最強英雄の異世界復活譚 ~寿命で一度死にましたが不死鳥の力で若い姿で蘇り、異世界で無双する~

季未

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第七十六話

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興奮冷めやらぬ闘技場に、歓声が渦巻いていた。
観客たちは機械兵を前にしても退かなかったドワーフの戦士たちの勇気と、圧倒的な力で魔導機械兵を打ち砕いた人間の英雄の姿を、興奮気味に語り合っている。
貴賓席では、公爵たちが未だ驚きを隠せない表情を浮かべていた。

「な、なんだあの馬鹿げた強さは……夢か?これは夢なのか?」

ザウバーリングが引き攣った表情で呟く。

「全く!もう少し優雅な技を使うべきではなくて?本当に、センスのかけらもないわね」

シェーンヴェルは豪奢な扇子で顔を扇ぎながら、冷ややかに言った。
誰もが、アドリアンの常識外れな強さに、言葉を失っていたのだ。

「こ、この男……!くっ……今ここで、ぶっ潰したいわ……!」

トルヴィアの拳が小刻みに震える。そんな彼女の横で、ザラコスは呆れたように尻尾を揺らした。

「トルヴィア姫よ、無駄な努力はなさらぬことです。第一、あの男を潰せる者などおりますまい。我らが怒れば怒るほど、あの男の笑顔は『輝かしく』なりますからな」

トルヴィアとザラコスの怒りと呆れの声が聞こえる中、アドリアンは観客席に向かって手を振り、その熱狂に応えている。
その余裕たっぷりの姿に、トルヴィアの怒りの炎は更に燃え上がるのだった。

「みんな、ありがとう!俺の姿、見てくれたかい?見逃した人の為に、もう一回魔導機械兵を暴走させてもいいかもね!」

まるで英雄譚に描かれる凱旋のような光景に、ドワーフたちは心を奪われていた。

──だが、それまでにこやかに手を振っていたアドリアンは不意に雰囲気を一変させる。
不意に。
彼は遥か頭上の貴賓席を見上げ、叫んだ。その声には拡声魔法が掛かっており、闘技場全体に響き渡る。

「ベレヒナグル卿!せっかくの『完璧な』実験の成果を、そんな高みから観察されるとは!」

アドリアンの視線の先には、手すりから闘技場を見下ろすベレヒナグルの姿があった。

「さぁ、みんなお待ちかねですよ!偉大なる機計公から、素晴らしい研究成果の解説を賜りましょうか!観客の皆様も、きっと興味津々でしょう?」
「……」

一瞬の間。そして、静寂。
機計公ベレヒナグルが、静かに動き始める。
彼の全身から青白い光が漏れ始め、精巧な魔導兵装が次々と展開されていく。
その姿で、彼は優雅に闘技場の中央へと降り立った。

「き、機計公だ……」
「ベレヒナグル様……」

その瞬間、会場が水を打ったように静まり返る。
熱狂していた観客も、意気揚々としていた戦士たちも、一斉に息を呑んだ。

闘技場の中心で、ベレヒナグルは──。

「我が魔導機械兵は、至高の技術によって生み出された完璧な存在」

ベレヒナグルはモノクルの奥の瞳を煌めかせながら、静かに語り始めた。

「理論に裏打ちされた計算の産物であり、生身の戦士など遥かに凌駕する力を持つ。それが私の──いや、我々の誇るべき魔導技術なのだ」

その言葉に、観客たちから困惑のどよめきが起こる。
アイゼンは眉を顰め、戦士たちは不満げな表情を浮かべた。
これだけの惨事を引き起こしておきながら、まだそのような傲慢な──。

