最強英雄の異世界復活譚 ~寿命で一度死にましたが不死鳥の力で若い姿で蘇り、異世界で無双する~

季未

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第七十三話

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『──素晴らしい眺めだね』

アドリアンは雲を覆う深紅の空を見上げながら、自嘲気味に呟いた。
遙か遠くまで広がる地平線には、無数の魔族の影。
黒い潮が押し寄せてくるかのような光景だった。

『へっ、確かによ』

傍らのドワーフの兵士が、愛機の魔導機械兵を軽く叩きながら答える。

『こんな素敵なパーティに招待されるなんて、俺たち、なんて幸せ者なんだろうな』
『そうだぜ。魔族どもと踊り明かせるなんて、こんな光栄な事はねぇよ』

残されたドワーフの兵士たちが、死を前にしてなお冗談を飛ばし合う。
彼らの表情には恐れの色など微塵もない。それどころか、愉快な祭りにでも参加するかのような、不敵な笑みすら浮かべていた。

──魔王軍の奇襲により、帝都は窮地に陥っていた。
連合軍の本隊が到着するまで、この僅かな手勢で、黒い絨毯を敷き詰めたかのような魔王軍を相手にしなければならない。

『みんな、心配しなくていいよ』

アドリアンは意図的に明るい声で言った。

『俺がいる限り、誰も死なせたりしない。だって、奥さんや子供たちが泣いちゃうだろ?それに君たちが死んだら、俺が葬式代を払わなきゃいけなくなるしね』

その言葉に、ドワーフたちは苦々しい笑みを浮かべた。
英雄アドリアン──連合軍の本隊から、たった一人でこの窮地に駆けつけてきた人間の英雄。
しかし、彼はまだ若い。
だからこそ、そんな甘い言葉を口にできるのだろう。ドワーフの兵士たちの瞳には、そんな諦めにも似た慈しみの色が浮かんでいた。

『さて、アドリアン。無駄口は以上だ。そろそろ行こうではないか』

ベレヒナグルがそう告げる。彼は精巧な魔導兵装に身を包み、遥か先の一点を見据えていた。

『狙いは魔大公の首だ。雑魚には構わなくていい』

敵将の首級──それを手に入れることができれば、この窮地からの生還も夢ではない。
彼らはその一縷の望みに全てを賭けようとしていた。

『ベレヒナグル。それにみんな』

アドリアンは意地の悪い笑みを浮かべながら言った。

『そんな重そうな玩具で、本当に俺の速度について来られるのかい?実は俺は機械なんかより、生身の皆の方が好きなんだけど』

その言葉に、ベレヒナグルを含むドワーフの兵士たちは一瞬の沈黙を見せた。
そして、何かを思案するような表情を浮かべながら──。

『余計な心配はいらんよ、若き英雄殿』

ベレヒナグルは刺すような声で言った。

『我らが魔導機械の力と、ドワーフの意地、その両方を存分に見せてやろうではないか。魔族どもにも──そして、英雄の驕りにもな』



♢   ♢   ♢



「馬鹿な、馬鹿な!私の計算は完璧だ!暴走など……有り得ん!」

取り乱したように叫ぶベレヒナグルの声で、アドリアンの意識が現実に引き戻される。
彼の眼下では、制御を失った魔導機械兵が、狂った獣のように暴れ回っていた。

「……」

その声を聞きながら、アドリアンは深い感慨を湛えた瞳で暴れ狂う魔導機械兵を見つめていた。
──かつての戦友の姿を重ね合わせるかのように。

「──みんな、ごめんよ。二度と見たくなかったのに。二度と、繰り返したくないのに」

──でも、必要なことなんだ。
アドリアンの呟きは、周囲の騒ぎに掻き消され、誰の耳にも届くことはなかった。

「アドリアン!このままでは危険だ!」

ザラコスは尻尾を激しく揺らしながら叫ぶ。

「アレは完全に制御を失っている。ここはワシとお前で何とか──」

しかし、アドリアンはゆっくりと首を振った。

「ダメだ、ザラコス。あの機体は暴走によって、シャヘライトの魔力を限界まで爆発させてる。俺の力じゃ……」

その言葉に、ザラコスの顔から血の気が引いた。
彼は言葉を失い、ただ唖然と口を開けたまま固まってしまう。
この男が、英雄アドリアンですら、無力だと──?

「そうだ……あの状態の魔導機械兵に敵う者などいない……」

ベレヒナグルが震える声で呟いた。

「三重連動型シャヘライトの共振が限界を超え、魔力増幅率は従来の十倍以上。もはや制御系統など意味を為さない。装甲強度も、反応速度も、全てが私の計算式を超えてしまった……!」

その言葉に、貴賓席の面々は一様に驚愕の表情を浮かべた。
四公爵たちは言葉を失い、エルフの一行は息を呑み、皇帝ゼルーダルですら、その巨体の動きを止める。

「ア、アド……嘘だよね?」

メーラは恐怖に身を震わせ、あれほど高さを怖がっていた席から飛び出すように立ち上がると、アドリアンに縋り付くように抱きついた。
その時、トルヴィアが憤怒の眼差しでアドリアンを射抜くように睨みつける。

