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第四章 偏食の騎士と魔女への道
30.約束
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甘くできあがったメロンパンを持って、俺はちょうど店を閉めたばかりのフロッカーさんに駆け寄った。
「フロッカーさん! これが新しいパンです、まだ温かいので出来立てを食べてみてください!」
「もう完成したのか? ふん……妙な模様だな、クッキーが全体に被せられて……」
フロッカーさんはカウンターを拭いていた手を止め、皿に乗せられたメロンパンをじっと見つめた。
「これが俺の作りたかったパンです。食べ慣れないとは思うけど、俺はどうしてもこれをハロルド兵士団長にも食べて欲しいと思ってます」
「……どれ、いただいてみよう」
フロッカーさんはメロンパンを手に取り、一口ほどにちぎった。
上に乗っていたクッキーがぽろぽろと皿の上に落ちる。
「がぶっといってください、がぶっと」
「クッキーが落ちて食べにくいな。城に献上する時には何か包みを工夫せにゃならんぞ」
フロッカーさんはさすがのオーナーらしく、パンの断面もよく眺めてからそれを口に含んだ。
「……どうでしょうか」
「……ああ。甘いな」
「甘くしてあるんです。これ以上ないくらい甘くて、美味しいパンです」
目を逸らさずに言い、ゆっくりと頷いた。
「……甘い。それに、バターや卵の風味がよくわかる。栄養という意味ではうちの他のパンとは比べ物にならんほどだな。おまえの覚悟がよくわかる」
俺は思わず唇を噛んだ。
どうしてか、そうしなければ涙が出そうだったのだ。
メロンパンには栄養がある。卵やバター、砂糖を贅沢に使い、いつ食べても美味しく、戦う力を出すためのパンなのだ。
「俺は……このパンで誰かの人生がちょっとでもよくなるんじゃないかって思ってます。今は俺が幸せだけど、他の誰かも」
「……ミーティにも食べさせてやりなさい。あの子は甘いものが好きだからな」
フロッカーさんはにっこりと笑い、俺にそう言った。
「ミーティ、入るよ」
俺はミーティの部屋をノックし、声を掛けた。
中から「はぁい」と返事がして、ドアがそっと開けられる。
「……レイ? 新しいパン、できたの?」
「できたよ。ミーティにも食べて欲しいんだ、持ってきたから入っていいかい?」
「嬉しいわ。どうぞ入って」
「失礼しまーす」
一歩部屋に踏み込むと、ミーティが慌てて振り向いた。
「あ、ドアは」
「少し開けておくんだったね。これが新しいパンだよ、メロンパン」
俺は入ってきたドアを完全に閉め切らずに、ミーティの前に皿を差し出した。
ミーティは皿を受け取るとベッドに腰掛け、小さな鼻をひくひくと動かした。
「すごく甘い匂いがする……クッキーみたいだわ」
「ミーティのくれた御守りと同じ、クッキーが上に乗ってるんだよ。甘くてふかふかした柔らかいパン」
ミーティは皿を膝に置くと、顔ほどもあるメロンパンを両手でそっと掴んだ。
「……どうやって食べたらいいかしら」
「ちぎるとぽろぽろ落ちちゃうから、ぱくっとそのまま食べてみてよ」
ミーティの前に跪くようにしゃがみ込んだ俺はパンを両手に持つような仕草と共にそう伝えた。
小さな口がそっと開かれ、メロンパンをかじる。
パンの柔らかさ、そして何より食感の違うクッキーの甘さに、ミーティの目が一瞬で輝くのがわかった。
「っ……美味しいわ……甘くて、ふかふかしててサクサクしててすごく美味しい。クッキーみたいだけどもっとほろほろしてて……すごいわ、レイは天才かもしれない」
「……俺じゃないよ。みんなが手伝ってくれたから」
「こんなに美味しいパンがあるのね……兵士団長さんも気に入ってくれると思うわ。あたしだったら、自分のためにこんなに美味しいパンを作ってくれた人がいるってだけで頑張れちゃう」
ミーティの賛辞は特別だった。
俺はミーティがメロンパンを全部食べきるのをそのままずっと見ていた。小さな口がどんどん頬張って、甘い匂いをさせながらメロンパンを飲み込んでいく。
俺をずっと助けてくれているミーティがたくさん食べてくれることが何より俺を安心させてくれた。
「喜んでもらえてよかった。ミーティが言うならばっちりだね、エルダさんとリックには甘すぎるって言われたけど」
「甘い方が美味しいわよ。それにこれ、白くて可愛いわ。模様もキルトのクッションみたいで可愛いし、あたしはこのパンが大好きよ」
「じゃあこのパンが売れて町で流行ったら、アクセサリー屋さんでこのパンのネックレスを作ってもらおう。俺が買ってミーティにプレゼントするよ、御守りの御礼に」
