喫茶つぐないは今日も甘噛み

木樫

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第二生 もぎたてフレッシュ喫茶店

15※微



「ぁ、なん、っ……ジェ、ゾ」

「フフ……さてね。おれにもわからぬ。初めて戯れに繕ってやった夜から、お主は変わらず敏感で、期待ばかりの甘ったれた子猫だった。己はその気なら構わぬものを、お主はどうもただの本能を恥じ隠したがる」

「そこは、っひ」

「奇妙な性分だと思いながらも、気がかるならそれもよかろうと好きにさせておったのに、な」

「ジェゾ……っなぁ、ジェゾ……」

「イッサイ。己の子猫ネーロ。お主の飼い主は存外、性が悪いのだぞ?」

「ンッ……!」


 ピチャ、ピチャ、と耳朶の奥まで嬲る舌に酔う最中、胸の突起を強く捻られビクッ……と背が仰け反った。

 熱い軟体生物がヌルリと絡みつく音を鼓膜に感じて首を竦める。
 毛むくじゃらの指が乳首を愛撫し、空いた片手のひらが揶揄うように、下着の上から膨らみかけた跨ぐらをなする。


「ゃ……マ、ズイって、ジェゾ……は、っふ……ジェゾこれ、マズイ……」

「いいや? お主はウマイ。マズかろうと己は困らんが」

「そういうんじゃねぇよ……そういうんじゃなくて俺、俺は…っぁ……ん……」

「くく、抗うな。頭で捏ねた誘い文句より感情で欲しがれ」

「いま難しいこと、わかんねぇ……っから、よ……」


 抵抗らしい抵抗もせず、されどジェゾの舌と手にわけもわからず翻弄され、一斉はもう暴れ出しそうだった。

 ぬちゃりと足の間で糸が引く。
 嫌になるくらいその気だ。
 我慢していたのになぜ暴く?

 嫌がれるわけない。嫌なわけない。欲しくないわけないのに、やにわに踏み込んで、追い込んで、与えて。


「く…ぅ……ぅぅ……っ」


 ユルユルと頭を振り、まゆ根を寄せ、一斉はゾクゾクゾク……ッと襲い来る快感の波に悶えて感じ入る。

 乱れた呼気だけをこもらせていた喉が震え、中心を当てこすりながらキュ、キュ、と絶妙に胸を抓られるたびに、ヒクついた鳴き声が微かに溢れた。


「ぅぁ……っふ、…ぁ……」


 低く掠れた男の声。
 それを更に押し殺し、吐息で甘えるかのように切なく喘ぐ。


「ぁ…ぁ……ァ…ァ……ッ」


 たまらない声で鳴くものだと、ジェゾはグルルと喉を鳴らし、手の下でヌメリを増して膨らむモノをぐちゅぐちゅといっそう扱く。

 すると一斉は死にたいくらいもどかしげな顔をして、泣きたいくらい困り果てた仕草で、夜の娼婦よりよっぽど貪欲に刺激を求めて声を上げた。

 無意識に自ら中心を慰めようと手が伸びるが、白毛の腕に当たり躊躇する。

 躊躇するが堪えきれず、再び伸ばしかけた手をあげた一斉は、両手でクシャクシャになった目元を覆った。


「こ……こんなんしてちゃダメなんだよ……こんな感じてちゃダメなんだよ……」


 ジェゾは「ほう」と興味深そうに相槌をうつ。
 布越しに性器をなぞる手も胸の尖りを摘む指も止まらず、一斉は「ほんとなんだよ」と矢継ぎ早に言葉を重ねた。


「俺人を殺っちまったんだ……償うために生きてんだ……イイことなんかダメだぜ……イイ思いしちゃいけねんだ……」

「誰かがそう言ったのか」

「言ってねけど、ぁ、ンっン……」


 チュク、チュ、と耳朶を嬲っていた舌が下がり、放置されていたもう片方の尖りにヌルリと絡む。

 一斉はずっと、ジェゾがなにを言っていて、なにを言わせたいのかわからなかった。

 わからなかったから、自分がなぜこの世界にいるのか、どうして喫茶店を作るのか、償いたいあの人のこと、償わせてくれたあの神のことを身を震わせながら途切れ途切れ、必死に話した。

 世界の誰かが言わずとも、自分は償い以外を優先させてはならない。

 死に際に人を巻き込んでおいて、自分の意思を混ぜちゃいけないだろう?


「くく、傲慢だな」

「っ……ふ」


 殺してと願うような声でそう言う一斉に、ジェゾはあっけらかんと笑って僅かな肉ごとガブ、と突起を噛んだ。


「矛盾している。罪罰故におのれの都合を捨てるというのは、お主の都合ではないか」

「お主が憎いなら不幸を望めばいいものをしなかったのなら、その者はそれを望んでおらん。仮にその者の家族がお主の不幸を望んだとしても、お主らは当人の意志より自己の意志を優先するのか? それこそお門違いよ。溜飲を下げたいだけの無礼千万。他人の意志を勝手気ままに決めつけて……よいか、イッサイ」

「胸のしこりを自傷で慰めるな。人目の無い山奥で体はひとりでに動かぬ。望んで助け、結果死んだ。その者の誇りをただただ貴べ」

「お陰様で死ぬほど幸福だと、生涯恩人と仰いで生きろ」


 報い方などそれだけだ。
 ジェゾはそう言って、しょうがないやつめ、とばかりに一斉の鳳凰を傷がつくほどガブリと強く咥える。

 普段は加減してやっているだけで、ジェゾの牙は鋭い。
 鍛えた男の体だろうと、容易く皮膚を凹ませ血の滲む歯型を刻める。

 小さく薄らと残るものがほとんどでハッキリ残るものが少しの傷だらけな体に、わざわざ生々しい歯型を残す。

 今の一斉にはそれが嬉しかった。

 痛めつけられたい。酷く。
 立仲への罪悪感からではなく、バカな自分に呆れ半分、笑い半分、早鐘を打つ赤裸々な鼓動の燃料がほんの少し。
 泣きたい理由がその半分。

 笑って馬鹿らしいとあぁ指摘することも、噛みつくことも、厳しく見えてまるで甘ったるい等身大のジェゾの情。


「わかったか?」

「……ジェゾ、……俺」

「ん?」


 人生最大規模の話をただの呆れた笑い話に変えられて、やっと開いた口火を、至極当然に受け止められる。

 ジェゾは真一文字に結ばれた一斉の唇を、ベロリと舐めて促す。

 我慢なんてバカらしい。
 認めてしまえば楽になる。
 さぁ丸裸の要求はなんだ? と。

 そう求めているのだ。
 全部わかっているくせに。

 相手はそんな大人だった。
 意識しなくとも起伏の少ない表情も、些細な思案も、隠し通す気だった欲情も、一斉の全てを暴かず自然と察知できる熟練ハンター。

 だが、これはきっとわからない。
 これだけはきっと知る由もない。


「俺……キスシてぇよ……」


 ──今この瞬間、目の前のちっぽけな人間がおのれに惚れ込んだことなんて。




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