12 / 26
姉の代わり
第12話
しおりを挟むしつこい私は、それでもまだかすみさんに会いたかった。どんなに気まずくても、どんな顔をしたらいいか答えが出なくても、次の家庭教師の日を待ちわびた。
完全に拒まれたあの日から四日後、胸を高鳴らせ目覚めると、ちょうどそのタイミングで家の電話が鳴った。何かを感じて寝癖のままリビングへ急ぐと、すでにしっかりと身だしなみを整えたお母さんに、あと一歩のところで受話器を取られてしまった。
仕方なく私はすぐ横に立って、電話相手の正体をお母さんの受け答えから暴こうと試みる。よそ行きの声色で、相手を気遣うような言葉を贈って受話器を置いたお母さんは、『今日はお休みさせて下さい』というかすみさんからの電話だったと私に言った。かすみさんは体調を理由にしていたらしいけど、私は嘘だと思った。
もしかして、もうかすみさんは二度と来てくれないんじゃないか……?それどころか、もう私に会うつもりがないんじゃないか……?その日から苦しみの種がもう一つ増えた。
三日後にやって来る次の家庭教師の日に、その答えが出る。そのカウントダウンをするように一秒一秒刻む秒針の音がうるさくて、耳を塞いだ。
お腹の空き過ぎで体の中からゴォゴォと大きな音が鳴っても何も食べる気がしなかったし、一ヶ月前から予約していた大好きなマンガの新刊が届いても読む気にならなかった。
そうやって廃人のようにかすみさんのことだけをただひたすら浮かべながら、三つの夜を越え三つ目の朝が来た。
遅く寝たのに早く起きて、カーテンの隙間から外を見る。今日は雨だ。
きっと今日も来ない……。
そんな気がしていた。
窓越しに雨降りの空を見上げながら、私のことを想ってはくれないかすみさんを想っていた。
昼が過ぎ、約束の時間間近になった。まだ電話は鳴らない。それでもまだ信用出来ない気持ちが消えなくて何もしないではいられず、気をそらそうと考えた私は、こないだ届いたマンガを手に取って無理矢理に読んでみた。だけど、いくらページをめくってもマンガの内容は一切入ってこなかった。
あと15分……
普通に考えれば、この時間まで連絡がなければ予定通り来てくれるはず。かすみさんは連絡もなしに休むような、そんないい加減な人じゃない。それは分かってるのに、本当に来るのかまだ不安でいっぱいのまま、役に立ってくれなかったマンガを棚に戻そうと立ち上がったその時、
ピンポーン……
家中にチャイムの音が鳴り響いた。
かすみさんが来た?!
でも、家庭教師の時間にはまだかなり早い……。ぬか喜びはしたくない。宅配便の可能性が高いと自分に言い聞かせながら、私はマンガをベッドの上へ放り投げて玄関に向かった。
ドアスコープから外を覗く。扉の前には、少し緊張した面持ちで髪を耳にかき上げるかすみさんがいた。
その仕草に息を飲み見とれた。
我に返り扉を開けると、かすみさんは何もなかったようにいつもの笑顔で笑ってくれた。
「少し早かったかな?」
「いえ、全然……待ってました」
***
部屋に入ると、腰を下ろす間もなくかすみさんはしおらしく謝った。
「前回はごめんね、お休みして……」
「もう来てくれないのかと思いました」
「……正直、その方がいいんじゃないかってすごく悩んだの。……そしたら体に支障が出て体調崩しちゃって……ごめんね」
かすみさんは嘘をついていたわけじゃなかった。疑ってしまった私の胸を罪悪感の針がチクっと刺した。
「色々考えたんだけど、でもやっぱり、私から雨ちゃんの家庭教師辞めるなんて言い出すのは無責任過ぎるって思って……」
「私がいけないんです!もう好きだなんて言わないって言ったくせに……約束破ってごめんなさい。もう本当に二度と言いませんから、もう辞めるなんて言わないで下さい!」
「………もう言わないよ。ありがとう」
かすみさんはそう言って、私の頭をやさしくなでてくれた。
これでまたかすみさんといられる。願いが叶ったはずなのに、それと引き換えに、もうその手に触れることは絶対に出来ないんだと思うと、体の中から涙が沸き上がってくるのが分かった。それが体の外へ出てきてしまう前に、私は自分から切り替えた。
「先生、今日もお願いします!」
「うん!」
そうして、一週間ぶりの授業が始まった。
余計な会話などせず、目を合わすこともない時間。私にはそれでも掛け替えのない時間だった。以前より笑い合うことはなくなったけど、笑顔じゃなくてもかすみさんを見ているのはやっぱり好きだった。
授業中、ノートの上で偶然に指と指が当たってしまうと、かすみさんはとても申し訳なさそうに謝った。そんな時、私はそのままその手を握りしめてしまわないように必死だった。
私たちが真面目に勉強会を重ねている間、ツグミの部屋には例の女の子がちょくちょく訪ねてきた。その様子に感づくと、かすみさんはやけに私に明るく振る舞った。
私にはそれが何よりも悲しかった。
0
あなたにおすすめの小説
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
さくらと遥香
youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。
さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。
◆あらすじ
さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。
さくらは"さくちゃん"、
遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。
同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。
ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。
同期、仲間、戦友、コンビ。
2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。
そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。
イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。
配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。
さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。
2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。
遥香の力になりたいさくらは、
「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」
と申し出る。
そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて…
◆章構成と主な展開
・46時間TV編[完結]
(初キス、告白、両想い)
・付き合い始めた2人編[完結]
(交際スタート、グループ内での距離感の変化)
・かっきー1st写真集編[完結]
(少し大人なキス、肌と肌の触れ合い)
・お泊まり温泉旅行編[完結]
(お風呂、もう少し大人な関係へ)
・かっきー2回目のセンター編[完結]
(かっきーの誕生日お祝い)
・飛鳥さん卒コン編[完結]
(大好きな先輩に2人の関係を伝える)
・さくら1st写真集編[完結]
(お風呂で♡♡)
・Wセンター編[完結]
(支え合う2人)
※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。
名もなき春に解ける雪
天継 理恵
恋愛
春。
新しい制服、新しいクラス、新しい友達。
どこにでもいる普通の女子高生・桜井羽澄は、「クラスにちゃんと馴染むこと」を目指して、入学早々、友達作りに奔走していた。
そんな羽澄が、図書室で出会ったのは——
輝く黒髪に、セーラー服の長いスカートをひらりと揺らす、まるで絵画から抜け出したような美しい同級生、白雪 汀。
その綺麗すぎる存在感から浮いている白雪は、言葉遣いも距離感も考え方も特異で、羽澄の知っている“普通”とは何もかもが違っていた。
名前を呼ばれたこと。
目を見て、話を聞いてもらえたこと。
偽らないままの自分を、受け入れてくれたこと——
小さなきっかけのひとつひとつが、羽澄の胸にじわりと積もっていく。
この気持ちは憧れなのか、恋なのか?
迷う羽澄の心は、静かに、けれど確かに、白雪へと傾いていく——
春の光にゆっくりと芽生えていく、少女たちの恋と、成長の物語。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる