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玉彦のこころ
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しおりを挟む夜中寝返りを打って、玉彦の胸に顔を寄せる。
そして私はその違和感にガバッと起き上がった。
私は玉彦に腕枕をされていた。
横向きになった玉彦に。
動いた……?
「玉彦?」
寝息を立てる耳元で囁いてみたけど、反応はない。
でも確実に動いてこの体勢になった。
肩を揺すっても力なく揺れる。
なに、どういうこと?
起き上がっていても寒いだけなので、私は掛け布団と毛布を直して横になる。
そして朝まで寝ないと決めた。
玉彦がどうやって動いたのかを確認するためだ。
だいたいこういう時は結局朝まで動きが無くって目に隈を作るのがオチだけど、玉彦の場合その斜め上を行く結果を出してくれると私は信じる。
ちゃっかり腕に収まって暖をとる。
するとすぐに玉彦はいつも通りに空いた左腕を私の背中へと回して引き寄せた。
あまりにも普通の動きに流されたけど、よくよく考えれば寝ているだけなので無意識に動いてもおかしくはない。
というか神守の眼の影響下にあった眠りが通常の眠りに変わっているのだ。
推測を裏付けるように彼の寝息が聞こえる。
夕餉の前は微かにしか呼吸をしていなかったのに。
きっと目覚めの時は近い。
そう信じて私はやっぱり眠ることにした。
だってもし明日玉彦が起きたら、一杯お世話をしなくちゃならない。
寝不足だったらそれどころの話ではなくなる。
久しぶりに寄り添った温もりに私は直ぐに落ちた。
「比和子。比和子」
呼ばれて目を擦ると、起き上がって心配そうに私を覗き込む玉彦がいた。
「玉彦!」
飛び起きた拍子に互いの頭がぶつかり、私はもう一度お布団に倒れ込んだ。
痛い……けど!
「すぐに起き上がってはならぬ。眼の負担がまだ身体に残っているだろう。今誰か呼んでくる。大人しくしていろ」
何故か玉彦に心配される私。
そっか……。
自分が先に起きたと思ってるんだ。
「玉彦、あのね」
「飲み物も必要だな。食いたいものはあるか」
「いや、さっき澄彦さんと夕餉いただいたし」
「……なんだと?」
「私は玉彦よりも二週間も先に起きたの。だから、玉彦こそ大人しく寝てて」
私の言葉に玉彦は目を大きくさせて驚いている。
「おかえり、玉彦」
「ただいま、帰りました……。俺の方が後だと……!? 何たる不覚……」
どうして不覚なのか意味不明だけど、私は玉彦の首に腕を回した。
「明日はお役目お休みだよ。二人でゆっくり部屋で休もうね」
「……それも良いが、とりあえず何故か俺は今、猛烈に腹が減っている……」
首筋に顔を埋めた玉彦はそのまま私ごと倒れ込んだ。
不可思議な眠りから目覚めると、一斉に身体が活動を始めるのでお腹が空いたりお手洗いへ行きたくなったりしやすい。
特に玉彦はお役目後はいつもお腹を空かしていたので、今回はかなりの空腹なのだろう。
「ちょっと待っててね!」
私は覆い被さっていた玉彦を押しやり、立ち上がる。
そして小袖を素早く身につけると本殿の扉を開け放つ。
猛烈な吹雪だったけど臆することなく飛び出して母屋へと駆け込んだ。
そして台所へ向かう前に自分の部屋に寄って、スマホから皆へメールを一斉送信したのだった。
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