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邂逅する互いの異世界
勇者と退魔師の邂逅
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加藤はどうしたものかと混乱した頭を必死で働かせた。この状況を、一体どうやって東に説明しなければならないのかと。
グルグルと思考が巡るが、良い答えは全く持って見つからない。
「え、ユースケ、これってもしかしてマズイ? 私、見られちゃったよ?」
妖精ちゃんが言っているように、東に見られたのはマズイし、言い逃れが出来ないと腹を括った加藤は、もう思い切って正直に己の境遇を語るのもいいかもしれない、とすら思っていた。
だが、どう切り出せばよいのかまるで見当が付かず。困り果てている。大体、どう足掻いても隣の妖精ちゃんの存在を説明することができない。それに、もしかしたら敵かも、という可能性も排除できずにいた。
というように加藤が思慮していると同時に、東もめまぐるしく思考を働かせていた。
もし彼らが敵ならば、滅する必要があるかもしれない。
だけど、目の前の一人と一匹から感じる力は、不思議なことに妖力でも、霊力でもない。
つまり、全く持って関係がないのかも知れない――
少しの間見つめ合っていた二人。
気まずさを振り払うように、東が先に動いた。彼が最終的に下した判断は、問答の末敵だと判断した場合、加藤を一旦無力化するというものだ。東は、物騒な発想を友に抱いている自分が嫌だった。自己嫌悪。
「……加藤君。その小さくて喋っているのは一体なんなのかな。そして、君のその力は?」
ここで加藤は思わぬミスに気付いた。妖精ちゃんもそうだが、自分が思いっきり魔力を放出していることに。東は、不思議な力には敏感なので、人外クラスの魔力を纏った加藤がひどく異質な存在に見えたのだ。
「……こいつは妖精ちゃんだ。人間じゃないって言っても信じてくれないかもしれないけど」
「いや、僕にとっては見慣れた存在によく似ているから、君が連れていることを除けば驚きはないよ。どう見ても人間じゃない」
ここで東が言っている見慣れたとは、姿形のことも去ることながら、妖精ちゃんが持つ人間にはない独特の存在感だ。普段はふざけているばかりの妖精ちゃんだが、その身に宿す魔力は凄まじい。そんな点から、妖怪にも似た雰囲気を感じ取っていたようだ。
「見慣れたってどういうことだ? そういうお前のその女の子だって、俺から見れば異質そのものだぞ。亡者の気配に似てる」
お互いが探り探りだ。ここでミスをすれば友情には断絶が生まれるだろう。
だが、ここまで黙って空気を読んでいた座敷童子ちゃんが、妖精ちゃんを妖怪ではないと看破し、同様に、妖精ちゃんも座敷童子ちゃんを負の存在ではないと見破った。
「おチビちゃんは気付いているようじゃが、我らは互いに悪の存在ではないらしい。東坊よ、気を抜くがよい。そちらも、一旦落ち着くのじゃ」
「そうよ。まずはお互いその殺気を収めなさいよ。話はそれから!」
――
ようやく落ち着きを取り戻した彼らは、互いの秘密を知るべく語り出した。
それから巻き起こったのは、お互いの経歴暴露大会だ。
普段はそれほど大袈裟に驚きを見せない東も、これには流石にオーバー過ぎるリアクションを取っていた。
自身の経験から、異世界が他に存在するかは以前調べたことがあり、その時に出した結論は存在しない、というものだったからだ。しかし、現に目の前にいるのは、完全に未知の生命体だ。加藤が語った異世界の存在に、納得せざるを得なかった。
もちろん、加藤も驚いていた。まさかそんな、ラノベじゃあるまいしというのが当初抱いた正直な感想だったが、東の霊力と座敷童ちゃんを冷静に見ると、これが現実であることを分からせてくれたようだ。
彼らが友人の突飛な秘密を案外すんなりと受け入れられたのは、お互いが特殊な身の上だったことに他ならないだろう。
異世界攻略済みという称号は伊達ではないのだ。
