私と玉彦の六隠廻り

清水 律

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第四章 こんやく

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 午前中の騒動が嘘のように静まり返った夕方の正武家には、私と玉彦、そして松梅コンビしかいない。
 私たちはこの後、お祭りに行くけど、流石に正武家を留守にするわけにもいかず、松梅コンビが残ることになっていた。
 四年前の夏に置いて行った浴衣が現在の私に合うように仕立て直され、袖を通す。
 正武家の一つ紋が入ったこの浴衣は、私の気を引き締めた。
 私も今日から、正武家の一員なのだ。
 名字はまだ上守だけど。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、玉彦は変わりない。
 もしかして本殿に上がるって、実は私が考えていたよりも大したことないのかな。

「準備は出来たか」

「オッケーだよ」

 ひょっこりと顔を覗かせた彼にサインを出せば、彼も仕立て直したあの時の浴衣を着ていた。
 四年前にタイムスリップしたみたい。

 それから石段の下で待っていた南天さんの車に乗り込み、お祭り会場へと移動する。
 前回はお祖父ちゃんの軽トラの荷台に亜由美ちゃんと乗っていた話をすれば、運転席で南天さんが肩を揺らしていた。

 神社に到着すると、そこはもう人で溢れていて、露店も賑わっている。
 私は団扇を帯に差し込み、玉彦と鳥居を抜けた。

「比和子ちゃーん!」

 お参りを終えたあと、後ろから亜由美ちゃんの声が聞こえ振り向けば、いつものメンバーが揃って手を振っていた。
 今年はそこに須藤くんもいる。
 みんなの元に駆けると、香本さんがハグをしてくる。

「うちのお父さんから聞いたよー!」

 何を? と聞くまでもない。
 今日の午前中に行われたことだろう。

「お祝いにたこ焼き奢ってあげるから、いこっ!」

 香本さんに手を引かれ玉彦を見れば、彼もまた仲間たちに囲まれ何かを言われている。
 口元を団扇で隠して頬が少し赤くなっていたので、からかわれているんだろう。

「こりゃあファンクラブも解散だなー」

 香本さんは買ってきたたこ焼きをふーふーして、私を恨めしそうに見る。
 亜由美ちゃんも隣で頷いていたけど、恨めしそうではない。
 前回のお祭り同様、私たちは休憩所のテーブルを三つ占領して宴会を始めている。
 大人になればあちら、神社の境内で呑んだくれている人たちと混ざるんだろうか……。

「解散しなくても、豹馬くんとか須藤くんがいるじゃん」

「無理無理。玉様に彼女が出来たんだから、あの二人だって作るよ」

 どうやら玉彦を差し置いて彼らが彼女等を作れないのは周知の事実だったらしい。
 知らなかったのは、村民ではない私だけ。

「でもそんなすぐに出来る?」

「須藤は分かんないけど、御門森は、ねぇ?」

 と言って、香本さんが隣の亜由美ちゃんをつついた。
 えっ。まさか!?
 私が身を乗り出すと、亜由美ちゃんは真っ赤になって俯いてしまった。

「うそ、いつから!?」

「んー、去年、御門森くんに告白したんよ。そしたら玉様が比和子ちゃんときちんとくっついたら良いよって」

 だからか。
 だから豹馬くんは私を急かしたんだ。
 やられたー! と思う反面、ごめんとも思う。

「じゃあ、もしかしたら今日……」

 私と香本さんは顔を見合わせて下世話な笑いをした。
 小町と守くんが付き合い始めた時の様に、嬉しい。
 もし亜由美ちゃんが豹馬くんとずっと続くなら、私ともずっと続くってことだから。

「じゃあ、この流れでいくと香本さんは須藤くん?」

「ま・さ・か! 私はそういうのいらないわ。面倒臭そう」

 だったら走っている方が楽しいと香本さんはマラソン愛について語りだす。
 途中まで聞いていたものの、途中で飽きてきた亜由美ちゃんに強制終了させられていた。

「じゃあ今日はそろそろ解散しよー」

 香本さんの言葉にみんなが動き出す。
 テーブルを片付けて、ゴミを捨てる。
 男子たちは協力もせずに何かをして遊んでいる。
 こうしてみると、玉彦もやっぱり高二の普通の男子なんだよなぁ。
 私が知っている玉彦は、正武家にいる玉彦で、あの喋り方で高校生活を送っているのか疑問もある。

「ねぇ、亜由美ちゃん、香本さん」

「んー?」

「玉彦って学校でどんな感じなの?」

「あんな感じだよ?」

「あの喋り方なの?」

「あー。時々地が出て御門森くんに注意されてるんよ」

「じゃあ普通に喋れるの!?」

 二人は顔を見合わせて、驚いている。

「え、普通に喋れるよ」

「そうなんだ……」

 全然イメージが沸かない。
 だって澄彦さんはともかく、玉彦のは一瞬の疲れた寝入りばなにしか聞いたことはない。
 寄りに寄って私だけ知らないなんて。

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