私と玉彦の六隠廻り

清水 律

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最終章 ひっこし

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「だって、比和。玉様とずっと逢ってないって言ってたじゃん。それがどうしてこの短期間で婚約になるのよ。妊娠したの!?」

「おい、小町。流石にそれはないって」

「まだそういう事には至っていないので妊娠はしない」

「ちょっと、玉彦! そんなこと真顔で言わないでよ!」

「比和、やってないの!?」

「小町、そこは重要じゃないから!」

「ずっと犬のようにお預けを喰らっている」

「玉彦っ!」

「あぁ、その気持ち、俺もこの前までそうだったから良く解かるわ……」

「守くん!?」

 カオスだ。
 この部屋は今、カオスに包まれている。
 どうして婚約した話から、やったやらないの話になっているのか。
 出来ればそこは触れたくないのに。

「とっとにかく! 玉彦と婚約して、ゆくゆくは鈴白村に行くけど。今回の問題が解決したら、こっちに帰って来るよ」

 私は一息に喋って、三人を黙らせることに成功した。
 何故か玉彦と守くんは男同士の暗黙の頷きと溜息を洩らし、目で会話している。
 小町はぽかーんとしていたけど、我に返って首を振った。

「あのさ小町、玉様に訊きたいんだけどいい?」

「なんだ」

 いつの間にか玉彦は二人に馴染んでいる。
 それがちょっと嬉しい。

「高校卒業したら、結婚するの?」

「それはまだ決めていない。お互い進学を考えているなら先になるだろう。俺の希望は今すぐにでもだ」

「玉様って大学出たら、どうやって比和を養うの? どっかに就職するの?」

 小町の疑問に、私も考えた。
 言われてみれば、澄彦さんって正武家のお役目以外で何の仕事をしているんだろう。
 会社員ではないだろうし、正武家の主な収入源って何だろう。
 お役目の依頼で多少は収入がありそうだけど、あの広いお屋敷を維持するだけでも相当に費用が掛かるはずで、スーツや着物、どれを見ても特上品だ。
 車だって何台もあるし。

「養う? あぁどのように金を稼ぐということか?」

「そうそう」

「正武家の収入としては、鈴白を含む五村の土地はほぼ正武家のものだ。なのでそこに住まう者達からの借地料や賃貸料がある。それと、本業では持ち込まれる案件一つで大体百から千は動くな」

 私たち三人は当たり前に語る玉彦に開いた口が塞がらなかった。
 確かに昔正武家は、時の帝に五村の地を寄越せといって賜ったけどそれが今も続いていることに驚く。
 それに持ち込まれる案件ってまぁそういうたぐいのことなんだろうけど、百から千って多分、百円から千円って訳じゃないと思う。

「そこから正武家の屋敷の者たちに給与を支払い、諸々の雑費を考えても不自由を感じることはないとは思うが。もし贅沢をしたいというのであれば、父上のようにどこかへ投資をするのも面白いだろう。今までの俺の働きは全て預金してあるから、比和子の好きなように使えば良い」

「そんなの、いらないよ。普通に生活出来れば良いし。てゆーかそういう話は、二人の時にしようよ」

「だがお前の友人は、俺に比和子を任せて安心なのかどうかを知りたがっている。そうではないのか、小町」

 小町は初めて玉彦に呼ばれて、びっくりしてニヤリと笑った。

「まぁ、小町的には合格かな。見た目も経済力もあるみたいだし。比和のこと、大事にしてくれそうだし。あとはさ、どこまで玉様がうちらの前で猫を被っているかってことだよね。お酒が呑める歳になるのが楽しみだよ」

「その時は受けて立つ。極上の酒を用意しておこう」

 挑発的な小町に玉彦は余裕の笑みで返す。
 その時は俺も混ぜろと守くんも加わる。
 いつかこの四人で、あのお屋敷の縁側で、お酒を酌み交わす日が来るのだろうか。



━━━━……




「思いの外、良い二人だったな。比和子が離れたがらないのも頷ける」

 深夜の高速を走る車の窓から夜景を眺め、玉彦が呟いた。
 私たちは結局通山には泊まらずに、鈴白へ帰ることにした。
 何故ならば、私の弟のヒカルが玉彦に対抗心剥き出しで戦いを挑むので。
 最初は軽くあしらっていたものの、あまりの激しさに玉彦のことが居たたまれなくなって『私が』根を上げた。
 南天さんはその様子をムービーで撮っていたけど、その顔は物凄く笑いを堪えていた。

「うん。ほんとあの二人にはお世話になっているんだー」

「守はお前の初恋だったか……」

「えっ」

 私、初恋相手が守くんだって玉彦に話したことあったっけ?
 絶賛初恋中だと言った覚えはあるけど。

「キャンプの時。泣いていた」

「あれは失恋した涙じゃないよ。玉彦が私に背中を向けたから、悲しくなってただけ」

 こちらを見ずに夜景に視線を流す玉彦にならって、私も顔を背けて夜景を見る。

「俺はあの日、豹馬に引かれたのもあるがお前に逢いたくて参加した。その横に守がいて絶望したのだけは覚えている」

 小町が何度も玉彦がこちらを見ていると言っていたのは本当だったのか。

「だからお前が泣いていてもアイツが慰めるだろうと思っていた」

 ところがどっこい。
 その時は小町と守くんがくっついた瞬間だったから、私は誰にも慰められなかった。
 玉彦が振り向いてくれるまで。

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