錬金術師な転生エルフの自由気ままな冒険譚!

旅わんこ

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第三章

新商品ファルラート 3

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 六月下旬。
「ありゃー。自分で作っといてなんだけど、これ前世の『スーパーカブ』じゃん」
 エリック・ヴァン・リヒトホーフェン卿選用重装甲ファルラートのデザインはこうだ。
 まず、基本フレームの構造はそのままに前輪と後輪の間隔である『ホイールベース』をセミキュビト(1キュビト=約50センチとする場合、約25センチ)長くし、武骨なフレームやギヤ回りを隠すように『竹細工強化レジン』で装甲を作成。更にフロントフォーク前輪支柱の前には竹細工強化レジンの泥除け板を装備し、ハンドルとフロントフォークのつなぎ目のあたりにはリヒトホーフェン州の州章が掲げられている。更に左右のハンドルの前と紋章の上にはガラス製のナックルガードと風防が装備され、後輪の上にはやはり家紋を刻まれたコンテナが装備された。また泥除けの左側にはリヒトホーフェン家の家紋、アンドエーレ鉄工所の紋章、雑貨屋シンハとアキラ・カワカミ錬金術工房の看板が縦にずらりと並んでいた。
 この出来栄えを前に、エリックは興奮を抑えきれなかった。
「おお! 何たる仕上がり! 何と美しい仕上がりか! それにこの洗練された装甲のフォルム、色使い、装飾……。どれもこれも言葉で表しようがないほど見事だ。これは誰が考えたんだ!?」
 それにはヴァルが答えた。
「はい、装甲のデザインと色遣いはアキラと私めの工房のデザイナーが。それを製造したのは町の型職人でございます。なおこの泥除けはヤマト皇国出身の職人による竹細工技法の『三本寄せ』と言う編み方で編んだものに錬金術由来のレジンを含侵させることで耐久性を獲得したものでございます。各種風防はガラスでできており、チタンのフレームで囲い表裏をレジンの膜で覆うことで割れにくさと割れた際の飛散防止を実現させております。鍵付きコンテナは公務に必要なカバンなどを収納できるようにしてございます」
「なるほど、そこまでの気配り大変痛み入る。よし、いくらになる?」
「いくら、とは?」
「代金だ。払わんわけにはいかないだろう」
「そんな滅相もない!」
「いいから、これだけの材料と製造にかけた工数と人数から計算してくれ」
「で、でしたら……、恐れ入りますが……」
「ああ、レムリア人の店に一度納品するように。このままでは彼女が可愛そうだ」
「かっ、かしこまりましてございます!」
 ヴァルが雑貨屋シンハに納品し護衛の兵士が購入手続きを済ませている間、エリックはアキラからファルラートの乗り方を教わっていた。すべての手続きが済むと、エリックは改めて礼を言い上機嫌で自邸へと帰っていった。
 アキラ、ヴァル、クリシュナは、唖然となって互いを見合った。
「……どうしよう、一年は遊んで暮らせるお金が手に入っちゃった」

 リヒトホーフェン邸。
 エリックは馬車と衛兵を引き連れて、しかし自分でファルラートをこいで帰ってきた。そんな彼を出迎えたメイドは、箒をポロリと落として唖然となった。
「おっ、お帰りなさいませ、リヒトホーフェン卿! しかしこれは、どういう状況ですか……?」
「ああ。今度我が首都で販売されることになった半自走式二輪車ファルラートだ。一台買ってしまえば馬のように餌代と馬糞処理代などがかからず、蒸気駆動車のように燃料とエンジンが起動するまでの暖気時間を一切必要としない、夢のような乗り物だ。どうだ、乗ってみるか?」
「いえいえ! それほど美しい乗り物に傷を入れてしまうわけにはいきません! もしかしてそれは、近頃噂の錬金術師アキラ・カワカミによるものでございましょうか?」
「ああ」
「あの問題児フェンリル三人衆を圧倒的な武力で制圧した挙句毒針を撃ちフェンリルの目の前で解毒剤を無慈悲に叩き割る、列車事故での医療薬事法違反に関して卿自ら友好的に話し合いに赴いたのに剣を抜こうとした、あの極悪非道の生意気女と名高きアキラ・カワカミでございましょうか!?」
「どこからそうなった!?」
 すると、屋敷からは幼い少女が駆け寄ってきた。
「お父様、お帰りなさいませ!」
「おお、クラリス。唯今帰った。留守の間はいい子でいたか?」
「はい、お父様! クラリスはとてもいい子にしておりました!」
 だが、クラリスの母にしてエリックの妻であるレイニーは呆れた様子で言った。
「おかえりなさい、あなた。画用紙に絵のステーキとサラダを描いては茶色と緑のクレヨンを食べていましたけどね」
「ジャンじいが開発した鉱石と貝殻が原料の高級クレヨンを買っておいて本当に良かった。油粘土製は体に害があると聞くからな」
「ところであなた。それが前に言っていたファルラートと言うものなのかしら?」
「ああ。乗ってみるか? と言いたいところだが、レイニーには乗れんな」
「まあ、どうしてなの?」
 その説明の前に、エリックはレイニーの服装を見た。
 レイニーの服装は椿色の豪華なドレス。裾がペダルに引っかかる恐れがあるため、乗ることは難しい。
「ファルラートはスカートが大敵で、しかもパニエなどのインナーが更に乗り心地を悪くするそうだ。現在、試乗したという町の夫人の意見を取りいれてスカート巻き込み防止装甲を竹細工で制作、オプションもしくは婦人用機のデフォルトで販売しているようだな」
「そうなのね。ではファルラートに乗るにふさわしいドレスを見繕っていただきましょうか」
 すると、クラリスが言った。
「お父様! クラリス、ファララーに乗りたいです!」
 言えていない。
「そうか。その場から動かない子供用木馬は飽きるだろうし、庭を走る程度であればいいだろう。誰か伝令を頼む。子供用ファルラートは作れないか否か、アンドエーレ鉄工所に問い合わせよ」
 そして後日、クラリスの背丈に合う補助輪付き簡易装甲ファルラートが納品されることになった。
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