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11.役割分担
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「俺が作るのか!?」
「すみません、俺は料理なんてほとんどしたことがないもので……」
頭を抱えたエルダさんの前で俺は後頭部を掻いた。
正確に言えば料理の経験が全く無いわけではないのだが、俺が経験した料理は電子レンジやガスコンロ、味の整ったシーズニングや冷凍食品まで使った料理だ。
この世界で、レトルトや使い勝手の良い“素”を使わずにビーフシチューができるはずもない。
「シチュー作りも窯の調整も俺で、おまえは一体何をする気だ? まさか味見だけだなんて言わないよな?」
筋骨隆々のエルダさんに頭上から凄まれ、慌てて両手を振る。
「パンの成形は俺がやります! ただ、生地の方はエルダさんに用意していただいて……」
「それも俺がやるのか!」
「生地の用意なら僕がやりますよ。僕も料理は苦手だし、生地を捏ねるところまでなら店に出すものも作ってますから」
今にも俺を頭から齧りそうな勢いのエルダさんを宥めながら、リックは言った。
ビーフシチューとパンの食べ方については苦言を呈していたリックだが、いざパンを作ってみるとなれば相変わらず明るく前向きで、すでに材料のメモまで済ませている。
「とりあえず普通のバゲット生地で、一次発酵が終わったら成形しようと思います。ビーフシチューはどれくらいで出来上がりますか?」
「長く煮込んだ方が美味いが、ひとまず三時間もあれば食べられる状態にはなるだろう。それをどうやって包むんだ?」
「シチューを冷まして少し水分を飛ばします。それから丸く伸ばした生地の中央にシチューの中の肉や野菜を置いて、外側から包むように……生地同士をしっかりくっつけて、そのまま二次発酵と焼成をしてもらえれば」
俺の説明にエルダさんもリックもあまりイメージが湧かないという様子だった。
「発酵中に中身が溢れそうな気がするが……大きさはどれくらいなんだ?」
「手のひらに乗るくらいの大きさです。バゲットを焼くよりも少し低い温度で、短い時間でお願いします」
「わかった。それじゃ、俺は窯の用意から始めよう。シチュー作りはその後だ」
「ありがとうございます!」
エルダさんはさっそく窯の用意をしに倉庫を出て行った。
「それじゃ、その間に僕たちはシチューの材料を買いに行きましょう」
「そうだな。そうしよう……ぅわっ!」
エルダさんに続いて倉庫を出ようとした俺たちだが、半開きのドアの向こうから殺気を感じて目を向けると、そこにいたのはウサギの人形……ではなく、ウサギの人形を抱えたミーティだった。
「……リッキー。またあたしを置いて行くの? せっかくお仕事が終わったのに、ちっとも遊んでくれないのね」
ミーティは下唇を噛み、恨みがましくリックを見上げる。
目元が少し赤いのは気のせいではないのだろう。
「ああ、ごめんねミーティ。これからレイさんのパンを作ってみるんだ、今日はおじいちゃんと遊んであげてよ」
「そんなのイヤ! レイばっかりリッキーと遊んでズルイ……」
俺は思わずリックと顔を見合わせてしまった。
ミーティはすでにグスグスと鼻を啜っている。
「だ、だったらミーティも一緒に買い物に行こうよ! ね? 俺も一緒なのは嫌かもしれないけどみんなで行けば楽しいし……ほら、リックもそう思うだろ!」
慌てて言い繕ってリックを肘で小突くと、リックもはっとしたように応えた。
男二人、小さなレディに振り回されっぱなしらしい。
「はいもちろん! ミーティも一緒に行こう? シチューの材料を買いに行くんだよ、ほら、僕と手を繋いで」
「ああそうだ! 俺が何か好きなものを買ってあげるよ! 一つだけ、ミーティの欲しいものを」
「……ほんと? あたしも一緒に行っていいの?」
ミーティは潤んだ瞳をクリームパンのような子どもらしい手で擦り、小さな声で尋ねた。
目線はまっすぐ、リックだけを見ている。
「一緒に行こう。ミーティにも喜んでもらえるパンが作れるように頑張るから、新鮮な材料を選んでくれるかい?」
リックはまるでどこぞの俳優のように甘く囁き、ミーティの体を抱き上げた。
水色のワンピースがふわりと膨らみ、リボンのような長い髪と一緒に揺れた。
「……わかったわ。あたしも頑張るから、リッキーもレイも頑張ってパンを作ってね」
