69 / 111
清藤、再び
3
しおりを挟む安易に答えてはいけない。
というか、断らなくてはいけない。
「御倉神、様。私は……」
「どうか。神守」
「でも私には玉彦が」
「……む? むむ。あやつは我らと同じではない。私が願っているのは他の者に願うなと」
「は? 言ってる意味が解んないんだけど」
思わずいつもの調子になって答えてしまう。
すると余所行きだった御倉神も、いつもの御倉神になる。
「あれだの。他の神々ともう接することはしてほしくない。私だけにしてほしいのじゃ。金山彦は……仕方ない。あれは次代に付いている。あとは志那都彦だがあれは風だから滅多にいないしの」
「で、私にどうしろっていうのよ。そもそも神守として私を求めて、御倉神は何をしたいのよ」
「共に在りたい」
ド直球に言われて、固まる。
私が共に在るのは玉彦だけだ。
でも何となく、御倉神が求めているのはそういうことではないような気がする。
「毎日一緒に居て生活するの?」
「……何を言うておる。こう見えても私は忙しいのじゃ」
「じゃあ共に在るってどういう意味よ?」
「……鈍い神守よ」
顔を背けて面倒そうに呟いた御倉神にイラッとする。
「いやいやどうも鈍い神守ですみませんね。でも分らないんだから仕方ないでしょう? だって誰も私に神守としてどう神様の守りをするのかなんて教えてくれないんだもん」
「開き直りおったな……」
「何よ、文句あんの!?」
「お主、私を敬っていないな?」
「そんなことないわよ。ほら呑みなさいよ」
一応両手で空になっていた盃にお酌する。
渋々といった感じだったけど、御倉神はそれを受ける。
でも呑み始めると機嫌がみるみる間に良くなっているのが表情を見れば明らかだった。
御倉神って玉彦並みに分かり易い。
「お主の心に在るのは私だけにしてほしい」
「だから、私には玉彦っていう……」
「巫女として私に仕えて欲しいと申しておるのだ」
「へっ?」
えっと、巫女って竹婆や香本さんみたくってことだろうけど、実際巫女って何をしてるのか良く知らない。
朝夕のお勤めだって詳細を知らないのだ。
でも一応名もなき神社はこの御倉神を祀神として祀っているし、そこで朝夕のお勤めを私がすれば良いのだろうか。
この正武家から毎日通って。
「深く考えることではないのー。このさきお主の心、信仰を寄せるのは私だけにする。ただそれだけのことよ」
「……要するに信者になれと?」
「ちょっと違う……」
「うーん……」
この先御倉神だけを信仰して私に不都合があるのか考えても、思い浮かばない。
というか、どういう事が予測されるのか思いつかないから何とも言えない。
でもよくよく考えると、他の神様に私から正武家の助力を頼むなと御倉神は言っていて、それってただの我儘。
「それってさ、私に何か得はあるの?」
「さぁて? ともかくここから出してやることは出来るの。そして願えば次代に助力することも叶う」
「あんた、神様なのに結構卑怯ね」
私の言葉が聞こえている癖に聞き流して玉彦のお土産に手を伸ばしている。
菓子箱には色とりどりの和菓子が納められていて、一つ一つが可愛らしい。
さらに祭壇に目をやると、紙袋ごとまだ他のお土産もあるようだった。
すると不意に、どんっと一度だけ扉が叩かれた。
ハッとして顔を向ける。
ここは御倉神によって隔離された空間になっているはずなのに、外からアクションがあった。
それは御倉神に干渉できるほどの何かが外にいるってことだ。
向き直って御倉神を見れば、思いっきり眉間に皺を寄せている。
「大国主め。生意気な」
「誰?」
「私の父のずーっと下の子孫じゃの。ここに私がおると知っての無礼赦さず」
御倉神は浮かび上がってスーッと移動すると、扉の前に立つ。
そして押し開ける仕草をすれば、私があれ程頑張ったにも関わらず微動だにしなかった扉がいとも簡単に開いてしまった。
というか、私と巫女の約束をする前に扉を開けてしまった御倉神は相当に大国主とやらに怒っている。
でもさ、大国主ってどこかで聞いたことあるんだよね……。
御倉神についてこっそり調べた時に、その名前を見たような。
ただその時に私は別の大発見にそのことを忘れてしまっていた。
御倉神って実は女性の神様だったのだ。
でも澄彦さんが前に教えてくれた通り、日本の神様は性別が曖昧だから御倉神は男神として私の前に存在していた。
「何をしに来た! ここはお前が来るようなところで……!」
「はいはい。ご無沙汰してましたー。ご機嫌いかかでしょうか? ちょっと失礼。中に入りますよっと」
強い口調の御倉神の言葉の途中で大国主は声を被せ、立ち塞がっていた御倉神の肩越しに顔を覗かせる。
本殿を物珍し気に見渡して、真ん中にぽつんと座り込んでいた私を見つけて満面の笑みになった。
人間にすれば三十くらいの男盛り。
清潔感があって爽やか。
見目麗しい神様がそこにいる。
格好は金山彦神に近いもので、みずらに白い服だ。
「あぁ、やはりここに居たのですね。神守の巫女。使役される眷属の願いを聞いて貴女を探していました」
良く通る張りのある声が私に届く。
「私を、ですか」
どう考えてもこの神様と縁が無いので探される覚えはない。
表情が強張った私を安心させようと大国主は微笑んだけど、続いた言葉に私は笑えなかった。
「えぇ。神守の眼を頂きに」
あまりにも普通に、大国主は言ってのけた。
でもその内容は普通じゃない。
眷属の願いで神守の眼をって、この神様は清藤の味方なんだ……。
神様に狙われたら一溜りもない。
私はその場で固まって、手足が震え出した。
「あぁ、大丈夫ですよ。眼だけ下さい。命までとは言いませんよ?」
そんなの、はい分かりましたっていう人はいないと思う。
その時。
大国主の前に立ちはだかっていた御倉神からぞわりと感じるほどの冷気が流れ出た。
ドライアイスの煙の様にそれは私の元まで届く。
こちらに向けていた背中に白いものが揺らめいて、風もないのに御倉神の髪が巻き上がる。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる