姉の彼女を好きになりました。

榊󠄀ダダ

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白昼夢の続き

第14話

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 あの日からかすみさんは家庭教師の日じゃなくても家に来るようになった。


 ツグミじゃなく、私に会うために。


 でもその心のほとんどはまだツグミで埋まっていることを、私はちゃんと知っていた。それでも、かすみさんを好きな気持ちだけが私を奮い立たせていた。

 休みの日、私たちは一日中、狭い部屋の中、二人だけで過ごした。壁にもたれるようにしてベッドの上に並んで座り、かすみさんの話す小さい頃のこと、好きなもののこと、大学生活のことに私はじっと耳を傾けていた。

 「私の話なんて特別変わったこともないし、つまらないでしよ」

 とかすみさんは謙遜していたけど、どんな小さなエピソードも、私には一生消えない記録として保存しておきたいくらいに価値があった。そして、そうやってかすみさんのことを知れば知るほど、もっと好きになっていった。

「かすみさんこそ、部屋で話してるだけでつまらなくないですか……?」

 私にとってはかけがえのない最高の時間だけど、かすみさんは物足りなさを感じているんじゃないかと不安になる。だって、かすみさんは私のことをそうゆう風に好きなわけじゃないんだから…… 。

「どうして?私は楽しいよ!雨ちゃんはつまらない?」
「楽しいです!かすみさんといるだけで、なんにもしなくたって私は幸せです……」

 急に恥ずかしくなって言葉終わりに目をそらしてしまうと、かすみさんは嬉しそうに私の頬に触れ、自分の方へと優しく向かせた。

「私も雨ちゃんと話してると本当に楽しい。他の誰といるよりすごく自然でいられる気がする」

 そんなふうに言われて欲が出てしまった。

「……ツグミよりもですか?」

 その名前にかすみさんは一瞬で笑顔を曇らせ、触れていた手を離した。

「ごめんなさい……」

 すぐに後悔して謝った。かすみさんは膝を抱えるように座り直して苦笑いをした。

「謝ったりしないで。……ツグちゃんとは、自然でいられるなんてことなんて、たったの一度だってなかったな……。いつも気を張って緊張して、好きなのは私だけなんじゃないかっていっつもいっつも不安だった。一緒にいる時間は増えていくのに、いつまでたっても縮まらない距離があることをずっと感じてて……寂しいことばっかりの毎日だったんだよね」

 本心と私へのフォローを兼ねたその話に、私はまた傷ついた。かすみさん自身は気づいていないけど、そこにはツグミを好きなことがよく分かる言葉達が並んでいた。そしてそれは、私がかすみさんを想う時ととてもよく似た感情だった。

「……ツグミはマイペースな人間だから、自分からわざわざ人と距離を縮めようなんてこと、誰に対しても思わないんじゃないかな」

 私が冷めた調子で言うと、かすみさんは真剣な顔で反論した。

「でもきっと、ツグちゃんにももっと自分をさらけ出して心を通わせられる相手がいるんだと思うよ!……それが私じゃなかっただけで……」

 私は恐くて、その時のかすみさんの顔を見ることが出来なかった。

「……私の相手は、雨ちゃんだったのかもしれない」
「かすみさん……」

 ゆっくりと顔を上げると、かすみさんは私の顔を見て嬉しそうに笑った。ちょっとだけ意地悪そうな笑顔が死ぬほど可愛い。だけど、私にはそのリアクションの理由が分からなかった。

「なんで笑ってるんですか?」 
「だってね、雨ちゃんて、本当に私のこと好きでいてくれてるんだなぁ……て思って」 
「……す、好きですよ……そりゃ」
「私が何か一言言うたびに顔赤くしちゃったり、この世の終わりみたいに悲しい顔になったり、目まぐるしくて可愛い。そんな雨ちゃんを見てると、私、愛されてるんだなって安心するの」
「……だって、私の心の中は、全部かすみさんで埋まってるから……」

