惣菜パン無双 〜固いパンしかない異世界で美味しいパンを作りたい〜

甲殻類パエリア

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第四章 偏食の騎士と魔女への道

61.点火

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 リックは庭の辺りにある石と枯れ枝を拾い集めると、手早く焚き火の用意をしてくれた。

「すごいな、ずいぶん慣れてるようだけど」
「そりゃあ僕は町の外にパンを売りに行くこともありますからね。野宿をする時には火を焚いておかないと魔物が寄ってくることもありますし」
「へぇ……それで、ここからどうやって火を付けるの?」
「火打石を持ってきていますから」

 カチカチと石と鉄を打ち鳴らすと、リックが木の枝の上に用意した紙にすぐに火が付いた。
 この辺りの気候が乾燥しているせいか、火はすぐに燃え上がって大きくなった。

「すごいな!」
「こういう時に魔法が使えたら便利なんですけどねぇ」
「魔法?」
「火を出す魔法です。でも意外と難しいんですよね、適性もあるみたいで……魔法が使えると兵士団でも重宝されるそうなので、使えたらよかったんですけど」

 リックは困ったように笑ったが、魔法なんてなくても簡単に火を起こせるので十分に思える。
 もし魔法が使えるようになるとしたら、魔法でしかできないことができるようになる方がずっと魅力的だ。

「火を起こすよりどこでも飛んでいけるとか、一瞬で回復できる魔法の方が便利そうだけどなぁ」
「飛ぶのはともかく、回復魔法はそんなに難しくないそうですよ。洞窟の魔物が倒されて道が通れるようになったらローザのところへ行って習うと良いですよ」
「……そうだね。そのためには、この実験を成功させなきゃ」

 俺は持ってきていた固くなったメロンパンと、城から預かった鉄の箱の用意をした。

「二つ入れてやってみますか?」

 二段になった鉄の箱の中を見てリックが首を傾げる。

「いや……今は固くなったメロンパンの数が限られるだろ? だから実験は一つずつやってみよう。同じ条件で二つやっても仕方ないし」
「なるほど。じゃあ、上の段に入れますか? 下の段の方が火が近くて熱は通りやすそうですが」
「うーん……」

 俺は腕を組んで考える。
 単純に温めるだけでも多少は柔らかくなるだろうが、あまり火が強すぎるとパンは乾燥してかえって固くなる。だとすれば、火が強くあたりすぎない上の段に入れた方が良いかもしれない。

「……上にします?」
「……ああ、俺って優柔不断だよな……とりあえずやってみるってことができないんだから。どっちがいいんだろうな……」
「あはは、まあとりあえずやってみましょう。まずは上の段で、その次に下の段に入れてやってみたらいいじゃないですか」

 リックがそう言って固いメロンパンを上の段に入れたので、俺はその案に乗ることにした。

「これ、このまま直火でいいのかな? 何かに吊るして火から少し離さないで平気?」
「箱は鉄だから大丈夫だと思いますが、心配ですか? 家に帰ればキャンプ用の道具がありますが……」
「あーいやいや、ごめん! なんか俺、心配ばっかりだな。今日はとりあえずこれでやってみよう」

 心配ばかりで先に進まないことに俺自身が恥ずかしくなってしまい、結局そのまま火の上に箱を置くことにした。
 固いメロンパンはまだいくつかある。
 挑戦あるのみ、だ。

「どれくらいの時間やったらいいんですかね?」
「たぶん匂いがしてくるはずだよ。砂糖がついてるから、あまり長くやりすぎると焦げる匂いもするはずなんだ。その少し前、香ばしい匂いが強くなってきたら一度出してみよう」
 
 リックは頷き、小さな懐中時計を出してくれた。
 風がないので焚き火の煙は真っ直ぐに空へ伸びていく。
 俺たちは時々その煙に咽せたり、火の中に枯れ枝を足したりしながらその時を待った。
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