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第四章 偏食の騎士と魔女への道
66.不機嫌
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「……きみたちが忙しいのは理解しているんだが、昨日は大変だったんだぞ」
検分用のメロンパンを食べながら珍しくショーン曹長がぼそりと言った。
クドゥスさんの家の庭でリベイクの研究をした俺たちは翌日、焼きたてのメロンパンと鉄の箱、そしていくつか固くなってしまったメロンパンを持ってお城を訪れていた。
「大変というと?」
「……ハロルド兵士団長がメロンパンがないせいで一日中不機嫌だった」
「……」
「いや! 別に毎日来いとも言っていないからきみたちが悪いわけではない、ハロルド兵士団長だってもちろんそのことは理解している。しているが、昨日はちょうど城の料理長も休みを取っていて、料理長だけが作れるハロルド兵士団長好みの食事が出なかったんだ。不幸が重なったんだ」
ショーン曹長は聞かずとも説明を始め、盛大な溜め息を吐いた。
「それはそれは……すみません、本当に」
「ハロルド兵士団長が不機嫌だとどうなるんですか?」
怖いもの知らずのリックが尋ねると、ショーン曹長は眉間に深過ぎる皺を寄せて声を落とした。
「……兵士団員全員、ハロルド兵士団長と一対一の打ち込み稽古だ。一発入れるか気絶するまで止まらんのだ」
「えー! そんなのご褒美じゃないですか!」
「何がご褒美だこの馬鹿者が! おまえもやってみろ!」
馬鹿者のリックは怒鳴られて全身をビリビリさせていたが、それでも口を閉じる気はないらしい。
「やっていいなら僕もやりたいですよ……ちなみにショーン曹長はハロルド兵士団長に一発入れられたんですか? それとも気絶しました?」
「……ふん。肩に一発だ、俺は体力にもそれなりに自信があるんでな。そこらの兵士と一緒にするな」
「体力?」
「俺だけで六十九回打ち合ったんだ。さすがに五十人以上を転がした後のハロルド兵士団長も肩で息をしていた」
「なぁんだ、疲れてたハロルド兵士団長相手かぁ」
「おまえは本当に腹が立つ奴だな!?」
「わーっ! もうリック黙ってくれよ! ショーン曹長! もうリックの話は聞かなくていいから早く案内してください!」
一触即発の二人の間に入りながら俺は二人の屈強な体をグイグイ押していつもの応接間を目指した。
「待ってたぞ、諸君」
応接間で俺たちを迎えたのは当然、満面の笑みのハロルド兵士団長である。
「……お待たせ致しました」
さっきの話を聞いた俺はなんだかどんな目でハロルド兵士団長を見たら良いかわからず頭だけを下げて挨拶した。
「昨日は来てくれなくて寂しかったぞ。でもきっとまたすぐに来てくれるだろうと楽しみにしていたんだ、今日も持ってきてくれたんだよな?」
「え、ええ……あの、でも今日はお借りした箱でのリベイクの方法をお話ししたくて」
メロンパンが待ち切れないのかそわそわと体を揺らすハロルド兵士団長に、まずは焼きたてのメロンパンを差し出しながら言った。
メロンパン作りもずいぶん慣れて、前日と朝と準備を分けながら効率良く焼けるようになってきている。
「そうか! それは……おい、ショーン。おまえがちゃんと聞いてくれ」
「……あの、やはりリベイクはショーン曹長が担当されるんでしょうか?」
俺は勇気を出して尋ねた。
もしリベイクをしてもらうなら、やっぱり少しは練習が必要になる。色々な意味でそんなことをショーン曹長が本当にやるのか、心配には違いない。
「……私では不満か?」
「あっ、そういう意味ではなくて……結構大変なんです、昨日やってみてわかったんですが、視覚と嗅覚で判断するしかない微妙な加減のことなので……」