かくして俺とリックは、ミーティ(と、ウサギの人形——名前はシュガー)と共にシチューの材料を買いに出ることになった。
「すみません、俺は料理なんてほとんどしたことがないもので……」
頭を抱えたエルダさんの前で俺は後頭部を掻いた。
正確に言えば料理の経験が全く無いわけではないのだが、俺が経験した料理は電子レンジやガスコンロ、味の整ったシーズニングや冷凍食品まで使った料理だ。
この世界で、レトルトや使い勝手の良い“素”を使わずにビーフシチューができるはずもない。
「シチュー作りも窯の調整も俺で、おまえは一体何をする気だ? まさか味見だけだなんて言わないよな?」
筋骨隆々のエルダさんに頭上から凄まれ、慌てて両手を振る。
「パンの成形は俺がやります! ただ、生地の方はエルダさんに用意していただいて……」
「それも俺がやるのか!」
「生地の用意なら僕がやりますよ。僕も料理は苦手だし、生地を捏ねるところまでなら店に出すものも作ってますから」
今にも俺を頭から齧りそうな勢いのエルダさんを宥めながら、リックは言った。
ビーフシチューとパンの食べ方については苦言を呈していたリックだが、いざパンを作ってみるとなれば相変わらず明るく前向きで、すでに材料のメモまで済ませている。
「とりあえず普通のバゲット生地で、一次発酵が終わったら成形しようと思います。ビーフシチューはどれくらいで出来上がりますか?」
「長く煮込んだ方が美味いが、ひとまず三時間もあれば食べられる状態にはなるだろう。それをどうやって包むんだ?」
「シチューを冷まして少し水分を飛ばします。それから丸く伸ばした生地の中央にシチューの中の肉や野菜を置いて、外側から包むように……生地同士をしっかりくっつけて、そのまま二次発酵と焼成をしてもらえれば」
俺の説明にエルダさんもリックもあまりイメージが湧かないという様子だった。
「発酵中に中身が溢れそうな気がするが……大きさはどれくらいなんだ?」
「手のひらに乗るくらいの大きさです。バゲットを焼くよりも少し低い温度で、短い時間でお願いします」
「わかった。それじゃ、俺は窯の用意から始めよう。シチュー作りはその後だ」
「ありがとうございます!」
エルダさんはさっそく窯の用意をしに倉庫を出て行った。
「それじゃ、その間に僕たちはシチューの材料を買いに行きましょう」
「そうだな。そうしよう……ぅわっ!」
エルダさんに続いて倉庫を出ようとした俺たちだが、半開きのドアの向こうから殺気を感じて目を向けると、そこにいたのはウサギの人形……ではなく、ウサギの人形を抱えたミーティだった。
「……リッキー。またあたしを置いて行くの? せっかくお仕事が終わったのに、ちっとも遊んでくれないのね」
ミーティは下唇を噛み、恨みがましくリックを見上げる。
目元が少し赤いのは気のせいではないのだろう。
「ああ、ごめんねミーティ。これからレイさんのパンを作ってみるんだ、今日はおじいちゃんと遊んであげてよ」
「そんなのイヤ! レイばっかりリッキーと遊んでズルイ……」
俺は思わずリックと顔を見合わせてしまった。
ミーティはすでにグスグスと鼻を啜っている。
「だ、だったらミーティも一緒に買い物に行こうよ! ね? 俺も一緒なのは嫌かもしれないけどみんなで行けば楽しいし……ほら、リックもそう思うだろ!」
慌てて言い繕ってリックを肘で小突くと、リックもはっとしたように応えた。
男二人、小さなレディに振り回されっぱなしらしい。
「はいもちろん! ミーティも一緒に行こう? シチューの材料を買いに行くんだよ、ほら、僕と手を繋いで」
「ああそうだ! 俺が何か好きなものを買ってあげるよ! 一つだけ、ミーティの欲しいものを」
「……ほんと? あたしも一緒に行っていいの?」
ミーティは潤んだ瞳をクリームパンのような子どもらしい手で擦り、小さな声で尋ねた。
目線はまっすぐ、リックだけを見ている。
「一緒に行こう。ミーティにも喜んでもらえるパンが作れるように頑張るから、新鮮な材料を選んでくれるかい?」
リックはまるでどこぞの俳優のように甘く囁き、ミーティの体を抱き上げた。
水色のワンピースがふわりと膨らみ、リボンのような長い髪と一緒に揺れた。
「……わかったわ。あたしも頑張るから、リッキーもレイも頑張ってパンを作ってね」
かくして俺とリックは、ミーティ(と、ウサギの人形——名前はシュガー)と共にシチューの材料を買いに出ることになった。
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