「──アンタ、さっき自分で言ったわよね。全ての責任を取るって」

その糾弾するような言葉に、アドリアンはふっと意味ありげな笑みを浮かべた。

「心配しなくていいさ、トルヴィア。誰も死なない──まぁ、俺の評判は死ぬかもしれないけどね」
「──っ!何を言ってるの!?もういい、私が……!」
「──トルヴィア」

闘技場へと身を乗り出そうとした彼女を、アドリアンが一喝する。
その瞬間、トルヴィアの身体が凍りついた。
英雄が放つ、凄まじい威圧感に全身の血が凍るのを感じたのだ。

(ど、どうして……)

「大丈夫だよ」

アドリアンの言葉は、この状況では余りにも無責任に聞こえた。
しかし──トルヴィアは彼から放たれる圧倒的な存在感に、その場に釘付けにされたように動けなかった。

「避難を……避難を指示すべきだ!」

ベレヒナグルが取り乱したように叫ぶ。
普段の冷静さは、もはやどこにも見当たらない。

「この愚か者が!」

アイゼンが怒号を上げた。

「この巨大な会場で避難命令を出せば、パニックが起きる!そんなことをすれば、逃げ惑う民衆で死傷者が続出するぞ!」
「では、どうすると言うのだ!無知な貴殿には分からないだろうがね、あのまま暴走を続ければ極限加熱されたシャヘライトが大爆発を引き起こし、ここにいる全員が蒸発するぞ!」

二人の公爵が互いに怒号を浴びせ合う。
その様子は、先ほどまでの『旧武』と『新鋭』の対立など、どこかへ吹き飛んでしまったかのようだった。

「ア、アド……」

メーラの震える声が響く。
彼女はアドリアンにしがみついたまま、幼い頃のように怯えている。
今や『姫』としての演技など、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
アドリアンは優しく微笑みながら、メーラの頭を撫でる。

「大丈夫。心配いらないよ。俺が、付いてるから」

一方、エルフたちは──。

「ふむ……」

フェイリオンは鋭い眼光で状況を分析していた。
その傍らでは、妖精のペトルーシュカとレフィーラが、青白い光を放つ精霊武器を具現化させ、いつでも戦える態勢を整えている。
ケルナだけは、姉の背中に身を寄せて震えていた。

「フェイリオン!どうするの!?」

トルヴィアの焦りの籠った声に、フェイリオンは冷静な瞳で応える。

「そうですね……」

不意に、フェイリオンの鋭い翡翠色の瞳が、アドリアンと交差する。
その眼差しは、アドリアンの胸の内を見通しているかのようだった。

「……」

一瞬の沈黙の後、フェイリオンは意図的に視線を逸らし、涼しげな声で言った。

「恐らく大丈夫でしょう」
「ちょっとフェイリオン!貴方、この状況分かってるの!?その余裕はなに!?」

妖精ペトルーシュカが困惑したように問いかける。
フェイリオンは、涼し気な顔をして答えた。

「ただの勘ですよ。まぁ、もし間違っていたら、この場にいる全員で英雄どのを袋叩きにすれば良いだけの話ですし」
「……はぁ?」

そのやり取りを聞いていたアドリアンはやれやれ、と肩を竦める。
流石は外交官フェイリオン。無駄に『勘』とやらが鋭いものだ。

──その時、アイゼンが突如として怒鳴り声を上げた。

「もう議論は終いだ!我が戦士たちと共に、あの魔導機械兵を力づくで止めてやる!」
「な、なにを言っている!?」

ベレヒナグルが青ざめた顔で叫ぶ。

「生身の戦士如きで、暴走した機械兵など止められるはずがない!それは計算上……」
「黙れ!貴様はそこで延々と計算だの理論だのと呟いていろ!」

アイゼンは全身に闘気を纏わせながら若返ったかのような動きで立ち上がる。
そして、驚異的な脚力で貴賓席から跳躍すると、闘技場全体を震わせるような轟音の声で叫んだ。

「我が誇り高き戦士たちよ!今こそドワーフの魂を見せるのだ!共に立ち上がれ!」

アイゼンの号令に呼応するように、次々と戦士たちが闘技場に姿を現す。

「うおおおおっ!」
「我らが命、鋼鉄公に捧げん!」
「戦士の意地、見せてやるぜ!」

彼らは皆、誇り高き笑みを浮かべながら、巨大な武器を手に構えていた。
その光景に、観客席からは歓声が沸き起こる。
危機的状況など気にも留めていないかのように、彼らは熱狂の渦に身を委ねていた。

「すげぇ!これぞドワーフの底力ってやつだぜ!」
「おらぁ!暴れる鉄の塊なんか、皆で力を合わせて止めちまえ!」

危険を察知せず──いや、むしろ危険を承知の上で、観客たちは更なる熱狂へと突き進んでいく。
それこそが、戦いを愛するドワーフたちの真骨頂だった。

「愚かな……!なんと愚かな選択を!今すぐ逃げれば、助かる可能性があるというのに……!」

ベレヒナグルの声には、絶望と憤りが混じっていた。
それを聞いて、アドリアンはゆっくりと口を開く。

「……えぇ、本当に愚かです」

彼は一瞬言葉を切り、懐かしむような、そして何処か切ない表情を浮かべた。

「完璧な計算を誇る科学者が、理論も、確率も、生存可能性も、全て投げ捨てて──命を捧げた、あの愚かで崇高な選択のようにね」

アドリアンの呟きは、歓声にかき消され、誰の耳にも届かなかった。
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