俺はミーティに貰ったネックレスを指先で摘んで見せながら、そう約束した。
「フロッカーさん! これが新しいパンです、まだ温かいので出来立てを食べてみてください!」
「もう完成したのか? ふん……妙な模様だな、クッキーが全体に被せられて……」
フロッカーさんはカウンターを拭いていた手を止め、皿に乗せられたメロンパンをじっと見つめた。
「これが俺の作りたかったパンです。食べ慣れないとは思うけど、俺はどうしてもこれをハロルド兵士団長にも食べて欲しいと思ってます」
「……どれ、いただいてみよう」
フロッカーさんはメロンパンを手に取り、一口ほどにちぎった。
上に乗っていたクッキーがぽろぽろと皿の上に落ちる。
「がぶっといってください、がぶっと」
「クッキーが落ちて食べにくいな。城に献上する時には何か包みを工夫せにゃならんぞ」
フロッカーさんはさすがのオーナーらしく、パンの断面もよく眺めてからそれを口に含んだ。
「……どうでしょうか」
「……ああ。甘いな」
「甘くしてあるんです。これ以上ないくらい甘くて、美味しいパンです」
目を逸らさずに言い、ゆっくりと頷いた。
「……甘い。それに、バターや卵の風味がよくわかる。栄養という意味ではうちの他のパンとは比べ物にならんほどだな。おまえの覚悟がよくわかる」
俺は思わず唇を噛んだ。
どうしてか、そうしなければ涙が出そうだったのだ。
メロンパンには栄養がある。卵やバター、砂糖を贅沢に使い、いつ食べても美味しく、戦う力を出すためのパンなのだ。
「俺は……このパンで誰かの人生がちょっとでもよくなるんじゃないかって思ってます。今は俺が幸せだけど、他の誰かも」
「……ミーティにも食べさせてやりなさい。あの子は甘いものが好きだからな」
フロッカーさんはにっこりと笑い、俺にそう言った。
「ミーティ、入るよ」
俺はミーティの部屋をノックし、声を掛けた。
中から「はぁい」と返事がして、ドアがそっと開けられる。
「……レイ? 新しいパン、できたの?」
「できたよ。ミーティにも食べて欲しいんだ、持ってきたから入っていいかい?」
「嬉しいわ。どうぞ入って」
「失礼しまーす」
一歩部屋に踏み込むと、ミーティが慌てて振り向いた。
「あ、ドアは」
「少し開けておくんだったね。これが新しいパンだよ、メロンパン」
俺は入ってきたドアを完全に閉め切らずに、ミーティの前に皿を差し出した。
ミーティは皿を受け取るとベッドに腰掛け、小さな鼻をひくひくと動かした。
「すごく甘い匂いがする……クッキーみたいだわ」
「ミーティのくれた御守りと同じ、クッキーが上に乗ってるんだよ。甘くてふかふかした柔らかいパン」
ミーティは皿を膝に置くと、顔ほどもあるメロンパンを両手でそっと掴んだ。
「……どうやって食べたらいいかしら」
「ちぎるとぽろぽろ落ちちゃうから、ぱくっとそのまま食べてみてよ」
ミーティの前に跪くようにしゃがみ込んだ俺はパンを両手に持つような仕草と共にそう伝えた。
小さな口がそっと開かれ、メロンパンをかじる。
パンの柔らかさ、そして何より食感の違うクッキーの甘さに、ミーティの目が一瞬で輝くのがわかった。
「っ……美味しいわ……甘くて、ふかふかしててサクサクしててすごく美味しい。クッキーみたいだけどもっとほろほろしてて……すごいわ、レイは天才かもしれない」
「……俺じゃないよ。みんなが手伝ってくれたから」
「こんなに美味しいパンがあるのね……兵士団長さんも気に入ってくれると思うわ。あたしだったら、自分のためにこんなに美味しいパンを作ってくれた人がいるってだけで頑張れちゃう」
ミーティの賛辞は特別だった。
俺はミーティがメロンパンを全部食べきるのをそのままずっと見ていた。小さな口がどんどん頬張って、甘い匂いをさせながらメロンパンを飲み込んでいく。
俺をずっと助けてくれているミーティがたくさん食べてくれることが何より俺を安心させてくれた。
「喜んでもらえてよかった。ミーティが言うならばっちりだね、エルダさんとリックには甘すぎるって言われたけど」
「甘い方が美味しいわよ。それにこれ、白くて可愛いわ。模様もキルトのクッションみたいで可愛いし、あたしはこのパンが大好きよ」
「じゃあこのパンが売れて町で流行ったら、アクセサリー屋さんでこのパンのネックレスを作ってもらおう。俺が買ってミーティにプレゼントするよ、御守りの御礼に」
俺はミーティに貰ったネックレスを指先で摘んで見せながら、そう約束した。
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