 生意気なことを言った後、膝をぎゅっと抱いて、自分の体が最小になるくらいに縮こまった。すると、かすみさんは私との距離を詰めて座り直した。

 鼓動から来る振動を止めようと、自分の体をもっときつく押さえつける。

「……かわいい」

 そう言ってかすみさんは私の肩に手を回すと、自分の方に私を引き寄せた。体中に力を込めていた私は、あっけなくかすみさんの胸の中にコテっと倒れた。耳の辺りにかすみさんの胸の柔らかさを感じた。

「私も雨ちゃんが好きだよ」

 その言葉は嘘じゃない。だけど、私よりも好きな人がいる。全て把握していても、かすみさんの思わせぶりなセリフに惑わされそうになり、私は全身で感じてしまっていた。

「雨ちゃん、私としたいことある?」
「……し……したいことって……?」
「……本当は分かってるでしょ?」
「あ、あの……」
「お願い、言葉にして言って。私、雨ちゃんの口からちゃんと聞きたい」
「…………キスがしたいです」

 思い切ってそう言った後、かすみさんを見上げた。すると、かすみさんはすぐに唇をくれた。
 何度繰り返しても慣れることのない快感に、私は初めての時のように自分を失って溺れた。

 息をすることも忘れて無我夢中でかすみさんを求める。限界的に息苦しくなってようやく一瞬離れると、言葉通り息つく間もなく少しだけ開けた唇の間から、かすみさんの生ぬるい舌が入ってきた。その瞬間、私の体の中の核が強く反応をした。

「雨ちゃんすごくかわいい……」

 かすみさんはそんな私を愛おしそうな目で見つめながら、キスを続ける。

「……かすみさん…………かすみさん………」

 どんな言葉でも足りないと感じる。だから私は、名前を連呼し続けた。

「次は?次は何がしたい?」

 かすみさんは瞬きもせず目よりももっと奥をじっと見つめてくる。私は心臓が爆発しそうになりながら、欲望を口にした。

「かすみさんに……触りたいです……」
「いいよ……雨ちゃんの好きなように触って……」

 耳を疑うほどの言葉で許しが出たけど、どう触ったらいいのか、どこまで触ったらいいのか分からない。私は固まってしまった。そんな私をけしかけるように、挑戦的な目で覗きこむ。かすみさんのそんな表情、私は見たことがなかった。

「雨ちゃん、私が欲しくないの?」
「……欲しいです……」
「なら、無理にでも自分のものにしたらいいのに。……ツグちゃんのこと、忘れさせてくれるんでしょ?」

 かすみさんが発した『ツグミ』という言葉が私に火をつけた。くだらない羞恥心が一気にどうでもよくなる。私はかすみさんをそのままベッドに押し倒すと、初めて自分からキスをした。さっきされたように、見よう見まねでかすみさんの中へ舌をいれようとした。唇のすき間から侵入した瞬間、かすみさんの体はビクッとして、私と同じように体全身で感じてくれた。
 その様子を見て少し自信をつけた私は、服の上からかすみさんの胸にそっと触れた。その想像以上の柔らかさに驚いて手が止まった。

「直接触ってもいいよ?」

 かすみさんは一人じゃ何も出来なそうな頼りない私の手を取り、一緒にシャツの裾から中へ入っていってくれた。肌の上を滑りながら導かれ、直接その胸に触れる。服の上からと比べ物にならない溶ろけてしまいそうな感触に、脳の中の大切な回路が一部ショートしたような、そんな衝撃を感じた。

 そこからは、ほとんど記憶がないくらい必死だった。どうしたらいいか分からなくても本能で動き、その動きが正解かどうかは、かすみさんの声をよく聞いて確かめた。ツグミがどんなふうにこの人を抱いたのかは知らない。ただ、ツグミを思い出す間も与えないほど、かすみさんを感じさせようと、そればかりを考えていた。

 かすみさんの服を一枚一枚脱がしていくたび、その心の中に入っていけるような気がした。
 かすみさんに声にならない声で呼ばれると、それだけで私の中からは色んなものが溢れてきた。

 だけど、そんなふうに夢中になりながらも、不思議と脳の一部には冷静な自分が残っていた。
 
『もう二度と戻れない場所に来ちゃったけどいいの?』

 淡々と話しかけてくる自分の声を無視して、私はかすみさんの肌に唇を這わせた。














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