悪魔様は人間生活がヘタすぎる

木樫

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第八話 あっちこっちトラベル

06

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 しかしこうなると、いよいよ悪の秘密結社くさいのではなかろうか。

 ヤのつく裏稼業顔の澄央。
 マッドサイエンティストスマイルな九蔵。

 そこに顔面サイコパスのビルティが加われば、ローテンション男子組は闇堕ち組織と名を改めることになりそうだ。


「逆にイイ」

「なにが?」

「なんでもねぇスよ」

「スよ。ククク」


 キュピン、と愉快の可能性を感じた澄央に、小首を傾げるビルティ。

 誤魔化しがてらポンポンとコケ色の頭をなでると、ビルティは澄央の語尾をオウム返しに、抵抗もせずなでられた。

 ともすれば澄央はペットを相手にするような手つきでなでているのだが、かわいがられることが嫌じゃないらしい。

 なんなら薄ら笑いのまま、チロ、チロ、と先割れの舌を唇からチラつかせている。


(これは……なんかほっとくとヤバげッスね。ビルティ、誰にでも捕まりそうス)

「ンー……」

「ビルティ。アリスとやら探し、俺も手伝うス。俺のズッ友にも相談しましょ」

「! いい? ナス、ナスのズッ友」

「いいッスよ。んで俺のズッ友は一回ダチになったら自動的に世話を焼く特殊システム搭載してるんで、基本助けてくれるス」

「うんうん。うんうん」

「ただちーっと問題が」

「うん?」


 世に放逐すると大変なことになりそうなビルティに庇護欲が沸いた澄央は、ピコンと指を一本立てる。


「トカゲボディのイケメンは、迂闊に外に出せねぇってことス」


 三者面談、ドレスコードあり。
 これはなんとかせねばなるまい。

 拾った責任を負うことにした澄央は、とりあえずイケメントカゲの面倒を見ることにしたのであった。


  ◇ ◇ ◇


「──ってことでズーズィの変身能力でビルティを人間に仮装させてもらって、ついでにキュウちゃんの愛着能力でアリスってのをストーカー……じゃねえ追跡できるようにしてもらったんスけど、なぜか結局ココさんちに行き着いたんス」

「なるほど。時にビルティさんはなぜ仮装を解いているんですか」

「アリス、巻く」


 澄央に回想を語られた九蔵の目は、状況を把握して死に体と化した。

 せっかく人間に仮装してここまでたどり着いたのに、なぜ部屋の中に入った途端トカゲに戻ったのやら。

 トカゲなのにとぐろを巻きたがるビルティは、九蔵をとぐろの中に閉じ込めて満足げである。

 アリスアリスと懐いているので、愛情表現がとぐろに閉じ込めることなのかもしれない。いやどんな愛情表現だ。カルチャーショックが過ぎる。

 九蔵はやんわり窘めてやりたかった。
 しかし髪を整えよく顔が見えるようになったビルティは、イケメンだ。

 以前は髪の隙間から見えていた程度だった顔と瞳で薄ら笑いを浮かべつつジッと見つめるビルティを、九蔵は直視できない。

 ドストライクではなくともイケメンに慣れるには時間がかかる。

 強面だが怜悧な美形で不意打ちスマイルは凶器的な澄央にとて、慣れるまで丸一日かかったのだ。ビルティもしばらくはダメだろう。

 おかげでドアを開けるとイケメンだったという状況を無防備に食らった九蔵は、嫌な予感しかしなくとも澄央とビルティを招き入れてしまった。

 そこ。チョロいとか言うな。イケメンにチョロいのはもはや習性である。


(くっ……せっかくニューイで不意に放たれるイケメン成分直視回避術免許皆伝のテクニックを手に入れたってのに、事件はいつも玄関で起こっちまうんだ……!)

「ナ~ス~……」

「冤罪ス。俺悪くねッスよ」

「お前さんがビルティをイケメンにして連れてきたんでしょうがなんてことしてくれんだよトラブルの香りしかしねぇんだぞありがとうございます」

「なんて複雑なココさん心なんだ」

「シャッター音自重しなさい」


 そしてあとでその画像たちをアルバムにして送っておいてください。

 九蔵に懐いてニマニマとしているビルティをスマホで撮影しまくっている澄央に、九蔵はテレパシーを送った。
 澄央は無言で親指を立てたので、テレパシーは伝わっているだろう。

 散々ビルティを絶妙な角度で撮影した澄央は、満足したのか腹を押さえて九蔵を見つめた。


「腹ペコス」

「どんだけ撮影にハッスルしてたんだよ……買い物行ってねぇからオムライスぐらいしかできねーぞ」

「愛してる」

「いいのな」

「…………」


 両手をきゅっと握って真顔で愛の言葉を囁かれた。オムライスは大好物らしい。
 この「愛してる」はむしろ大正解メニューということだが、なにやら至近距離からの視線が痛い。

 九蔵は可能性を感じるが、オムライスに想いを馳せる澄央は特に気にせず、視線の主──ビルティへ首を傾げる。




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