喫茶つぐないは今日も甘噛み

木樫

文字の大きさ
69 / 81
第三生 現地住民舐めたらアカン

05

しおりを挟む


 ──翌日。

 ジェゾがダンジョンに出勤している間、一斉は喫茶店の二階にある居住スペースで寝泊まりしている。

 喫茶店のほうがダンジョンの入口に近いからだ。近いほうがいい。
 屋敷でネバルのような命知らずと鉢合わせるより多少安心できる。


「さて、己はまたしばらくダンジョンに籠るが……イッサイ、迂闊に店から出るなよ。用は全てネバルを使え。身の危険時のみ抗い、人攫いには従わず、タカリや金虫等慮外者には望むままくれてやれ。のちに己が散歩がてら首を狩ろう。お主は手も足も出すでないぞ。飛びかかるな。客が来ずとも励み、昼寝と食事は怠るでない。わかったな?」

「あぁ」

「よし。では行ってくる」


 いつも通り一斉を喫茶店まで送り届けたジェゾは、チュ、と産毛の生えた唇で口付けてから仕事場へ向かった。

 塀、屋根、空中花壇に飛行者用の止まり木や桟橋など、見慣れた街並み。

 ──それらをヒョイヒョイと我が物顔で進みながら、考えるは一斉のこと。

 いやまぁ、別に。
 特段、考える事柄などないのだ。

 ああ見えて怠惰でマイペースで頑固な上に頭を使うより断然手が早い一斉だが、見張りもつけているしもう何度も留守番させている。たかが数日、心配するような歳の子猫でもない。そもそも一斉を縛りつける権利などないはず。

 問題なかろう? 目を離しても。

 それなりに聞き分けのいい男だ。
 言いつけを守って待つだろう。

 それに関しては心から案じていない。これは本当。おそらく。

 近くの木から音もなく降って湧いた白毛の猛獣を見るや直立不動の敬礼で送り出す入宮管理人たちには視線をやらず、軽く尾を振って挨拶を返し、ジェゾは顎に手を当てたままノシノシとダンジョンの奥へと進む。

 一定階層ごとに設置されている転移ポータルを使い、一日目の肩慣らしにめぼしい中階層へ移動。

 [地下迷宮ドゥーラ・バッタリア]。

 ジェゾの狩り場は、聖ジェリエーロ帝国が所有する世界最大の迷宮型ダンジョンである。

 ここはバカほど深い。
 上層は野生動物に毛の生えた無害なモンスターが多いが、下層に行くほどハイレベルのモンスターが湧き、階層ごとに景色も変わる。
 地下迷宮なのに大自然や青い空が当然で外と同じく昼夜があり、火山も森林も海も沼地もなんでもござれ。

 おかげで資源には事欠かない国なのだが、豊かなのか死と隣り合わせなのかよくわからない立地だろう。

 しかしそんな危険なダンジョンをものともしない生まれも育ちも大自然の玄人ハンターなジェゾは、やはり、顎に手を当て渋い表情のまま歩いているのだ。

 それがなぜだか、ジェゾ自身にもこれと言える理由がなかった。

 こういう気分は好かない。

 グルル、と舌打ちのように唸る。
 自分の領分の答えがわからないなんて、呆れるほどバカげた話だ。

 自分はいったいなんの答えを求めているのだ? なにを考えたい?

 なにが引っかかっているのやら。


「はぁ……まったく手のかかる」

「ギャンッ!」


 ──気を悪くするでない、おれよ。

 ジェゾは死角に忍び寄る木の幹ほど太い大蛇の鼻先を、振り向きもせずにパンッ! と 裏拳で殴った。

 そのままため息混じりに大蛇の首を片腕でヘッドロックして骨をへし折り、虫の息の頭を叩き潰して数メートルある死骸を小脇に抱く。

 樹上の奇襲。大木の枝を跳んで移動するとよくあることだ。
 肉は食料、骨や皮は素材になり、持ち運び用の拡張収納パックに詰めれば荷物にもならず、特に手はかからない。

 手がかかるというのは、白毛で巨体の獣なんかを言う。

 関係は良好で、暮らしは順調。

 考えなければならないことなどなにもないほど安定しているはずなのに、ほんの少しの変化が、口にする言葉が、視線が、仕草が、欲が、読めない意図が、それらの理由が──根こそぎ知りたい。


「厄介だな。……気に入りすぎた」


 自分のワガママさ、難解さ、手のかかりようをよく知るジェゾは、扱い方も知っているから二度目のため息を吐いた。




しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

一軍男子と兄弟になりました

しょうがやき
BL
親の再婚で一軍男子と兄弟になった、平凡男子の話。

処理中です...