そんな二人はいつしかすっかり落ち着いて、いつもの部室での定位置に収まっていた。安心する位置取りなのだ。東は本棚の横の座椅子、加藤は小型テレビの前だ。
「しかし、まさか君に異世界の経験があるとは。こんなの僕だけかと思ってたよ。未だにちょっと信じられないな」
「だよなぁ。俺だってそうだよ」
「でも、こちらでは戦っていないんだよね? 敵が妖怪だけじゃないとわかってホッとしたよ……」
「ん? おいおい、その口ぶりだとまるでこっちでも戦ってるみたいな物言いに……」
「そうだよ」
「え?」
「聞いて驚かないでほしい……と言っても無駄だと思うけど、実は僕、退魔師なんだ。ほら、そこの座敷童子ちゃんなんか、名前ぐらいは聞いたことがあるでしょ? 東京では珍しいんだよ」
「はえー……しかし退魔師っていうとあれか、妖怪を相手に戦うってことだよな? 妖怪なんてホントにいたんだな……」
「そうなるね。あまり町にはいないだけで、実は結構存在するものなんだけどね」
彼らがそんなことを話している内に、いつの間にか意気投合したらしい小さな生き物コンビは、二人そっちのけで何やら話していたのだが。
それから二人の話題は、もう少し踏み込んだものになった。互いの口から語られたのは、かつての経験と持っている能力についてだ。
異世界でどんな経験をしてきたのか、自分はどんな力が使えるのかなどを交互に、詳細に説明した二人。話題は尽きない。
「実は、俺達さっき異世界から帰って来たばかりなんだよ。とにかくこのババアが邪魔で、置いて来ようとしたんだぜ」
「さすが加藤君、やることがえげつないけど優しいという矛盾の塊だ。
それと、さっきからババアって言ってるけど、もしかして妖精ちゃんはその……」
「ああ、こいつは俺達より年上で、もう俺の何倍も生きてるんだぜ。歳は……」
「あーーー! ダメダメ!」
そんなやり取りを交えつつどんどん、誰にも語ることがなかった胸中を発露する彼らはずっと、自分の体験を誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「そうかぁ、お前も苦労してたんだなぁ。だから俺達、気が合ってるのかもな」
「そうだね、一度苦労してるから特に何もしたくない感じとか」
お互いの秘密を晒しに晒しまくった二人は、いつしかこれまでの苦労話に花を咲かせていた。
「僕の実家、毎日のように妖怪と戦わされるからね。そういうのが嫌でこっちまで出てきたんだよ」
「へぇ。そういや妖怪ってのはどんなのがいるんだ?」
「そうだね、漫画とかに出て来るようなのは大体いるよ。小豆洗い、狐火、がしゃどくろとかね」
「……よく今まで人間とか襲われなかったな」
「いや、昔はよく人里にも表れていたんだよ。でも、近代化していく人間の世界に、彼らは順応できなかったんだ。今では大体が山とか森で暮らしてるよ」
そう、現代において、妖怪には中々遭遇できなくなっていたのだ。
であるから、加藤の心配は杞憂に終わる。
「それで、僕は中学生の時に異世界に召喚されたんだよね」
「そっちはどんな世界だったんだ? 俺の所はファンタジー丸出しな世界だったけど」
「そうだね、道行く人は完全にこちらでいう西洋人なんだけど、どういうわけか、町並みは古い日本に酷似していたんだ」
「へぇ。それで、もしかして魔王みたいなのと戦ってこっちに戻って来たのか?」
「そうなるね。大きい狐だったんだけど、すごく強くてびっくりしちゃったよ」
東が異世界で最後に討伐した敵は、九尾の狐と呼ばれる存在だ。かつては地球にも存在していたが、過去に封印されている。
しかし向こうではとにかく人間を殺害しまくっていたとんでもない妖怪で、それを倒すために召喚されたのがこの東龍太郎だった。
召喚条件は、九尾の狐を倒せる強さを持った人材という、実にアバウトなものだったのだが、結果的には正解だった。
