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第三生 現地住民舐めたらアカン
06
しおりを挟むとある平和な午後のこと。
「「「ふんふんふーん」」」
迷宮ダンジョンの上中層階にて。
木漏れ日の差すのどかな森の中を、日帰りの軽装備で固めた若者の一団がご機嫌なステップで歩いていた。
先頭から剣士、狩人、魔術師。
至って普通の中級ハンターである彼らは、目当ての素材を狩り終え、転移ポータルへ向かっているところである。
「いや~今日はなにもかも順調でいい日だったな~」
そう言ったのは先頭をウキウキと歩くタレ目の剣士、ゼンザ。
八重歯と横長の瞳孔。くせ毛の長髪に混じって二本の角が生えた人獣種、メェギ族の青年だ。
「ですね~。途中で大蛇のモンスター[黒縄蛇]に出会った時は両親に遺言を述べましたがなんとか逃げおおせましたし、神に感謝です」
ニコニコと笑顔で答えたのは二番目を歩く糸目の狩人、マエセツ。
ターバンで上げた前髪と頭頂部からピョコンと生えたウサギの耳が特徴的な長身の人獣種、ウータン族の青年だ。
「だよね~。まぁ[黒縄蛇]の黒石はレアな薬の材料になるからちょっと惜しかったけど、命には変えられないよ」
ヘラリと笑って頷くのは最後尾を歩くつり目の魔術師、バーター。
筋骨隆々な体でスキンヘッドに小さな耳と長くピンと立った尾がチャームポイントな人獣種、ティモミーア族の青年だ。
リーダーのゼンザはうんうんと頷く。
仲良し幼なじみのパーティーは喧嘩もほぼなくいつも平和だ。
ピンチは助け合い、一人の問題はみんなで悩む。分け前も等しく分けるしオヤツのジャムサンドだって三等分する。
仲間を見捨てたり、裏切ったり。
そんなことは有り得ない。
この友情は永遠不滅。いわゆるズッ友なのである。間違いない!
「失礼。お主ら帰途であるな」
「ん?」
「え?」
「へ?」
──とかなんとか脳内で輝かしい拳を突き上げた直後。
不意に木の上から音もなくド正面に降ってきた人物の逞しすぎる腕にガシッ! と掴まれたかと思えば、ゼンザの体はヒョイと犯人の肩に担がれてしまった。
みるみる遠くなる地面をポカンとただ見つめるゼンザ。
なんだ。誰だ。渋く落ち着いた低めのイケボだが覚えはない。荷物のように担がないでほしい。いや妙に安定感があって身を任せてしまいそうだが。
ほげ、と助けを求めて振り返ると、同じくほげ、と佇む仲間たちが見えた。
しかし仲間たちの表情はみるみるうちに引き攣り、青ざめ、冷や汗を垂れ流し、泡を吹きそうな体たらくで自分を抱き上げた人物を凝視し始める。
ここでようやく、ゼンザは自分を担ぐ人物に視線をやった。
そしてスン、と黙り込む。
清め石のピアスで飾られた耳と尖ったヒゲ、ノコギリよりイカつい牙に怖すぎる顔。防具バリに厚い胸板、肩周り、腹筋、首、やはり怖すぎる顔。とても肉食系の顔。
そしてなにより分厚く固く柔らかい、斑点混じりの白い毛皮。
「一人で良い。少し借りるぞ」
──ジェッゾ・ヤガー・ヤガー。
不吉の白毛と単騎で飛び抜けた戦闘力から[白禍]と恐れられる、死んでもお近付きになりたくないハンターランキング殿堂入りの特権階級ハンター。
「よいな?」
「「どうぞどうぞ!」」
「…………」
見捨てたり、裏切ったり。
そんなことは有り得ないはずの仲間たちが直立不動の敬礼で見送る姿を目に焼き付けたゼンザは、後に「絶対に許さない」と語った。
◇ ◇ ◇
「そら。客だ」
「…………」
「…………」
ジェゾがダンジョンに篭って数日後。
ようやく帰ってきたジェゾはガラガラの喫茶店に入るなり、無事に帰ってきた主人を出迎える一斉の目の前に肩に担いでいた青年──ゼンザをポイッ! と転がした。
久しぶりのジェゾに擦りついて毛繕いをする予定だった一斉は、ピタリと立ち止まり、無言でゼンザを見つめる。
青ざめながら泣いている。
よく見ると震えてもいる。
そして小さな声で「食べないで」「美味しくない」と怯えている。
一斉とあまり歳の変わらない若者とはいえ、剣を持った立派な男でありながら、体育座りでプルプルと震えてさめざめ涙するゼンザ。
どう見ても彼はノリノリでやってきたお客様ではなかった。
誘拐の被害者か迷子、人質あたりじゃないかと一斉は思う。
もしくは債務者かもしれない。借金で首が回らなくなったカモが、よく兄貴分に泣かされて酷い目に遭っていた。きっとこのあとカニ漁船に乗せられるのだ。
とはいえ飼い主に客として紹介されたからには、もてなさねばとも思う。
が、泣いている。
さめざめと泣いている。
立仲のコーヒーは泣きながら飲むものじゃないので困る。
困った一斉は「でもこの客泣いてるぜ」と伝えるべく、ジェゾに視線を向けた。
「どうした? イッサイ。念願の客だぞ。そら、キッサテンが良いものだと伝え広めるのだろう」
「…………」
ジェゾは何一つ気にした様子もなく腕を組み、ゼンザには目もくれず、じーっと一斉の反応を待っていた。
その姿はまるで飼い主に捕った獲物を与える猫のようだ。
受け取り待ちとも言う。
一斉は瞬きを一つする。
ふむふむなるほど。
「あぁ……」
ジェゾから目を離し、一斉は、そっ……とその場にしゃがみこんだ。
左右に広げて曲げたヒザに両肘をつき、両手を軽く組む。
それから小さく縮こまったゼンザに目線を合わせるべくクリ、と首を傾げ、彼の涙と鼻水でヌメった青白い顔を至近距離で真っ直ぐに覗き込んだ。
「悪ぃね、お客さん……じゃ、ちょっとこっち来てもらえる……?」
〝大変失礼いたしました、お客様。
もしご都合よろしければこのまま私どもにお付き合いいただけませんか?
カウンター席にご案内いたします。〟
意味としてはそう言ったつもりなのだが、全くそうは聞こえないこの言葉。
これをゴリゴリのヤンキーポーズでバキバキ強面の一斉が掠れた囁きボイスでボヤくと、メンタルが臨界点を突破したゼンザは、泡を吹いて気絶するのだ。
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