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清藤、再び
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しおりを挟む護石での休憩時。
空を見上げた澄彦さんはニヤリと笑って、清藤の数はおよそ十と言った。
主要の三人と付き人が七人。
主要の一人である主門は今、石段前にて澄彦さんと対峙中。
到着した時にバイクの下敷きになったのが一人。
石段の途中で私と須藤くんにド突かれたのが二人。
そして表門にて須藤くんのお母さんに伸されたのが一人。
ということは、次代の都貴と亜門。
それに従う付き人が三人残されている計算だ。
都貴と亜門が単独で動いているとは考えにくく、三人、二人と分かれて行動していると考えて間違いないだろう。
問題はこの五人が狗を使役するのかどうか。
二人は既に確定している。
これだけでもかなり面倒である。
頭数が単純に増えるので相手をするこちらも人手が必要。
でも二匹の狗に私が触れれさえすれば、解決出来る。
だから残りの三人の狗。
表門で二匹の首が刎ねられていた。
付き人七人に対して狗が二匹。
最低でもあと五匹はいると覚悟しておいた方が良いかもしれない。
そして正武家には家人が二人。稀人が五人。そして須藤くんのお母さんも参戦して合計八人。
私は頭数には入らない。
数だけ見れば圧倒的に不利に感じるけど、量より質で優っている。
清藤は付き人複数人でお役目にあたっていたけれど、こちらはそれを稀人一人で担っている。
そう考えればと思うのは、身内贔屓だろうか。
「状況はどうなってるの?」
「裏門にて宗祐さんと多門が抑えています。次代は本殿前……」
須藤くんの報告を途中まで聞いて、走り出す。
玉彦は本殿前にいる。
まずはそこへ行かなくては。
だって私は彼を護らなければならないのだから。
自分はそんなに弱くはないと膨れていたけれど、弱くなくたって傷は付くし、痛みだってある。
玉彦から惚稀人として乞われた大木を過ぎて、二人で手を合わせた産土神の社の前を抜けて。
外廊下の脇を横目に離れの裏側。
岩に半分飲み込まれた荘厳な本殿前に、背を向けた白い着物姿の玉彦が腕組みをして立っていた。
けれど。
「玉彦!」
名を呼ばれて振り向いた玉彦の髪は、最初に出逢った時の様になっていた。
違うとすれば前髪がぱっつんではなく、横に流されていること。
大人の男がそんな髪形って絶対に似合わないと思うけど、何故か玉彦には良く似合っていた。
私の姿を見止めた玉彦はゆっくりと腕を広げたので飛び込む。
「おかえりなさい!」
「ただいま帰った」
抱き付いて深呼吸して石鹸の香りをいっぱいに吸い込む。
間に合って良かった……。
私の髪を撫でている玉彦を見上げて、その髪形はどうしたのかと目で訴えるときょとんとしていた。
彼が髪を長くしていたのは私のリクエストだったからだけど、嫌がっている風ではなかった。
なのに短くしてしまうなんて、残念以外の何者でもない。
「西で狗の供養をして来たのだ。送る為の供えがなく、私の髪を使った。また伸びる。案ずるな」
「玉彦が無事に帰ってくればどんな姿だって私は良い。何なら蘇芳さんみたいに坊主だって」
「……それは私が嫌だ」
緊張感のない会話をして笑い合って。
でもすぐに玉彦の表情が締まって、私を身体から離す。
「裏門にて宗祐らが足止めをしているが、比和子がこちらへ到着次第下がらせることにしている。稀人は盾とはいえ、大事な者たちだ。無駄に失う訳にはいかぬ。わかるな?」
「……うん」
「比和子は本殿内にて待機。先ほど御倉神が中へと入ったのを南天が確認した。そこで時を待て。出てくる頃には全て終わらせておく」
「……それは無理」
「……比和子」
「嫌。無理。駄目」
「甘味ものを土産にした。御倉神と……」
「私は御倉神じゃなくて玉彦と一緒に居たいの! 邪魔なら隠れてるし、絶対に暴走はしないから! だから近くに置いておいてよ……」
我儘は玉彦を困らせるだけだって分かってるのに言わずにはいられない。
「私はお前を盾と考えたことは一度たりとも無い。何故なら……ぺらっぺらの紙だからだ」
「たまっ……!」
「須藤! 彼女を本殿へ抛り込んでおけ!」
いつかの時に言った台詞を繰り返した玉彦は、須藤くんに腕を引かれる私に背を向けて腰に携えた黒鞘の太刀の柄に両手を乗せて、気負いもせずにゆるりと襲撃者を待ち構えた。
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