いつの間にか、黙って話を聞いていた妖精ちゃんと座敷童子ちゃんというちゃん付けコンビが割って入って来た。お互いのその楽しそうなその顔には、ニンマリとした笑みが浮かんでいる。新しい仲間を見つけましたと言わんばかりの表情だ。
「不思議なことってあるものなのね……ね、座敷童子ちゃん?」
「ほんとじゃなー。しかし妖精ちゃんよ、おぬしはめんこいのう。それに服装もばっちり決まっておるのじゃ。参考にさせてたもう」
「えーありがと! あなたも可愛いわよ! 同じちゃん付け同士、これから仲良くやって行きましょうよ! えいえいおー!」
「えい、えい、おーなのじゃ!」
どういうわけか妙に気が合ったらしいマスコット的存在の二人は、いきなり入って来たと思ったら、また加藤と東のことなど我関せずと、お喋りを再開していた。
これに加藤は若干イラつき、東は微笑ましく思う。これが二人の持つ余裕の差だった。
しかしここで、東は加藤と妖精ちゃんの衝撃ですっかり頭から抜け落ちていた明日の戦いを思い出してしまった。少しテンションが下がる。明日の準備をしなければと思い立ったので加藤たちに別れを告げようとすのだが……
「おっと、もっと色々聞きたいけどもうこんな時間か。そろそろ明日に向けて……」
そんな時に、東はあることを思いついてしまった。
(加藤君にぬらりひょんの件を手伝ってもらえばいいのでは?)
なんという急な話だろうか。だが、ダメもとで頼んでみる価値はあると判断した東。
(さっき感じた強者の気配なら、間違いなく戦力になる。それもとびっきり強力な)
「……加藤君、実はそんな君にお願いがあるんだ」
「おう、どうした」
「僕は昨日、とある妖怪の一味と戦っていたんだけど」
「うんうん」
「そいつら、倒せなくて撤退して来たんだよね」
「ほうほう、それで?」
「加藤君に手伝ってほしいんだ」
「おう……マジで言ってる?」
「マジ、だよ」
真剣な顔で訴えかける東に対し、加藤はどうするのだろうか。東はあわよくばと期待を寄せていた。
「頼むよ。君なら恐らくだけど、霊的な存在にも干渉出来るんじゃないのかな?」
「そりゃできないことはないけどな。向こうでも、アンデッドやゴーストは倒したことがあるし。でもな……」
加藤はどうやら案外乗り気らしい。東にこのようなお願いをされるのは初めてだったからか、少し照れてすらいる。異世界帰りで少しテンションが上がってでもいたのかもしれない。流れに乗せられてしまう哀れな加藤。
「それと、あの勢力だといずれ町の方にまで被害が出るかもしれない。力を持った妖怪は、あっという間に増長して人里まで降りて来るんだ」
「マジか。でも、本当にお前の役に立てるかは分かんねぇぞ。でも、やった方が良さそうだ」
この一言が決め手になったようで、ついに加藤は討伐に参加することを決めたようだ。東は嘘八百を並べているわけではなく、実際に百鬼夜行とでも言うべき戦力となった敵陣は、いつか人里に影響を及ぼす可能性が高いのだ。楽観視しているのは、東や深山の性格ゆえだ。
「それでもいいんだ。ダメなら、また逃げるまでさ」
「まあそれもそうか」
とても一国を救った者同士の会話とは思えない、なんとも情けないことを言いあう二人は、残念な奴らだった。二人ともすごく強いのに逃げ癖も怠け者気質もあるのだ。これは、悪い方の異世界攻略経験の活き方だ。
「加藤君、手伝ってよ。お願い。君の魔王とやらを倒した力なら、きっと僕にも引けを取らない筈。余計な人員は抜きで、僕たちだけでやろう」
「……よし! お前が言うことが本当なら、手伝わないわけにはいかないな。やるぞババア。お前も遂に本領発揮だな」
「よーし、まっかせなさい! 腕とか取れてもくっ付けてあげるから、安心して突っ込みなさい!」
「……そうならないように戦うのが一番なんだけどね」
こうして、異世界攻略済みの二人はタッグを組んだ。
ぬらりひょん率いる妖怪たちは、泣いていい。
そして再び仲間外れにされていた座敷童子ちゃんは、人知れず寂しい思いをしていたのであった。
「うむう、わしにも戦う力があればの……残念じゃ」
――
一方その頃、件の妖怪たちはといえば。
