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永久の別れ
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しおりを挟む行う必要のない禊をする玉彦。
私はだんだんと不安になる。
彼にしか理解できない何かがあるのだろうか。
「深く考えなくてもいいんだけどさ。僕が心配してるのは、この時期ならばいざ知らず、真冬ならば禊して風邪を引くんじゃないかってこと」
「冗談を言ってる場合じゃ……」
「でもそうだよなぁ。冗談にはできないよなぁ。だって一々そんなことをしに帰って来るってなると、この先遠出は出来ないよねぇ」
今日みたいに。
予定をキャンセルしてまで禊に拘ると今後のお役目にも支障が出る。
そもそもそうなってしまったには切っ掛けがあると思うけれど、本人に聞いても口を閉ざすか無意識なんだろうし。
考え込む私をよそに澄彦さんは呑み直すと言って、台所から立ち去った。
台所で簡単な食事を終えた私たちは、部屋へと下がり大した会話も無くお布団に入った。
手だけを繋いで目を閉じる。
今夜は流石に邪な考えがないようで、玉彦の規則正しい寝息がすぐに聞こえてきた。
僅かに顔をそちらへと向けると、相変わらず寝ているのに凛々しい横顔だ。
そう言えば初めて彼の寝顔を見た時も、凛々しいなって思ったんだっけ。
竜神の荒魂を私の中から追い出してくれたあの日。
玉彦はお力を消耗して、私と一緒に寝ていた。
今みたいに手を繋いだまま。
あの頃を思い出して、私はその時に竜神の荒魂が彼に放った言葉がポンと頭に浮かんだ。
『穢れ? お前たちの方が余程穢れているだろう』
私の口を使って竜神の荒魂が玉彦にそう言って、彼は顔を歪めた。
彼がその時のことを思い出すとき、映像的には私が言っているように感じたんじゃないだろうか。
たとえそれが私の本意ではないと理解をしていたとしても。
玉彦はもうその時には無意識に私のことを本殿に上げちゃったくらいだったから、結構なショックだったのかもしれない。
もしかして、それから?
玉彦は穢れていると思われたくなくて、禊をしている?
だから私に触れられないって思いこんでる?
原因はもっと別のことかもしれないかもだけど、私が思い当たるのはそれしかない。
微かに動揺した私の気持ちが、繋いだ手を揺らした。
身じろいだ玉彦が横向きになってパチリと目を開く。
「眠れないのか」
「大丈夫。大丈夫……」
彼との距離を詰めて、私はその胸に寄り添った。
この人は、とんでもなく不器用な人だ。
自分の感情に鈍感だし、人間関係にも疎い。
でも、それでも私のことは好きだと自覚できるくらいに想ってくれている。
それって相当貴重だと思う。
純粋。だから穢れが許せない。
清濁の濁に弱い。
頑張って受け止めてはいるけれど、いつか受け止めきれなくなったとき、彼はどうなるんだろう。
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