俺はリックがまとめてくれたメモを上等な紙(ミーティが集めていた可愛らしい便箋のうち、少し真面目そうに見えるものだ。)に書き写したものをショーン曹長に見せた。
検分用のメロンパンを食べながら珍しくショーン曹長がぼそりと言った。
クドゥスさんの家の庭でリベイクの研究をした俺たちは翌日、焼きたてのメロンパンと鉄の箱、そしていくつか固くなってしまったメロンパンを持ってお城を訪れていた。
「大変というと?」
「……ハロルド兵士団長がメロンパンがないせいで一日中不機嫌だった」
「……」
「いや! 別に毎日来いとも言っていないからきみたちが悪いわけではない、ハロルド兵士団長だってもちろんそのことは理解している。しているが、昨日はちょうど城の料理長も休みを取っていて、料理長だけが作れるハロルド兵士団長好みの食事が出なかったんだ。不幸が重なったんだ」
ショーン曹長は聞かずとも説明を始め、盛大な溜め息を吐いた。
「それはそれは……すみません、本当に」
「ハロルド兵士団長が不機嫌だとどうなるんですか?」
怖いもの知らずのリックが尋ねると、ショーン曹長は眉間に深過ぎる皺を寄せて声を落とした。
「……兵士団員全員、ハロルド兵士団長と一対一の打ち込み稽古だ。一発入れるか気絶するまで止まらんのだ」
「えー! そんなのご褒美じゃないですか!」
「何がご褒美だこの馬鹿者が! おまえもやってみろ!」
馬鹿者のリックは怒鳴られて全身をビリビリさせていたが、それでも口を閉じる気はないらしい。
「やっていいなら僕もやりたいですよ……ちなみにショーン曹長はハロルド兵士団長に一発入れられたんですか? それとも気絶しました?」
「……ふん。肩に一発だ、俺は体力にもそれなりに自信があるんでな。そこらの兵士と一緒にするな」
「体力?」
「俺だけで六十九回打ち合ったんだ。さすがに五十人以上を転がした後のハロルド兵士団長も肩で息をしていた」
「なぁんだ、疲れてたハロルド兵士団長相手かぁ」
「おまえは本当に腹が立つ奴だな!?」
「わーっ! もうリック黙ってくれよ! ショーン曹長! もうリックの話は聞かなくていいから早く案内してください!」
一触即発の二人の間に入りながら俺は二人の屈強な体をグイグイ押していつもの応接間を目指した。
「待ってたぞ、諸君」
応接間で俺たちを迎えたのは当然、満面の笑みのハロルド兵士団長である。
「……お待たせ致しました」
さっきの話を聞いた俺はなんだかどんな目でハロルド兵士団長を見たら良いかわからず頭だけを下げて挨拶した。
「昨日は来てくれなくて寂しかったぞ。でもきっとまたすぐに来てくれるだろうと楽しみにしていたんだ、今日も持ってきてくれたんだよな?」
「え、ええ……あの、でも今日はお借りした箱でのリベイクの方法をお話ししたくて」
メロンパンが待ち切れないのかそわそわと体を揺らすハロルド兵士団長に、まずは焼きたてのメロンパンを差し出しながら言った。
メロンパン作りもずいぶん慣れて、前日と朝と準備を分けながら効率良く焼けるようになってきている。
「そうか! それは……おい、ショーン。おまえがちゃんと聞いてくれ」
「……あの、やはりリベイクはショーン曹長が担当されるんでしょうか?」
俺は勇気を出して尋ねた。
もしリベイクをしてもらうなら、やっぱり少しは練習が必要になる。色々な意味でそんなことをショーン曹長が本当にやるのか、心配には違いない。
「……私では不満か?」
「あっ、そういう意味ではなくて……結構大変なんです、昨日やってみてわかったんですが、視覚と嗅覚で判断するしかない微妙な加減のことなので……」
俺はリックがまとめてくれたメモを上等な紙(ミーティが集めていた可愛らしい便箋のうち、少し真面目そうに見えるものだ。)に書き写したものをショーン曹長に見せた。
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