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第一生 子猫とジャガーとドリンク無双
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「止められる者がそうおらぬからこそ、その状況にならぬよう一等警戒されて当然でありましょうぞ……」
「ふっ、知らぬのぉ~。ワシはジェッゾを警戒せん。ワシがそう決めた。自身の騎士に気を許さぬ主君が慕われることなどありはせんのが王の道理じゃ」
「まったく……悪いお人だ」
ニヤリとほくそ笑む皇帝にやれやれとため息を吐くジェゾだが、今度は困っているようには見えなかった。
目が合うと、笑いあう。
二人は仲がいいのだろう。
「さて、まずは報告を聞くかの。お楽しみはあとじゃ。もちろん野暮な形式は早々取り払って申すのじゃぞ?」
「ふ。ワガママな主君を持つと部下は退屈しませんな」
「…………」
一斉は一歩身を引いた。
自然体で会話する既知の二人は身分も見た目も違うが、ジェゾの空気がなんとなく穏やかになっている。
その空気を感じると、微笑ましいような羨ましいような嬉しいような困ったような、妙な気分になった。
悪くはないけれど、どうも胃のあたりがモゾモゾする。
濃くない髭を伸ばそうかとも思ったし、ジェゾ、と呼びかけたい衝動が喉元にのぼって油断すると溢れそうにもなる。
「イッサイ」
腹に手を当てながら二人をぼう、と眺めていると、報告が終わったらしいジェゾに手招きされた。
すると、喉元にのぼった衝動が大人しく腹の中へ引っ込む。
呼ばれて嬉しい。
幼稚だろうか。だけど嬉しい。一斉はちょこちょこと歩み寄る。
「来たぜ」
「よし。では挨拶をせよ」
大きな体を見上げると、皇帝の前にトンと背中を押し出された。
ほんの一瞬躊躇する。
本当にほんの一瞬。
頭が悪いので、権力者には嫌われる。だから挨拶をするとジェゾが恥をかくかもしれないか、挨拶をしないのもジェゾが恥をかく。
どちらにせよ迷惑をかけるなら、したほうがマシか。
そう結論するまですぐだった。一秒もない瞬き一度ぶん。
下がる足を抑えて口を開こうとした。
「ん……?」
けれど一斉が口を開きかけた時。声を発するより先に、ジェゾが一斉の肩を抱いて不思議そうに変化のない顔をのぞき込んだ。
「イッサイ、己の子猫。お主はよいこだ。怖がることはない」
「あぁ。怖くは、ねぇけど」
「では、嫌がるな」
カプ、と頬を甘噛みされ、そのままざらついた舌で目尻を舐め上げられる。
図星だ。一斉は確かに嫌がった。
ほんの一瞬の躊躇だったのに嫌がっていると見破られてしまった。
熟練したハンターのジェゾには、立ち方や微かな動きの不自然から一斉の感情など筒抜けだ。機微が少ないので読みにくいものの、読めないことはない。
嫌がっていたとバレてしまい決まりが悪い。叱られるだろうか?
そう思ったが、ジェゾは責めることなく柔らかな肉球で一斉の肩をなでる。
「皇帝陛下は己がこれと決めた無二の主君でな。悪いようにはしないと言っただろう? 己は約束を破らぬよ。皇帝陛下は無知なだけでお主を咎めたりせん」
「……ん。嫌じゃねぇ。なくなった」
「それは僥倖」
優しく触れながらジェゾに言い聞かせられ、一斉はコクリと頷いた。
頬に額を擦りつけて、離れたジェゾを名残惜しく思う。
ジェゾに子猫扱いとはいえ甘やかされると、胸がゆるりと蒸される。
「なんとまぁ……あのジェッゾが人間の男に触れて、ネーロネーロと……言葉のまま、猫っ可愛がりじゃな……」
「…………!」
そんな一斉とジェゾのやり取りを見ていた皇帝が目を丸くし、落ち着かないように顎髭を梳きながら呟いた。
ジェゾは〝しまった!〟とでも言いたげな様子で身を正し、ゴホンと咳払いをする。一斉は特段変わらない。
皇帝は興味深そうにじーっとジェゾを見つめる。目をそらすジェゾ。一斉は特段変わらない。
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