悪魔様は人間生活がヘタすぎる

木樫

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第六話 敗北せよ悪魔ども!

07

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 九蔵が愕然と榊たちを見ていると、ふと、同じく相方からガン無視されたクマ男が静かに立ち上がった。

 クマ男は足音もなく九蔵に近づき、軽く手をこまねく。

 なんの用だろう。
 知らない悪魔だが、ニューイやズーズィの知り合いなのかもしれない。

 だとすると失礼をするわけにもいかず、九蔵は警戒を解かずにクマ男の前に移動した。クマ男は身をかがめ、小声で囁く。


「お前、悪魔と仮契約をしているな?」

「要件は?」

「人を探していてな……この街にいるということはわかっているものの、情報が少なく時間がかかる。だからこの街に住む悪魔の契約者に直接正体を聞いているのだ」


 九蔵があえてイエスともノーとも言わずに尋ねると、そう答えられた。

 おあいにく様、ガードの硬さはなかなかだと自負があるのだ。

 クマ男が好みのイケメンでなくてよかったと思う。ガテン系イケメンは好きだが、ガチムチ系イケメンは顔よりボディに目がいくのでイケてるボディとなる。ボディだけではメンクイ精神は持っていかれまい。


「ココノコ。オレは愚直と占有に性質を持つ悪魔、ドゥレド。アイツは淫奔と愛着を性質に持つ悪魔、キューヌ」


 九蔵の胸についた名札を見て名前を呼ぶクマ男──ドゥレドは、どうやら比較的ブッ飛んでいない悪魔らしい。

 九蔵は一時的に警戒を緩めた。
 もちろん油断したわけじゃないぞ。なにを破壊するでも騙されるでもなく、きちんと自己紹介をされるとは思わなかったのだ。

 時間と季節感を無視して来訪する迷惑なところは悪魔らしいものの、きちんと人間に擬態して訪ねてきたところも無意味に暴れるつもりはないと取った。


(ずいぶん紳士的な悪魔だな……)

「当然だ。オレはバカじゃない」
「っ」


 声に出していないつもりだった。
 けれど思考の答えをドゥレドが口にして、一瞬肩が跳ねる。

 人の考えを読む悪魔なのか?
 伺うが、ドゥレドは特段反応せずに話を続ける。たまたまだったのかもしれない。


「人間ごときを操るなど容易い。だが、契約悪魔と揉めるのはめんどうだろう? なら人間を傷つけず普通に聞き出すべきだ」


 ウンウンと腕を組んで頷くドゥレド。

 人間に擬態して訪ねてきた理由は、トラブルを起こして契約者の背後にいる悪魔がやってくることを避けたのだ。

 前にズーズィが桜庭として九蔵に悪魔能力を使おうとした時のことを思い出す。

 悪魔界のご法度は、他人の目をつけた魂に手を出すこと。

 悪魔は自分の目をつけた魂を独り占めしたがる性質があった。
 その魂の持ち主・人間に傷をつけることは、悪行推奨の悪魔界でも「流石に殺されても文句は言えねぇぞ」レベルの禁忌である。

 殺す気でやってくるガチギレの悪魔を何人も相手にするくらいなら、普通に聞き出したほうがいいという英断だ。

 なるほどと納得した九蔵を、ドゥレドはジッと正面から見つめてこげ茶色の瞳を覗き込む。


「さて、ココノコ……お前はクゾウという人間を知っているか?」

「……ん~……ちょっとわかんねぇかな」


 九蔵はドゥレドから目を逸らさず、瞬きを一つ送って申し訳ないとばかりにほんの少し眉を困らせた。

 ドゥレドはピク、と片眉を上げる。
 それから潜めた声が聞こえないくらいには離れたカウンターのキューヌと榊を視線で確認し、残念そうにため息を吐いた。


「知らんのか……」

「悪いね。つかそもそも、なんで悪魔が人間一人を探してんの?」

「個人的にクゾウへ伝えるべきことがあるだけだ。クゾウの契約悪魔には知られたくない。知らないほうがいいこともある」

「伝えることなぁ」


 悪魔の世界は複雑に変だ。
 見知らぬ悪魔が他人の仮契約者に、それもニューイに知られずに伝えたい事柄なんてあるだろうか。

 たいそうなわけなんて九蔵にはいまいち思いつかず、首を傾げる。

 とはいえこんな夜中にご足労いただいたのだから、無駄足を追い返すというのも少々心苦しい。自分でよければ手を貸そう。


「ま、この街の契約者みんなに聞いてんならクゾウはこの街にいるんだろ? 俺がもしクゾウに会ったら代わりに伝えておくぜ。なんて言えばいいんだ?」

「あぁ、それじゃあ伝えてくれ」


 九蔵は複雑なことは考えず、シンプルな思考でドゥレドの赤い瞳と視線を絡める。──しかし。


「──悪魔相手にずいぶん上手くたち振る舞うじゃないか? と、な」


 ニヤ、と口角をひねり上げたドゥレドの赤い瞳は、九蔵を絡めとって完全に動きを止めてしまった。




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