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姉の彼女
第2話
しおりを挟む「ほんと助かるわね。雨、ツーちゃんだと嫌がるしねぇ」
「別に月謝とかはいいってさ」
「あら、そんなわけにはいかないわよ。ちゃんとそうゆうの頼んだら、かなりするんだから」
「夜ごはんご馳走するくらいでいいんじゃない?かすみ一人暮らしだし助かると思うよ。お金なんか出したら逆に申し訳無いって断るかも」
「そうなの?ごはんはもちろん食べてってもらうつもりだったけど……困ったわね」
「いいんだよ、かすみは教員志望で自分の為にもなるからって言ってんだし」
土曜日の昼下がり、トイレに行って部屋に戻る途中で、リビングからお母さんとツグミの話す声がが聞こえた。
「なに?なんの話?」
私は自分の知らないところで自分のことを話されてるのが気に障って、二人の会話に入り込んだ。
「あ、雨!ちょうど良かった。あなたにね、家庭教師つけようと思って」
「なにそれ!そんなの私いらない!」
「いるとかいらないじゃないのよ、 必要なの。ずっと言ってるでしょ?もう高二の夏休みなのよ?なのに毎日毎日部屋でマンガばっかり読んで……ツーちゃんに教えてもらうっていうならいいけど」
「ツグミは絶対にやだ!」
「こないだ会ったでしょ?かすみって私の大学の友達。教員希望だから、雨のこと教えたいんだって」
「勝手に私を練習道具にしないでよ!」
その時、
ピーンポーン……
チャイムが鳴った。
お母さんとツグミは抵抗する私を置き去りにして、そそくさとリビングを出て玄関へ向かった。私は終わっていない話の行場を無くし、そのままリビングに残ってしまった。
「いらっしゃーい!」
「かすみ、早かったね」
「あ、お母さんこんにちは!お邪魔します!ツグちゃん、予定より早くてごめんね。あんまり暑いから駅からバスで来ちゃったの」
「あらー!大変だったわね!ほらほら上がって!上がって!」
パタパタとリビングに三人分のスリッパの音が近づいてくる。部屋に戻るタイミングを逃した私の前に、お母さんとツグミに続きこないだの失礼なあの人が現れた。
「あ、雨ちゃん!こんにちは!今日からよろしくね!」
「なんで私のことなのに私に話もなく突然今日からなの?!」
私は挨拶も返さず、その人の存在を無視するように言った。
「別に家庭教師が今日からってわけじゃないって。今日は顔合わせみたいなもんだよ」
つくづく勝手な母親とツグミにはもう何も言わず、私はリビングから出て部屋へと戻った。ベッドに座って一番好きなマンガを手に取ったけど、病的なほどイライラが止まらず内容が全く入ってこない。
コンコン……
しばらくすると、部屋をノックする音がした。
嫌な予感がした。
ツグミやお母さんはそんな丁寧な訪問なんてしない。
「雨ちゃん?ちょっといいかな……?」
やっぱりあの人だ。
嫌だ。話したくない。
どうせお母さんやツグミの魂胆で、他人に説得されたら私が断りづらいと思ってこの人をよこしたんだ。私がなんの反応も見せないでいると、その人はそのままで話し始めた。
「あのね……雨ちゃん、私も雨ちゃんの言う通りだと思う。ごめんね、この話は無かったことにしてもらうから……」
意外な言葉をかけられ、私は少し動揺した。
「もう家庭教師の話はしないから、だから、少しだけ話せないかな……?」
話すことなんか何もないし面倒だと思ったけど、私は起き上がってそっと扉を開けた。
「雨ちゃんてツグちゃんと全然似てないよね」
「え……」
私と並んでベッドにそっと腰掛けると、その人はまた意外な言葉を口にした。
「初めて会った時は本当に似てるって思って、まるでツグちゃんの分身みたいだって思ったんだけど、それは本当に外見だけだね。似てないって言うより、姉妹と思えないくらい違うかも」
「そんなこと言われたの……初めてです……」
「そうなの?こんなこと言ったらツグちゃんに怒られちゃうけど、ツグちゃんてほら、ありのままって感じじゃない?細かいことは気にしないってゆうか。それはそれで私は好きなんだけど、雨ちゃんはとっても繊細なんだなって。あっ、全然知らないくせに勝手に決めつけたら失礼だよね!ごめんね?」
「……あの、家庭教師の話は本当に無しでいいんですか?」
「うん、別に説得の為の口実じゃないよ?私は本当に、雨ちゃんの気が進まないならやるべきじゃないって思う。実は今回の話ってね、雨ちゃんに家庭教師つけるかもって話をたまたまツグちゃんから聞いて、それなら是非!って私からお願いしたのがきっかけだったんだけど……」
「そうだったんですか。でもなんで?」
「教師目指してるからっていうのはもちろんあったんだけど、前から雨ちゃんと仲良くなりたいなぁって勝手に思ってたってゆうのが一番の理由かな」
その人は少し照れくさそうな笑みを浮かべてそう言った。その顔を見てたらなんだかくすぐったい気持ちになって、私は姿勢を正した。
「だから、こうやってお話出来たら私はそれで。家庭教師つけるかどうかっていうのは、雨ちゃんの意思を何より優先するべきだと思うし」
「………」
「だから、家庭教師の件はなくなっても、これからはもっと雨ちゃんと話したいな。それはいいかな……?」
「………はい」
「良かったぁ!」
その人はすごく嬉しそうに笑いながら、聞き分けの良くなった幼児を褒めるように、やさしい手つきで頭を撫でてきた。
「……さっきは失礼な態度してすみませんでした」
目は合わせられず、私は下を向いたまま言った
「ううん!こちらこそだよ。今度は一緒に遊ぼうね!ツグちゃんと三人で」
話がまとまるとその人は私の部屋から出て行った。
「かすみ、ごめん」
ドアの外で待ち受けてたらしいツグミの声が聞こえた。
「ツグちゃんが謝ることなんてなんにもないよ!私こそ強引にごめんね。でも雨ちゃんと話せてよかった。雨ちゃんて素直でいい子だね!なんかかわいいなぁ……」
扉越しのに聞こえてきたあの人の言葉に、なぜか胸がきつく締めつけられた。
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