きりがない……」
「あぁもうどうしよおっ!」
(なにか、何か武器は……!この腕時計、)
「っ、楓華!」
「えっ、」
 悪霊の拳がもうすぐ真上まで来ていたのだ。
「楓華っ!!」
(もう、どうにでもなれ!)
 時計の針を1回転し針を十二に合わせた時だった。
「えぇっ!今度は何よっ!?」
 菜の花の体から光が発射され悪霊の拳が跳ね返される。
(何……何なの……!?)
 光の膜で覆われ外の様子が何も見えないまま体を眺めていると、私服が何かしらの力で消え、替わりにまるで○○キュアにでも出て来そうな服装に早変わり。なんか頭が重いなと思えば髪色が黒から鮮やかな黄緑色に変わり毛量も増えている。
(えっ!?これは一体……)
 光が収まるとやっと部屋の様子が見えるようになり莉々原が口を大きく開けて呆然としている。
「野原に咲く希望、魔法戦士クローバー!」
(私っ、何言って!?)
「何言ってんの楓華。」
 マジレスしてくる莉々原を無視して悪霊が拳を振り下ろすが拳で対抗する。
「こっこれが!本当の、21才拳で!?」
「言ってる場合かぁ!!」
 悪霊の拳を振り払い人蹴り入れる。
「うわ!楓華つっよ!?」
 悪霊と距離を取ったところで莉々原の下に走る。
「麗緒!時計の針を!1回転して!」
「え!?う、うん、」
 そこまで言った所で、頭に謎の呪文が思い浮かぶ。
(もういいや言っちゃえ!)
 手を悪霊に向けて呪文を叫ぶ。
「レージング・グラース!」
 すると手から草花や枝、枯葉などが混じった突風のような物が発射され悪霊の体に直撃。すると興奮した様子の莉々原の声が聞こえた。
「束縛の恋心、魔法戦士メルティ!」
(メルティ……!)
 一瞬莉々原の頬が赤くなるが、直ぐに決心をした目つきに変わり右手を掲げると、莉々原の右手にはどこからか現れたのか可愛い飾りが施された普通のカッター5つ分ほどありそうな大きさのカッターを握っていた。
「はぁぁっ!」
 莉々原のカッターが悪霊の体を真っ二つにすると悪霊が消滅して行く。
「ふぅ……って、なによこの可愛い衣装!?写真!写真とろ!」
「もぅわかった、わかったから!」
 ぐちゃぐちゃになった室内と現在消滅中の悪霊をよそに自撮りを取ろうとした時だった。
「えっ、」
「カメラに……映らない!?」
「噓……なんで!?」
 スマホの画面には二人の姿は写っていなかった。
「っていうかこれ、どうやって戻るんだろ、」
「う~ん、反時計回りに回してみる?」
 菜の花が時計の針を反時計回りに回すと、再度菜の花を光が包み、光が落ち着いたと思えば先ほどの状態に戻っていた。しかも。
「おお、戻れた!」
「あれ、楓華だけカメラに写ってる。」
「変身してたら写らないのかな、」
 莉々原も時計の針を反時計回りに回すと元の姿に戻った。
「ほら!カメラに写ってる!」
 画面には私服姿の二人が写っていた。
「一体何だったんだ……って、あ!部屋が元に戻ってる!」
「本当だ!悪霊もいない!」
 悪霊が完全消滅したと同時に室内は元に戻っていた。
「ねぇ、これてさ、私達……になったって事じゃない!」
「魔法戦士!?」

 ――
 菜の花家の入口に書いてある看板【菜の花何でも屋】の字を眺める一人の女の影。彼女は看板をカメラで撮影した後、すぐさまサラスト黒髪を風になびかせながら立ち去って行った。

 続く。
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