「ぬらりひょん、あんたの話面白れぇよ。異世界がどうのってやつ。嘘でも褒めてやるぜ、その実力も含めてな」
「くっくっく……もっと褒めろ。次の攻撃が来たら、儂も動くぞ。人間など恐れるに足らず! ふははははは!」
「諸君、次回の敵を撃退したら、本格的に退魔師の本山に攻め入るぞ。何が東一族だ。勝機は我らにあり!」
洞窟内の妖怪たちから歓声が上がる。このとき彼らは、まさか自分たちが今日の襲撃者に負けるなどとは微塵も思っていなかった。それだけの自信があった。
果たして彼らは無事、東一族との戦争を迎えられるのだろうか。
そして翌日――
グルグルと思考が巡るが、良い答えは全く持って見つからない。
「え、ユースケ、これってもしかしてマズイ? 私、見られちゃったよ?」
妖精ちゃんが言っているように、東に見られたのはマズイし、言い逃れが出来ないと腹を括った加藤は、もう思い切って正直に己の境遇を語るのもいいかもしれない、とすら思っていた。
だが、どう切り出せばよいのかまるで見当が付かず。困り果てている。大体、どう足掻いても隣の妖精ちゃんの存在を説明することができない。それに、もしかしたら敵かも、という可能性も排除できずにいた。
というように加藤が思慮していると同時に、東もめまぐるしく思考を働かせていた。
もし彼らが敵ならば、滅する必要があるかもしれない。
だけど、目の前の一人と一匹から感じる力は、不思議なことに妖力でも、霊力でもない。
つまり、全く持って関係がないのかも知れない――
少しの間見つめ合っていた二人。
気まずさを振り払うように、東が先に動いた。彼が最終的に下した判断は、問答の末敵だと判断した場合、加藤を一旦無力化するというものだ。東は、物騒な発想を友に抱いている自分が嫌だった。自己嫌悪。
「……加藤君。その小さくて喋っているのは一体なんなのかな。そして、君のその力は?」
ここで加藤は思わぬミスに気付いた。妖精ちゃんもそうだが、自分が思いっきり魔力を放出していることに。東は、不思議な力には敏感なので、人外クラスの魔力を纏った加藤がひどく異質な存在に見えたのだ。
「……こいつは妖精ちゃんだ。人間じゃないって言っても信じてくれないかもしれないけど」
「いや、僕にとっては見慣れた存在によく似ているから、君が連れていることを除けば驚きはないよ。どう見ても人間じゃない」
ここで東が言っている見慣れたとは、姿形のことも去ることながら、妖精ちゃんが持つ人間にはない独特の存在感だ。普段はふざけているばかりの妖精ちゃんだが、その身に宿す魔力は凄まじい。そんな点から、妖怪にも似た雰囲気を感じ取っていたようだ。
「見慣れたってどういうことだ? そういうお前のその女の子だって、俺から見れば異質そのものだぞ。亡者の気配に似てる」
お互いが探り探りだ。ここでミスをすれば友情には断絶が生まれるだろう。
だが、ここまで黙って空気を読んでいた座敷童子ちゃんが、妖精ちゃんを妖怪ではないと看破し、同様に、妖精ちゃんも座敷童子ちゃんを負の存在ではないと見破った。
「おチビちゃんは気付いているようじゃが、我らは互いに悪の存在ではないらしい。東坊よ、気を抜くがよい。そちらも、一旦落ち着くのじゃ」
「そうよ。まずはお互いその殺気を収めなさいよ。話はそれから!」
――
ようやく落ち着きを取り戻した彼らは、互いの秘密を知るべく語り出した。
それから巻き起こったのは、お互いの経歴暴露大会だ。
普段はそれほど大袈裟に驚きを見せない東も、これには流石にオーバー過ぎるリアクションを取っていた。
自身の経験から、異世界が他に存在するかは以前調べたことがあり、その時に出した結論は存在しない、というものだったからだ。しかし、現に目の前にいるのは、完全に未知の生命体だ。加藤が語った異世界の存在に、納得せざるを得なかった。
もちろん、加藤も驚いていた。まさかそんな、ラノベじゃあるまいしというのが当初抱いた正直な感想だったが、東の霊力と座敷童ちゃんを冷静に見ると、これが現実であることを分からせてくれたようだ。
