悪魔様は人間生活がヘタすぎる

木樫

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第三話 恋にのぼせて頭パーン

47(sideニューイ)

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「同情なんかじゃないって、これでわかっただろっ?」

「う、ぐぅ……っ」

「わかったらさっさとアイツに全部ゲロして、今の自分は九蔵を一番愛してるんだって言ってこいさ!」


 ズーズィは叫び、泣きじゃくって脱力するニューイの胸ぐらを強く引き寄せ、ガクガクと乱暴に揺すった。


「だってお前も、アイツのこと、めちゃくちゃ愛してんじゃん……っ!」

(──そうだよ)


 ズーズィに言い当てられ、ニューイは歯を噛み締めて溢れそうになった本心を閉じ込めた。

 九蔵の気持ちを知らなくても、無理に笑う姿を見てプロポーズを取り消すと決めたニューイは、別れを引き伸ばしてイチルの墓地へ引きこもっている。

 もともと、嘘や誤魔化しがヘタでドがつく素直なニューイだ。

 幼なじみのズーズィの目から見ると、九蔵を離れがたく愛していると一目瞭然だったのだろう。

 しかしニューイはふるふると首を横に振る。必死になって横に振る。ズーズィは、カッと顔を真っ赤にして怒鳴った。


「なに嫌がってんのさクソボケニューイ! お前を本気で愛してるアイツは、お前がなにも言わなくてもお前を優先するんだよっ! ボクとの約束を守ってんのっ!」

「うぅ、うぅ……っ」

「でも、自己肯定感カスだから、お前がイチルだけを愛してるって思い込んでる……っ! お前を困らせて嫌われないように、〝好き〟も〝愛してる〟も言わないイイコでいようとしてんだぞっ! それでも死人を優先して、九蔵を選ばないのかよっ!」

「うぅっ……う~……っ」


 ゴリッ、ゴリッ、と鋼鉄の塊が心を殴打しのしかかるような罪悪感を与えられても、ニューイは頑なに拒否し続ける。


「嘘つき! 嫌なら泣くなよ! どうせアイツが全部承知でお前を本気で愛してたって知って、もっともっと好きになってるくせに……! だからのうのうとプロポーズした自分のこと、殺したいくらい大嫌いなの、わかってるっ……」

「うぅぅ……っ」


 どれだけ図星を突かれようとも、ニューイは頷くわけにはいかなかった。

 ズーズィの気持ちはよくわかる。
 きっと彼には理解できない。

 イチルは死んだ。生まれ変わった。九蔵になった。それでいいだろう?

 九蔵はひねくれ者のズーズィが認められるほど、傷ついてばかりの大事な幼なじみを愛してくれている。

 弱々しい人間でありながら、ズーズィからすると面倒くさくてアホらしいやり方で、懸命に愛してくれている。

 ニューイがやっと幸せになるのだから、なぜ躊躇うのかわからない。

 そんなズーズィの言い分はよくわかるが、それでもニューイは首を縦に振らなかった。


「バカニューイ……お前、イチルと九蔵が違うって、気づいてたじゃん……」


 悲哀と疑問の混じったぼやき。
 グッと、胸ぐらを掴むズーズィの手に力がこもる。


「別な九蔵を愛してるのに……なんで、イチルにこだわるんだよ……なんで、九蔵に愛してるって、言ってやらないんだよ……っ」


 質問を重ねられると、涙でしとどに濡れた青白い頬が震えた。

 ニューイは九蔵の姿をしたズーズィの琥珀色の瞳を見つめながら、恋しげに眉を歪める。

 そうだ。わかっていた。
 九蔵とイチルは、魂だけが同じで、後はまるで同じじゃない別人。


「だから、ダメなのだ……」

「はっ?」

「九蔵が本気で私を愛してくれているなら、なおのことさよならをしなければならない……」

「なんでっ」


 これだけ発破をかけても九蔵との別れを選ばれ、驚いたズーズィは掴んでいたニューイの胸ぐらを離した。

 ニューイはドサッ、と柔らかな若草の上に尻もちをつく。

 今なら何も言わずに逃げ出すことはできたが、立ち上がる気にはならない。
 涙で汚れた、悲痛な慟哭をあげる。


「だって、イチルじゃないなら、私が九蔵を選ぶことは──ただの裏切りじゃないか……っ!」

「っ……!」


 土ごと若草を握りしめて、一人きりじゃもう抑えられない罪を叫んだ。




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