30 / 51
第五章 くらんど
1
しおりを挟むお祭りが終わり、お盆を迎えるころ。
ようやく私の四枚目の花弁を剥がす為に、正武家が動いた。
残り三枚の花弁があるのにも関わらず、残された鬼の敷石は二つ。
御倉神が以前示した鬼の敷石の場所も五つだった為、残された内のどちらかに隠が二人いる可能性が高かった。
そのために万全の態勢で挑む予定だったのだけど、澄彦さんが外でのお役目の為に鈴白を一時離れなくてはならず、延期されていた。
そして、私はというと。
「お前、本当に学校へ行っているのか!? 遊んでいるだけではないのか!?」
「失礼ね! これでも学年二十番以内には入ってるわよ!」
「ではどうしてこのような答えになるのだ!?」
「うっ……」
玉彦のスパルタ教育に耐えていた。
六隠廻りのペースが上がらず、しかも私を鈴白の君と呼んだ隠の行方は知れず、それらが解決するまで私は鈴白村から出ることが叶わなくなったためだ。
澄彦さんの見込みでは、夏休みには到底間に合わないということで、高校の編入試験に向けて猛勉強している。
私的には亜由美ちゃんや香本さんがいる家政科でも良いと思っているんだけど、玉彦的にはどうしても同じクラスになりたいらしく、無謀にも進学特化に進ませようとしている。
どうやら私の学力は、普通科と進学特化の中間らしく、どちらに転ぶかは数学次第だった。
でもなー、私、文系で理系は苦手なのよ。
「どうやったら、このような!」
「……玉彦。教えるのに向いてない。守くんだったらもっと優しく教えてくれるのに」
ぼそっと呟くと、玉彦は参考書を静かに閉じて部屋を出て行く。
守くんの名を出すのは不味かったと思いつつ、私は縁側の障子を開け放った。
太陽は高く、今日も晴天だ。
こういう日には外へ出掛けたくなるけれど、我慢だ。
縁側で寝転がり日向ぼっこを楽しみつつ、私は数学の参考書を読み込む。
玉彦は問題を死ぬほどこなせっていうけど、私的には違う。
彼のレベルと私のレベルが違うのだ。
問題云々の前に、理解が追い付いていないから混乱して躓く。
だからまず、理解から。実践はそのあと。
さぁ頑張るぞと意気込めば、その一歩を襖のノックが阻んだ。
「なによ!」
どうせ玉彦だろうと適当に返事をすれば、現れたのは南天さんで、私は飛び起きて平謝りした。
南天さんは少し笑ったあと、家庭教師を申し出てくれた。
そういえば玉彦が学校へ行けない時、南天さんが教師役っていってた記憶がある。
恐縮しまくりの私を前に、南天さんの授業が始まった。
「あーっ。そういうことだったんだ」
「ですのでこれをですね、ここへ持ってくると。先ほどの応用になります」
南天さんの教えは素晴らしかった。
褒めて褒めて伸ばす。決して怒らない。罵らない。馬鹿にしない。
お蔭でびくびくしないで質問もしやすいし、何よりも間違えることが怖くない。
間違えればどうして間違えたのか、原因を私自身で気付けるように導いてくれる。
時計が十五時を示すと、南天さんはお屋敷の仕事があるからと切り上げる。
勉強を続行しようとした私には、長時間勉強するよりも短時間で中身のある方が良いと言ってこれからは午前中のみの時間とした。
私、南天さんの背後に後光が見えます。
ぐーっと背筋を伸ばして、ぐたっとする。
そして踝の印を撫でた。
あと、三枚。
近々鬼の敷石へと澄彦さんは言っていた。
その敷石に隠は何人いるんだろう。
「あーもう。いつ終わるのかな……」
「はやく終わればいいのー」
誰かの返事なんて期待していない独り言に応える声。
また、来たのね……。
隣に視線を移せば、御倉神が揚げをつまみ、口の中に入れるところだった。
今日は揚げの日だったのか。
「本当にそう思ってる?」
聞けば頷くけど、絶対楽しんでると思う。
御倉神は何しに来たのか、それからすぐに姿を消した。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる