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第四章 偏食の騎士と魔女への道
13.ガラスの羅針盤
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天井にガラスのネックレスを透かしながら考え事をしていると、ミーティを寝かしつけてきたリックが部屋に戻ってきた。
俺は相変わらずリックの部屋に寝袋を敷いて寝ている。
近頃はリックも気を遣わないでいてくれていて、平然と俺の体を跨ぐと自分のベッドに座った。
「なんです、それ」
「……ミーティがくれた。御守りなんだって」
一瞬迷ったが、黙っているのも変だと思って俺は正直にネックレスのことを話した。
子ども用のおもちゃのネックレスとはいえ、買い与えたのはおそらくリックだろう。言っておくに越したことはない。
「ミーティの? そんなの持ってたかな……」
「え? 俺はてっきりリックが買ってあげたものなのかと……大事なものなのかな、俺が持ってて大丈夫?」
「ああ、別にミーティが良いならいいんですよ。でも、もしかしたら兄さんがあげたものかもしれないです」
「兄さんって……それって大事なものじゃないか」
俺は驚いて起き上がった。
「だからレイさんにあげたんでしょうね。どんな話をしたんです? あんまり僕にヤキモチ妬かせないでくださいね」
リックは笑いながらベッドに寝転んだ。
「……フロッカーさんがエルダさんやミーティにも相談してみろって言うから」
「答えは出ましたか?」
俺はもう一度寝転んで、ミーティのくれたネックレスを握った。
ガラスはひんやりとして、ごちゃごちゃした俺の頭の中をクリアにしてくれる。
「……答えってほどじゃないよ。でも、俺はやっぱりハロルド兵士団長の力になりたい。フロッカーさんの言う覚悟の意味はわかるよ、でもここで踏み止まったら俺はこの先なにもできない気がする。俺が力になれるかもしれないなら、あの英雄を助けたいんだ」
俺は瞼の裏にミーティの寂しそうな顔を思い浮かべた。
人を襲う魔物がいなくなればミーティはあんな顔をしなくて済む。
父親を魔物に殺されてしまったミーティ。
口には出さなくても、きっとそんな世界に苦しんでいるはずだ。
そしてそのミーティのためにも兵士団を志願したリックも、きっと平和を望んでいる。だから剣を取った。
でも、大好きなリックがいくら自分のためでもあるとはいえ、そうすることにミーティは胸を痛めている。魔物と戦うということは魔物に殺されるかもしれないということだ。その業は、彼女の小さな体で抱えるにはあまりに重すぎる。
ショーン曹長が言っていたようにハロルド兵士団長が万全で戦うことは、たくさんの人が安心して暮らせる世界に繋がるのだろう。
剣も槍も使えて、武術も使える万能で誰よりも強い英雄だ。
その人がいればきっと多くの人が救われるのだ。
俺の大切な人たちが笑顔で暮らせる。
そのために俺にできることがあるなら、俺がやらない理由はない。
「……どうしてそんなにハロルド兵士団長を助けたいんですか? レイさんは兵士団のことなんて興味ないと思っていたのに、ちょっと意外です」
リックが寝返りを打つ気配がした。
静かな声が降ってくる。
俺は少し考えてから、リックに目を合わせて言った。
「……美味しいパンを食べたい人がいる。パン屋がパンを焼くのに、それ以上の理由なんていらないだろ」
わざと声を低くした俺にリックが微笑む。
「良い理由ですね。僕も手伝います、ハロルド兵士団長は僕の顔も覚えててくれました。僕もあの人の力になりたいです」
「そりゃありがたいけど、いいの? この話を頼んできたのはショーン曹長だけど」
俺が言うと、リックは声をあげて笑った。
「あははっ! 僕もレイさんの美味しいパン作りに一役買って、ショーン曹長を差し置いてハロルド兵士団長の右腕になります。青二才の逆襲です」
俺も笑って、ようやく胸の内がすっきりするのを感じた。
リックは強い。
身体や技だけじゃなく、折れない心がある。
覚悟を持った人間は、きっとこんなふうに強くなれるのだろう。
俺は覚悟を決めた。
胸に抱いたガラスのクッキーが俺にその方向を示してくれていた。
俺は相変わらずリックの部屋に寝袋を敷いて寝ている。
近頃はリックも気を遣わないでいてくれていて、平然と俺の体を跨ぐと自分のベッドに座った。
「なんです、それ」
「……ミーティがくれた。御守りなんだって」
一瞬迷ったが、黙っているのも変だと思って俺は正直にネックレスのことを話した。
子ども用のおもちゃのネックレスとはいえ、買い与えたのはおそらくリックだろう。言っておくに越したことはない。
「ミーティの? そんなの持ってたかな……」
「え? 俺はてっきりリックが買ってあげたものなのかと……大事なものなのかな、俺が持ってて大丈夫?」
「ああ、別にミーティが良いならいいんですよ。でも、もしかしたら兄さんがあげたものかもしれないです」
「兄さんって……それって大事なものじゃないか」
俺は驚いて起き上がった。
「だからレイさんにあげたんでしょうね。どんな話をしたんです? あんまり僕にヤキモチ妬かせないでくださいね」
リックは笑いながらベッドに寝転んだ。
「……フロッカーさんがエルダさんやミーティにも相談してみろって言うから」
「答えは出ましたか?」
俺はもう一度寝転んで、ミーティのくれたネックレスを握った。
ガラスはひんやりとして、ごちゃごちゃした俺の頭の中をクリアにしてくれる。
「……答えってほどじゃないよ。でも、俺はやっぱりハロルド兵士団長の力になりたい。フロッカーさんの言う覚悟の意味はわかるよ、でもここで踏み止まったら俺はこの先なにもできない気がする。俺が力になれるかもしれないなら、あの英雄を助けたいんだ」
俺は瞼の裏にミーティの寂しそうな顔を思い浮かべた。
人を襲う魔物がいなくなればミーティはあんな顔をしなくて済む。
父親を魔物に殺されてしまったミーティ。
口には出さなくても、きっとそんな世界に苦しんでいるはずだ。
そしてそのミーティのためにも兵士団を志願したリックも、きっと平和を望んでいる。だから剣を取った。
でも、大好きなリックがいくら自分のためでもあるとはいえ、そうすることにミーティは胸を痛めている。魔物と戦うということは魔物に殺されるかもしれないということだ。その業は、彼女の小さな体で抱えるにはあまりに重すぎる。
ショーン曹長が言っていたようにハロルド兵士団長が万全で戦うことは、たくさんの人が安心して暮らせる世界に繋がるのだろう。
剣も槍も使えて、武術も使える万能で誰よりも強い英雄だ。
その人がいればきっと多くの人が救われるのだ。
俺の大切な人たちが笑顔で暮らせる。
そのために俺にできることがあるなら、俺がやらない理由はない。
「……どうしてそんなにハロルド兵士団長を助けたいんですか? レイさんは兵士団のことなんて興味ないと思っていたのに、ちょっと意外です」
リックが寝返りを打つ気配がした。
静かな声が降ってくる。
俺は少し考えてから、リックに目を合わせて言った。
「……美味しいパンを食べたい人がいる。パン屋がパンを焼くのに、それ以上の理由なんていらないだろ」
わざと声を低くした俺にリックが微笑む。
「良い理由ですね。僕も手伝います、ハロルド兵士団長は僕の顔も覚えててくれました。僕もあの人の力になりたいです」
「そりゃありがたいけど、いいの? この話を頼んできたのはショーン曹長だけど」
俺が言うと、リックは声をあげて笑った。
「あははっ! 僕もレイさんの美味しいパン作りに一役買って、ショーン曹長を差し置いてハロルド兵士団長の右腕になります。青二才の逆襲です」
俺も笑って、ようやく胸の内がすっきりするのを感じた。
リックは強い。
身体や技だけじゃなく、折れない心がある。
覚悟を持った人間は、きっとこんなふうに強くなれるのだろう。
俺は覚悟を決めた。
胸に抱いたガラスのクッキーが俺にその方向を示してくれていた。
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