彼らが友人の突飛な秘密を案外すんなりと受け入れられたのは、お互いが特殊な身の上だったことに他ならないだろう。
異世界攻略済みという称号は伊達ではないのだ。
そんな二人はいつしかすっかり落ち着いて、いつもの部室での定位置に収まっていた。安心する位置取りなのだ。東は本棚の横の座椅子、加藤は小型テレビの前だ。
「しかし、まさか君に異世界の経験があるとは。こんなの僕だけかと思ってたよ。未だにちょっと信じられないな」
「だよなぁ。俺だってそうだよ」
「でも、こちらでは戦っていないんだよね? 敵が妖怪だけじゃないとわかってホッとしたよ……」
「ん? おいおい、その口ぶりだとまるでこっちでも戦ってるみたいな物言いに……」
「そうだよ」
「え?」
「聞いて驚かないでほしい……と言っても無駄だと思うけど、実は僕、退魔師なんだ。ほら、そこの座敷童子ちゃんなんか、名前ぐらいは聞いたことがあるでしょ? 東京では珍しいんだよ」
「はえー……しかし退魔師っていうとあれか、妖怪を相手に戦うってことだよな? 妖怪なんてホントにいたんだな……」
「そうなるね。あまり町にはいないだけで、実は結構存在するものなんだけどね」
彼らがそんなことを話している内に、いつの間にか意気投合したらしい小さな生き物コンビは、二人そっちのけで何やら話していたのだが。
それから二人の話題は、もう少し踏み込んだものになった。互いの口から語られたのは、かつての経験と持っている能力についてだ。
異世界でどんな経験をしてきたのか、自分はどんな力が使えるのかなどを交互に、詳細に説明した二人。話題は尽きない。
「実は、俺達さっき異世界から帰って来たばかりなんだよ。とにかくこのババアが邪魔で、置いて来ようとしたんだぜ」
「さすが加藤君、やることがえげつないけど優しいという矛盾の塊だ。
それと、さっきからババアって言ってるけど、もしかして妖精ちゃんはその……」
「ああ、こいつは俺達より年上で、もう俺の何倍も生きてるんだぜ。歳は……」
「あーーー! ダメダメ!」
そんなやり取りを交えつつどんどん、誰にも語ることがなかった胸中を発露する彼らはずっと、自分の体験を誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「そうかぁ、お前も苦労してたんだなぁ。だから俺達、気が合ってるのかもな」
「そうだね、一度苦労してるから特に何もしたくない感じとか」
お互いの秘密を晒しに晒しまくった二人は、いつしかこれまでの苦労話に花を咲かせていた。
「僕の実家、毎日のように妖怪と戦わされるからね。そういうのが嫌でこっちまで出てきたんだよ」
「へぇ。そういや妖怪ってのはどんなのがいるんだ?」
「そうだね、漫画とかに出て来るようなのは大体いるよ。小豆洗い、狐火、がしゃどくろとかね」
「……よく今まで人間とか襲われなかったな」
「いや、昔はよく人里にも表れていたんだよ。でも、近代化していく人間の世界に、彼らは順応できなかったんだ。今では大体が山とか森で暮らしてるよ」
そう、現代において、妖怪には中々遭遇できなくなっていたのだ。
であるから、加藤の心配は杞憂に終わる。
「それで、僕は中学生の時に異世界に召喚されたんだよね」
「そっちはどんな世界だったんだ? 俺の所はファンタジー丸出しな世界だったけど」
「そうだね、道行く人は完全にこちらでいう西洋人なんだけど、どういうわけか、町並みは古い日本に酷似していたんだ」
「へぇ。それで、もしかして魔王みたいなのと戦ってこっちに戻って来たのか?」
「そうなるね。大きい狐だったんだけど、すごく強くてびっくりしちゃったよ」
東が異世界で最後に討伐した敵は、九尾の狐と呼ばれる存在だ。かつては地球にも存在していたが、過去に封印されている。
しかし向こうではとにかく人間を殺害しまくっていたとんでもない妖怪で、それを倒すために召喚されたのがこの東龍太郎だった。
召喚条件は、九尾の狐を倒せる強さを持った人材という、実にアバウトなものだったのだが、結果的には正解だった。
