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第四章 偏食の騎士と魔女への道
34.魔女の夢
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「楽しみだなぁ、ハロルド兵士団長が食べるところ見られますかね? 甘党なら美味しいって言って気に入ってくれますよねぇ」
「……なんでリックはそんなに楽しそうにしてられるんだよ。俺はこんなに緊張してるのに……」
「え? 緊張? なんでですか?」
鼻歌でも歌いそうな軽い足取りのリックに、俺はわざと大きな溜め息を深く吐き出してから答えた。
「もし何かミスがあったら大変じゃないか……悪気はなくても美味しくなかったって言われただけでも俺は気絶しそうだよ」
「うーん……気に入ると思いますけどね。クッキー部分が良いですよね、ふわふわのパンとこんなに合うと思わなかった」
「……クッキーはローザさんが作ったからな」
「ローザは昔から器用ですからね。料理も上手いし魔法も使えるし、なんでもできちゃうんですよ」
少し迷ってローザさんの名前を出した俺だが、リックは別に何も思っていないというようにさらりと答えた。
「……許嫁なら見送りくらいした方が良かったんじゃないの? ミーティはいなかったんだし」
少し突っ込んだことを言って、俺は反応を窺うようにリックを横目で見た。
「僕の見送りなんて求められてませんよ。レイさん、ローザが気になるんですか?」
「っ、気になるってなんだよ! り、リックの許嫁にそんなことあるわけないだろ!」
予想もしなかったことを言われて動揺した俺は、慌ててパンを入れたカゴを落とさないように抱え直した。
「……レイさんだから言いますけど、ローザと僕は結婚しませんよ。お互い父親がそう言ってるだけですから」
「……」
俺は夜中に二人の会話を聞いてしまったことを言おうか迷ったが、リックが意味ありげに息を吸ったので次の言葉を待つために黙った。
「ローザにはずっと昔から好きな人がいるんですよ。お父さんに反対されるのがわかってるから、僕と結婚するなんて言ってるけど」
「え……好きな人って、リックの他に?」
「僕はただの幼馴染です。でも、幼馴染だから全部知ってるんです。ローザの住んでる町の教会の神父さん。ローザの魔法はその人に教わったものなんですよ」
リックはまるで悪戯をした子どものように無邪気に言い、楽しそうに笑っていた。
「神父さんって……ええと、じゃあ結婚はできないってこと?」
「神父でも結婚する人もいますよ。反対されるのはそういう理由じゃなくて、その人の夢が世界中を旅することだからです。ローザはついていきたいと思ってるけど、粉屋の一人娘で家を継がなきゃなりませんから」
それはローザさんが、夢がある人が素敵だと言っていた理由に他ならなかった。
ローザさんはリックのことではなく、世界中を旅したいという夢を持ったその神父さんのことを思い浮かべながら話していたのだろう。
世界中を旅する。
壮大で、きっと大きな覚悟が必要な夢だろう。
「だから、あんなこと……」
「僕は別に無理に家を継ぐ必要なんてないと思いますけどね。ローザの家には長く働いている人もたくさんいますし、その人たちに店を任せてローザも好きなことをすればいいんですよ。ずっと前から好きな人がいて、その人のために魔法だって覚えて、それなのに全部諦めて僕と結婚する人生なんてつまらないでしょ?」
リックは歩きながら思いっきり腕を伸ばして笑う。
まるで何も自分を閉じ込めることはできないのだと言うように空を仰いだ。
「……ローザさんは優しいんだね」
「優しくて、強いんです。おまけに美人で頭も良くて、僕の自慢の幼馴染です」
俺は今度こそ本当にローザさんの話をするのはやめようと思った。
リックが心の底からローザさんの幸せを願っているのがわかったからだった。
「……なんでリックはそんなに楽しそうにしてられるんだよ。俺はこんなに緊張してるのに……」
「え? 緊張? なんでですか?」
鼻歌でも歌いそうな軽い足取りのリックに、俺はわざと大きな溜め息を深く吐き出してから答えた。
「もし何かミスがあったら大変じゃないか……悪気はなくても美味しくなかったって言われただけでも俺は気絶しそうだよ」
「うーん……気に入ると思いますけどね。クッキー部分が良いですよね、ふわふわのパンとこんなに合うと思わなかった」
「……クッキーはローザさんが作ったからな」
「ローザは昔から器用ですからね。料理も上手いし魔法も使えるし、なんでもできちゃうんですよ」
少し迷ってローザさんの名前を出した俺だが、リックは別に何も思っていないというようにさらりと答えた。
「……許嫁なら見送りくらいした方が良かったんじゃないの? ミーティはいなかったんだし」
少し突っ込んだことを言って、俺は反応を窺うようにリックを横目で見た。
「僕の見送りなんて求められてませんよ。レイさん、ローザが気になるんですか?」
「っ、気になるってなんだよ! り、リックの許嫁にそんなことあるわけないだろ!」
予想もしなかったことを言われて動揺した俺は、慌ててパンを入れたカゴを落とさないように抱え直した。
「……レイさんだから言いますけど、ローザと僕は結婚しませんよ。お互い父親がそう言ってるだけですから」
「……」
俺は夜中に二人の会話を聞いてしまったことを言おうか迷ったが、リックが意味ありげに息を吸ったので次の言葉を待つために黙った。
「ローザにはずっと昔から好きな人がいるんですよ。お父さんに反対されるのがわかってるから、僕と結婚するなんて言ってるけど」
「え……好きな人って、リックの他に?」
「僕はただの幼馴染です。でも、幼馴染だから全部知ってるんです。ローザの住んでる町の教会の神父さん。ローザの魔法はその人に教わったものなんですよ」
リックはまるで悪戯をした子どものように無邪気に言い、楽しそうに笑っていた。
「神父さんって……ええと、じゃあ結婚はできないってこと?」
「神父でも結婚する人もいますよ。反対されるのはそういう理由じゃなくて、その人の夢が世界中を旅することだからです。ローザはついていきたいと思ってるけど、粉屋の一人娘で家を継がなきゃなりませんから」
それはローザさんが、夢がある人が素敵だと言っていた理由に他ならなかった。
ローザさんはリックのことではなく、世界中を旅したいという夢を持ったその神父さんのことを思い浮かべながら話していたのだろう。
世界中を旅する。
壮大で、きっと大きな覚悟が必要な夢だろう。
「だから、あんなこと……」
「僕は別に無理に家を継ぐ必要なんてないと思いますけどね。ローザの家には長く働いている人もたくさんいますし、その人たちに店を任せてローザも好きなことをすればいいんですよ。ずっと前から好きな人がいて、その人のために魔法だって覚えて、それなのに全部諦めて僕と結婚する人生なんてつまらないでしょ?」
リックは歩きながら思いっきり腕を伸ばして笑う。
まるで何も自分を閉じ込めることはできないのだと言うように空を仰いだ。
「……ローザさんは優しいんだね」
「優しくて、強いんです。おまけに美人で頭も良くて、僕の自慢の幼馴染です」
俺は今度こそ本当にローザさんの話をするのはやめようと思った。
リックが心の底からローザさんの幸せを願っているのがわかったからだった。
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