255 / 462
第六話 敗北せよ悪魔ども!
07
しおりを挟む九蔵が愕然と榊たちを見ていると、ふと、同じく相方からガン無視されたクマ男が静かに立ち上がった。
クマ男は足音もなく九蔵に近づき、軽く手をこまねく。
なんの用だろう。
知らない悪魔だが、ニューイやズーズィの知り合いなのかもしれない。
だとすると失礼をするわけにもいかず、九蔵は警戒を解かずにクマ男の前に移動した。クマ男は身をかがめ、小声で囁く。
「お前、悪魔と仮契約をしているな?」
「要件は?」
「人を探していてな……この街にいるということはわかっているものの、情報が少なく時間がかかる。だからこの街に住む悪魔の契約者に直接正体を聞いているのだ」
九蔵があえてイエスともノーとも言わずに尋ねると、そう答えられた。
おあいにく様、ガードの硬さはなかなかだと自負があるのだ。
クマ男が好みのイケメンでなくてよかったと思う。ガテン系イケメンは好きだが、ガチムチ系イケメンは顔よりボディに目がいくのでイケてるボディとなる。ボディだけではメンクイ精神は持っていかれまい。
「ココノコ。オレは愚直と占有に性質を持つ悪魔、ドゥレド。アイツは淫奔と愛着を性質に持つ悪魔、キューヌ」
九蔵の胸についた名札を見て名前を呼ぶクマ男──ドゥレドは、どうやら比較的ブッ飛んでいない悪魔らしい。
九蔵は一時的に警戒を緩めた。
もちろん油断したわけじゃないぞ。なにを破壊するでも騙されるでもなく、きちんと自己紹介をされるとは思わなかったのだ。
時間と季節感を無視して来訪する迷惑なところは悪魔らしいものの、きちんと人間に擬態して訪ねてきたところも無意味に暴れるつもりはないと取った。
(ずいぶん紳士的な悪魔だな……)
「当然だ。オレはバカじゃない」
「っ」
声に出していないつもりだった。
けれど思考の答えをドゥレドが口にして、一瞬肩が跳ねる。
人の考えを読む悪魔なのか?
伺うが、ドゥレドは特段反応せずに話を続ける。たまたまだったのかもしれない。
「人間ごときを操るなど容易い。だが、契約悪魔と揉めるのはめんどうだろう? なら人間を傷つけず普通に聞き出すべきだ」
ウンウンと腕を組んで頷くドゥレド。
人間に擬態して訪ねてきた理由は、トラブルを起こして契約者の背後にいる悪魔がやってくることを避けたのだ。
前にズーズィが桜庭として九蔵に悪魔能力を使おうとした時のことを思い出す。
悪魔界のご法度は、他人の目をつけた魂に手を出すこと。
悪魔は自分の目をつけた魂を独り占めしたがる性質があった。
その魂の持ち主・人間に傷をつけることは、悪行推奨の悪魔界でも「流石に殺されても文句は言えねぇぞ」レベルの禁忌である。
殺す気でやってくるガチギレの悪魔を何人も相手にするくらいなら、普通に聞き出したほうがいいという英断だ。
なるほどと納得した九蔵を、ドゥレドはジッと正面から見つめてこげ茶色の瞳を覗き込む。
「さて、ココノコ……お前はクゾウという人間を知っているか?」
「……ん~……ちょっとわかんねぇかな」
九蔵はドゥレドから目を逸らさず、瞬きを一つ送って申し訳ないとばかりにほんの少し眉を困らせた。
ドゥレドはピク、と片眉を上げる。
それから潜めた声が聞こえないくらいには離れたカウンターのキューヌと榊を視線で確認し、残念そうにため息を吐いた。
「知らんのか……」
「悪いね。つかそもそも、なんで悪魔が人間一人を探してんの?」
「個人的にクゾウへ伝えるべきことがあるだけだ。クゾウの契約悪魔には知られたくない。知らないほうがいいこともある」
「伝えることなぁ」
悪魔の世界は複雑に変だ。
見知らぬ悪魔が他人の仮契約者に、それもニューイに知られずに伝えたい事柄なんてあるだろうか。
たいそうなわけなんて九蔵にはいまいち思いつかず、首を傾げる。
とはいえこんな夜中にご足労いただいたのだから、無駄足を追い返すというのも少々心苦しい。自分でよければ手を貸そう。
「ま、この街の契約者みんなに聞いてんならクゾウはこの街にいるんだろ? 俺がもしクゾウに会ったら代わりに伝えておくぜ。なんて言えばいいんだ?」
「あぁ、それじゃあ伝えてくれ」
九蔵は複雑なことは考えず、シンプルな思考でドゥレドの赤い瞳と視線を絡める。──しかし。
「──悪魔相手にずいぶん上手くたち振る舞うじゃないか? と、な」
ニヤ、と口角をひねり上げたドゥレドの赤い瞳は、九蔵を絡めとって完全に動きを止めてしまった。
30
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる