エルフの王子と側近が恋仲になるまでの長い話

ちっこい虫ちゃん

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第1章 幼少期

5話 王子と友達

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 やっとトレバー先生が旅行、もとい研究から帰ってきて授業が再開された。
 ぴぃちゃん傷心事件から6週間後の事である。私たちを1月以上放っておいたトレバー先生は、私には良さのさっぱりわからない石ころ達に夢中で、帰ってきた今も暇さえあれば自室に引きこもっている。


 トレバー先生の授業は時間が決まっていないが午後の早めの時間が多い。今日は珍しく午前に授業が終わって午後の予定は何もなかった。久しぶりに兄弟3人でカードゲームでもしようか、と神経衰弱の絵札を引き出しから取り出してエルウィンに渡した時だった。

 コンコン、と控えめに窓がノックされる。兄弟たちが不思議そうに窓の外を見て、気のせいかと視線を絵札に戻す。

 最初にジハナが訪ねてきてから約1月半、ジハナは頻繁に遊びに来ていた。いつも私一人の時をうまく狙って訪問していたジハナが兄弟のいる時間に尋ねてきたのは初めてのことだ。
 都合が悪いと追い返すか、兄弟に紹介するか。少し考え、まぁ問題ないだろうと窓を開ける。


「……入っても大丈夫?」


 ジハナは巣穴から外を伺うリスのように窓枠から目だけ覗かせて聞く。


「あ、兄上?誰かそこにいるの……?」
「誰?お兄様の知ってる人?」


 知らない子供の声にエルウィンとアイニェンが少し怯えたように窓から離れた。2人に笑って「大丈夫だよ」と言ってからジハナの手を引っぱって入室を促す。


「…」
「……」
「………」


 ジハナが部屋に降り立つと、2人が彼のボサボサの頭に注目したのが分かった。本人も2人の目線に気が付いたのか髪を整えようと頭を撫で付ける。

 妙な沈黙が部屋を包んだが、意を決したようにジハナが自己紹介を始める。


「金細工師ヴァーデンの息子、ジハナと申します!と、友達になってください!」
「私の時にはあんなに無礼だったのに、2人には随分かしこまるなぁ。ふふ、仲良くしてやってね、2人とも」


 笑ってジハナの肩に手を置きながら言えば、弟と妹が信じられないようなものを見る目で私たちを見た。


「な、なな、なんです兄上!この怪しい奴!」
「お兄様!?ちょっとその人から離れて!」
「え、レ、レン、王子ぃ……」


 2人の強い拒絶反応を受けたジハナはちょっと涙目で私に助けを求めた。流石にこの場で私の名前を呼ぶのは良くないと思ったのだろう。2人の威嚇状態を見る限り、賢明な判断だ。


「まぁまぁ、2人とも。ジハナは私の友達だから、怖がらなくていいよ」
「でも窓から入ってきたよ!?侵入者だ!」
「お兄様を狙う暗殺者かもしれないわ!」
「あ、暗殺?!違うって、ただの友達だよ、それよりもっと声を小さく...」


 2人が騒ぐので焦る。こんなに大声で侵入者やら暗殺者やら言っていると護衛が確認に来てしまうかもしれない。
 ジハナも諦めたのか、窓の方に逃げようとしたので腕をつかんで止める。さてどうするかと思ったところで、ぴよ、と小鳥の声がした。


「え?」


 3人一斉に静かになって窓を見る。
 ずっと会いたかった青い小鳥が窓枠に止まっていた。


「ぴぃちゃん?」


 私の声に返事をするように小鳥がピピピと鳴くと、もう1羽、2羽と増えて窓枠に止まる。きっとあの時ぴぃちゃんを迎えに来た2羽だ。会いに来てくれたんだと感動しながら私たち3人は小鳥たちを見つめる。ぴぃちゃんを自然に返してからしばらく経つが、こんなことは初めてだった。


「お兄様、小鳥たち、何か持っているみたい」


 アイニェンが言うと後から来た2羽がふわっと飛び上がりジハナの頭の上に止まる。うお、とジハナが頭へ手を伸ばすと、小鳥たちはその手に飛び移り、咥えていたナニカを手のひらに落とした。
 ジハナはそれを摘まみ上げるとエルウィンとアイニェンに向けて差し出す。なんだろうと横から覗き込むと、ジハナの手にはどんぐりの実が2つと小さな青い花が乗っていた。


「たぶん、お礼だと思う。どんぐりは王子達に、花は姫に」


 小鳥たちはジハナの言葉に同意するようにぴよぴよと鳴くと、一斉に飛び立ち部屋の中を一周回った後森へ帰っていった。
 小鳥たちがいなくなって静かになった部屋で私たち兄弟はお互い目配せする。ニマニマと笑ったアイニェンがジハナに近づき、花を受け取る。はじかれたようにエルウィンも駆け寄ってどんぐりを受け取った。


「はい、レンドウィル王子も」
「……ありがとう」


 渡されたどんぐりは青々としていてツヤがある。もう秋の終わりなのに青さを保ったどんぐりは珍しい。もしかして珍しいものだから贈ってくれたんだろうか?
 3人して小さな贈り物に釘付けになっているのが面白かったのか、ジハナがくすくす笑った。


「本当にあの小鳥を大事にしてたんだな」

「数日間しか一緒にいなかったけど、もう家族のようなものだったからね」
「家族かぁ。いいな、そういうの。俺好きだよ」


 照れる年下2人の代わりに答えるとジハナはへらっと笑っていった。毒気を抜かれたのかアイニェンが聞く。


「あなた、名前はなんでしたっけ?」
「ジハナですよ、アイニェン姫」
「ふ、ふぅん、まぁ、オトモダチ、なってあげてもいいわ。でも、信用したわけじゃないわよ」


 いつも赤いほっぺをさらに赤くして言うアイニェンを見て、「僕も、僕も!」とエルウィンが割り込んだ。


「本当?やった!よろしく、エルウィン王子、アイニェン姫」
「よかったねジハナ。」
「うん!ありがとう王子」


 弟たちとジハナがやっと一段落したところで、最初は神経衰弱をするつもりだった、と思い出す。


「じゃあ、友達記念にみんなで神経衰弱する?」


 聞くと、3人は嬉しそうな顔で頷いた。

 エルウィン・アイニェンの2人がぴぃちゃんの贈り物を自分の部屋に飾ってから神経衰弱をはじめた。
 結論から言うと、カード遊びは弟たちとジハナの仲を深めるのに非常に有効だった。神経衰弱の3周目を終わらせるまでジハナは敬語を守った。それが崩れたのは絵札をどれだけかっこよく飛ばすかを競い始めてからだった。

 投げる角度を変えたり持ち方をかえたりして各自飛距離を伸ばそうとしていた。順番に投げるのを何回か繰り返し、エルウィンが投げた絵札がきれいに飛んで壁に刺さったのだ。思わず皆で「わぁっ!」と叫ぶ。

 流石に声が大きすぎたのか、見張りの護衛が「何かありましたか!?」声をかけながら部屋へ確認しにやって来た。

 私たち兄弟がハッと見るとジハナは血の気が引いた顔であたりを見回していた。見張りが到着する寸前でジハナがベッドの下に滑り込んでいくのを見ていた私たちは、笑いをこらえるのが大変で大変で!

 見張りに遊びで夢中になりすぎたと話して帰ってもらうと、ベッドの下からジハナが青い顔のまま這い出てくる。皆でからかうと、今度は顔を赤くして「笑い事じゃないぞ!捕まるかと思った!」と怒って、そこからどんどん敬語がなくなり、最終的にはいつものジハナの話し方になったのだ。

 そのあとまた少し絵札を飛ばして、何度かジハナの焦り様を蒸し返してからかい、日が落ちる前にジハナは帰っていった。




 ジハナを窓から見送った後、エルウィンが絵札が刺さってできた壁のキズを撫でながら言う。


「あ~楽しかった」
「お兄様、いつからジハナと?」
「えぇと、ぴぃちゃんが居なくなった後くらいかな」


 そんなに前から!?と2人の声が重なる。秘密にしていた後ろめたさはあったので素直に謝ると、2人はすこし膨れながらも許してくれた。


「父上も母上も、知らないんだよね?」
「うん。言ってない」
「よく今までバレなかったわね」
「いつもはこんな騒がないから。今日が特別だよ。それよりぴぃちゃんが来たのも驚いたよ」

「ほんとうに!あんなの初めてじゃないかしら?」
「はじめてだよ、元気そうで安心した」
「また来てくれるかな?」
「来てくれるといいなぁ」


 しばらく3人でピィちゃんの思い出を話していると母が夕飯を知らせに来る。
 私たちはいっせいに母に駆け寄りぴぃちゃんとの再会について我先にと話し始めると、母は笑って言う。


「食事の時にゆっくり聞かせて。ほら、行きましょう。」


 母と3人、みんなで手を繋いで食堂へ向かう。
 今日のことはきっと忘れないだろうなと思いながらポケットの中のどんぐりを撫でた。
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