「──だが」

ベレヒナグルの声が、闘技場に響く。

「私は、決定的な計算違いをしていた」

彼は震える手でモノクルを外し、真摯な眼差しで周囲を見渡した。

「戦士たちが見せた奇跡のような戦い。計算など超越した、魂の輝き。そして何より──民を守るという強い意志が生み出した力」

彼の声は次第に力強さを増していく。

「私は『生命』という存在の持つ可能性を、完全に見誤っていた。理論や計算では説明のつかない、しかし確かに存在する力を、愚かにも否定してきたのだ」

ベレヒナグルは、震える声でアイゼンに向き直る。

「アイゼン卿。私は愚かだった。革新的な技術だけを追い求め、長年の経験と魂の力で戦う戦士たちを蔑ろにしていた。生身の戦士など時代遅れだと──そう決めつけ、高慢な態度を取り続けてきた」

彼は深々と頭を下げる。

「どうか、この傲慢な男を許しくれ。そして──貴殿の弟子たちに、私からの心からの謝罪を伝えていただきたいのだ」

その言葉に、アイゼンは静かに目を瞑った。
闘技場全体が、彼の言葉を待ちわびている。
そして──。

「──わしの初陣の時のことじゃ」

アイゼンは目を閉じ、遠い記憶を追うように語り始めた。

「まだ若かったわしは、ただ剣を振り回すことしか知らなんだ。敵の魔法に怯え、仲間の死に涙し、それでも必死に戦った。師匠から教わった剣術も、戦場では役に立たなかった」

彼は胸の勲章に触れ、懐かしむように微笑む。

「特に忘れられないのは、アルヴェリア王国での攻城戦での出来事じゃ。わしは若さゆえの血気にはやる気持ちで、単独で敵陣に突っ込んでいった。結果、敵の魔法使いの術にかかり、散々な目に遭わされた」

アイゼンは苦笑いを浮かべる。

「仲間たちが命がけでわしを助け出してくれたが、その時三人の戦友を失った。若かったわしは、自分の無謀さを恥じ、一時は剣を手にすることすら躊躇った」

周囲のドワーフたちは、戸惑いながらもその言葉に聞き入っていた。
なぜ今、このような昔話を始めたのか──誰もが疑問に思いながらも、帝国が誇る将軍の言葉に、静かに耳を傾けている。

「その頃だったかな……」

アイゼンは懐かしむように目を遠くに向ける。

「魔導機械兵が、戦場で初めて姿を現したのを覚えている。あの巨大な姿が現れた時、敵も味方も息を呑んだものじゃ」

彼の声には、複雑な感情が滲んでいた。

「魔法も、岩をも、あの無機質な巨人は易々と押し潰していった。死傷者の数は劇的に減り、戦況は一変した。わしは、あの圧倒的な力の前で震えたことを覚えている」

その言葉に、戦士たちの表情が変わる。
彼らは次第に、アイゼンの言葉の真意を理解し始めていた。

「そしてな、その時こうも思ったのだ。もし、わしが若かった頃の戦で魔導機械兵があれば──あの時、わしの無謀さのために命を落とした戦友たちは、死なずに済んだのではないかと」

その言葉に、会場が静まり返る。
戦士たちも、観客たちも、ベレヒナグルも──将軍が抱えてきた思いの重さを、初めて知ったかのように息を呑んでいた。

「これは、長年胸の内に秘めていたことなのじゃが──」

アイゼンはベレヒナグルの手を取り、静かに言葉を紡ぐ。

「わしは魔導機械兵に、どこか羨望を抱いていた。そして身勝手にも、恨んでいた。あの時、わしの戦友たちを救えたかもしれない力が、なぜそこにいてくれなかったのかと」

アイゼンは深いため息をつき、しかし力強く続けた。

「だが、今日の『鋼の祭典』で、わしは理解したのだ。お主の創り出す魔導機械兵の持つ可能性は、まさに無限大だということを。お主の頭脳は、我らの未来を切り拓く光となるはずじゃ」