いつの間にか、黙って話を聞いていた妖精ちゃんと座敷童子ちゃんというちゃん付けコンビが割って入って来た。お互いのその楽しそうなその顔には、ニンマリとした笑みが浮かんでいる。新しい仲間を見つけましたと言わんばかりの表情だ。
「不思議なことってあるものなのね……ね、座敷童子ちゃん?」
「ほんとじゃなー。しかし妖精ちゃんよ、おぬしはめんこいのう。それに服装もばっちり決まっておるのじゃ。参考にさせてたもう」
「えーありがと! あなたも可愛いわよ! 同じちゃん付け同士、これから仲良くやって行きましょうよ! えいえいおー!」
「えい、えい、おーなのじゃ!」
どういうわけか妙に気が合ったらしいマスコット的存在の二人は、いきなり入って来たと思ったら、また加藤と東のことなど我関せずと、お喋りを再開していた。
これに加藤は若干イラつき、東は微笑ましく思う。これが二人の持つ余裕の差だった。
しかしここで、東は加藤と妖精ちゃんの衝撃ですっかり頭から抜け落ちていた明日の戦いを思い出してしまった。少しテンションが下がる。明日の準備をしなければと思い立ったので加藤たちに別れを告げようとすのだが……
「おっと、もっと色々聞きたいけどもうこんな時間か。そろそろ明日に向けて……」
そんな時に、東はあることを思いついてしまった。
(加藤君にぬらりひょんの件を手伝ってもらえばいいのでは?)
なんという急な話だろうか。だが、ダメもとで頼んでみる価値はあると判断した東。
(さっき感じた強者の気配なら、間違いなく戦力になる。それもとびっきり強力な)
「……加藤君、実はそんな君にお願いがあるんだ」
「おう、どうした」
「僕は昨日、とある妖怪の一味と戦っていたんだけど」
「うんうん」
「そいつら、倒せなくて撤退して来たんだよね」
「ほうほう、それで?」
「加藤君に手伝ってほしいんだ」
「おう……マジで言ってる?」
「マジ、だよ」
真剣な顔で訴えかける東に対し、加藤はどうするのだろうか。東はあわよくばと期待を寄せていた。
「頼むよ。君なら恐らくだけど、霊的な存在にも干渉出来るんじゃないのかな?」
「そりゃできないことはないけどな。向こうでも、アンデッドやゴーストは倒したことがあるし。でもな……」
加藤はどうやら案外乗り気らしい。東にこのようなお願いをされるのは初めてだったからか、少し照れてすらいる。異世界帰りで少しテンションが上がってでもいたのかもしれない。流れに乗せられてしまう哀れな加藤。
「それと、あの勢力だといずれ町の方にまで被害が出るかもしれない。力を持った妖怪は、あっという間に増長して人里まで降りて来るんだ」
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「……よし! お前が言うことが本当なら、手伝わないわけにはいかないな。やるぞババア。お前も遂に本領発揮だな」
「よーし、まっかせなさい! 腕とか取れてもくっ付けてあげるから、安心して突っ込みなさい!」
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そして再び仲間外れにされていた座敷童子ちゃんは、人知れず寂しい思いをしていたのであった。
「うむう、わしにも戦う力があればの……残念じゃ」
――
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「くっくっく……もっと褒めろ。次の攻撃が来たら、儂も動くぞ。人間など恐れるに足らず! ふははははは!」
「諸君、次回の敵を撃退したら、本格的に退魔師の本山に攻め入るぞ。何が東一族だ。勝機は我らにあり!」
洞窟内の妖怪たちから歓声が上がる。このとき彼らは、まさか自分たちが今日の襲撃者に負けるなどとは微塵も思っていなかった。それだけの自信があった。
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