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第三章 しきいし
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しおりを挟む華隠の花弁が一枚剥がれた翌日。
お屋敷から出られない私の為に、亜由美ちゃんと、なんと香本さんがお見舞いに来てくれた。
二人とも何となく私の今の状況を知っているようで、その辺については一切触れない。
玉彦の部屋だと気を遣うので、他の部屋にしようと思ったけど、本人は部活に行ってしまったのでまぁ良いかと、南天さんに二人を通してもらった。
「上守さん、お久ー! 私まで来ちゃったけど良かったかな?」
香本さんは、あの頃と少し背が高くなったくらいで何も変わっていない。
ショートカットのスポーツ女子。
「うん、全然大丈夫。あ、適当に座ってー」
「適当にって言われれも……」
亜由美ちゃんが部屋に入るのを躊躇する。
「どうしたの?」
「だって、ここ玉様のお部屋なんだよね?」
あぁそうか。
私にとって玉彦は玉彦以外の何者でもないけど、村の人にとっては正武家の玉彦様は特別な人間で、敬い畏れている。
そんな人の部屋に許可なく入ると、何かあるんじゃないかと思うのも無理はない。
すると南天さんが私たちを庭へと案内してくれる。
どうやら庭にシートを敷いて、お茶会の準備をしてくれたらしい。
「なんつーか、玉様の家って未知の領域過ぎて、わけわかんない」
香本さんがシートに胡坐を掻いて座り、南天さんが用意してくれた冷えた麦茶とお菓子に手を伸ばす。
亜由美ちゃんは正座をして、お行儀良くして頷く。
二人ともきょろきょろと庭を見渡すけど、そこには青々と葉を茂らせた大木と、金魚が泳ぐ池、後は母屋の縁側がズズッと続いている。
確かに。
私はもう見慣れてしまったけど、初めて訪れた時にはあまりの広さに驚き、この母屋の他に、澄彦さん側の母屋があり、そして来客やお仕事をする為に外廊下で繋がれた離れがある。
そして産土神を祀る大社があり、奥には本殿が控える。
通常は離れだけが来客に解放され、こういう風にわざわざ裏門を通り、母屋に招き入れられることはない。
同級生だからといって、じゃあお家に遊びに行くね! なんて気軽に言えない。
それが正武家というお屋敷だった。
豹馬くんや、今だと須藤くんも当たり前の様に訪れているけど、それは稀人であるからで、亜由美ちゃんや香本さんのように入られないのが普通で。
「上守さんはしばらくここにいるの? それともこれからはずっとここに住むの?」
「まさか。夏休み終わったら帰るよ。その前に帰ることも有り得るけど」
「てっきり花嫁修業しに来たのかと思ってたよ」
「絶対違うから」
私と香本さんばかり会話をしていて、亜由美ちゃんが中々入って来ない。
どうしたのかと見れば、瞳をウルウルさせていた。
「どうしたの、亜由美ちゃん」
「比和子ちゃん。来てくれてほんとうちは嬉しいっ!」
急に亜由美ちゃんに抱き付かれ、背中に手を回しポンポンしてみる。
女の子だし、流石に玉彦も怒らないだろう。
「うち、ほんと辛くて辛くて」
「えっ、何が?」
もしかして私にこの四年間恋でもしていたんだろうか。
いや、まさか。
あの頃は豹馬くんが好きだったはずだし。
すると香本さんが肩を竦める。
どうやら事情を知っているみたいだ。
私は亜由美ちゃんを宥めながら、香本さんに首を傾げて話をしてもらう。
「遡れば一か月前!」
やたらと気合を入れて香本さんは話し始める。
「私たちの高校に、アイツが転校してきた。学校では玉様にべったり、逃げられてたけど。私たち女子は小間使い扱い。特に亜由美なんて御門森と仲良かったから目の敵にされててさぁ!私たちも玉様の花嫁候補って聞いてたから強く言えないし、そしたらすんげー調子に乗って!」
あぁ、だんだん話が見えてきてしまった。
「そのうちに今度は玉様のお屋敷で一緒に住みだしたって、鼻高々でさ。私たちは上守さんは一体何やってんだって思ったよ。だって玉様はずっと『私には比和子がいる』って告った相手を一刀両断だったから。でもさー流石に慣習には逆らえないのかなって、皆で噂してたんだよ」
「そしたら、夏休みにはいってすぐ比和子ちゃんが家に来てくれてっ。玉様が居たから聞けなかったんよ。でも後藤さんがここにいないってことは、そういうことなんよね?」
「あーうん。澄彦さん曰く、お引き取り頂いたよ」
その言葉に二人はホッと胸を撫で下ろしたのがわかった。
てゆーか、あの人、学校まで転校してたのか。
高校で転校するって結構大変だと思うんだけど。
しかも、そんな話になっていたなんて誰も教えてくれなかったし。
豹馬くんに至っては、追及されるのが面倒で電話にも出なかったし!
「いやー良かった良かった。このままだと虎の威を借る豚に亜由美がいびられ続けるところだったよ」
亜由美ちゃん……。
私は腕の中の彼女を強く抱きしめる。
電話した時に口ごもったのは、私と玉彦はもう終わったと思ってたから、後藤さんのことを話せなかったんだ……。
なんて、なんていじらしい。
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