そして、より強く手を握りしめ、言った。
それはベレヒナグルだけにではなく、この場にいるドワーフ全員に向けての言葉だ。

「じゃが、忘れてはならん。身の丈に合わない力は、時として暴走し、大きな災厄となる。技術の進歩と共に、それを制御する知恵も必要なのじゃ」

ベレヒナグルはゆっくりとアイゼンの手を握り返した。
彼の瞳には、暴走した技術の恐ろしさと、戦士たちの力強さへの深い理解が宿っていた。

「私も今日、大切なことを学んだ。技術の革新も大切だが……それを正しく導く経験の力も、同じように重要だということを」

その時、二人の公爵の握り合う手の上に、もう一つの手が重ねられた。
振り返ると、そこには人間の英雄アドリアンが、意味ありげな笑みを浮かべて立っていた。

「おぉ!これは素晴らしい光景だ!」

アドリアンは闘技場全体に聞こえるように、にこにこと笑いながら言った。

「『革新派』と『旧武派』の感動的な和解とは!もしかしたら、あの魔導機械兵はご主人様たちの仲を取り持つために、わざと暴走してくれたのかもしれない!なんて忠義深い機械なんだろうか!?」

その言葉に、二人の公爵は疑惑の眼差しを向ける。

「……英雄殿よ」

アイゼンが疑わしげな目でアドリアンを見る。

「どうも全てが、お主の思い通りになっているような気がしてならんのだが」
「そういえば」

ベレヒナグルが何かを思い出すように言った。

「ファティマが搭乗する機械兵を見ながら、『これから面白いことが始まるなぁ』などと呟いてなかったかね?最初は試合への期待だと思っていたが……もしかしてその時からこの展開を──」

アドリアンはそんな二人の言葉を遮るように、結ばれた手を高々と掲げ、闘技場全体に轟く声で叫んだ。

「見よ、我らが誇る二人の公爵を!今こそ、派閥など無用の時代が始まるのだ!」

彼は更に声を高らかに響かせる。

「戦士たちは最新の技術で武装し、魔導機械は戦士たちを守る盾となる!これぞ、新しい帝国の姿!」

その言葉に、観客席から大きな歓声が沸き起こった。
戦士たちも、機械兵の操縦士たちも、皆が熱狂の渦に巻き込まれていく。

「英雄様の仰る通りだ!」
「戦士と機械が共にある未来か!最高だ!」

異種族とはいえ、強さを何より重んじるドワーフたちにとって、アドリアンの圧倒的な力は畏敬の的だった。
その英雄が示す道こそが、正しい未来であると──彼らは心から信じていた。
一方で……ベレヒナグルとアイゼンは、なおも疑わしげな目でアドリアンを見つめていた。
全ての展開が彼の掌の上で踊っていたかを疑って……。

「まったく、手に負えん奴だ……」
「ほんと。こんなのを帝国に持ち込んだ私の責任だわ。はぁ……」

横でその光景を見ていたザラコスとトルヴィアは本日何度目になるか分からない溜め息を吐く。
熱狂に包まれる闘技場で、彼らだけが──アドリアンという男の底知れない術策に、呆れたような、そして諦めたような表情を浮かべるのであった。

「みんな、ありがとう!これからも英雄アドリアンをよろしくな!」

歓声が沸き起こる中、アドリアンは二人の公爵の手を高く掲げたまま離そうとしない。
その仕草は、観衆に見せるためのパフォーマンスのようでもあった。

その時。

掲げられた二つの手から、かすかな『黒い靄』が消えていく。
しかし、熱狂に包まれた闘技場で、その瞬間に気付いた者は誰一人としていなかった。

「……」

ただ一人。フードを深く被った男を除いて……。

「──計画は、全て失敗か」

遠く離れた観客席の一角。
フードを深く被った男が、静かに立ち上がる。その掌からは、漆黒の魔力が溢れ出ていた。
男の掌から溢れ出る漆黒の魔力が、更に濃度を増していく。しかし、次の瞬間──。

「──!」

男は慌てて魔力を打ち消した。
アドリアンが、一瞬だけ観客席のこの方向に視線を向けたように感じたのだ。

「今は、退くしかない」

フードの男は周囲に気付かれないよう、静かに立ち上がると、闇に溶けるように姿を消した。

「覚えていろ、アドリアン。お前の『英雄』としての輝きを消してやる。必ず──」

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