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2.リア充は嫌いだ
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ヒナタと桜井さんと別れた後、近くにあった自動販売機を見つけてそこを目掛けて走った。
(んー、これでいいか……)
さっさと飲み物を決めて小銭の入り口に百円玉を入れようとしたら、無意識に手元が狂い百円玉は下に落ちて跳ねる。
そしてころころ……と綺麗に真っ直ぐに奥まで入り込んでいった。自販機の下をしゃがんで覗き込んだ。
うわっ……汚ねぇ……。
蜘蛛の巣らしき大量の白い糸……ゴミらしきものは確認出来るものの暗くてよく見えない。棒のような長いものがあれば拾えるかもしれない。
……がしかし、周りを見渡すと木の枝どころか紙屑すらも落ちてはいない。
(これじゃ届かねぇし、手ぇ使いたくねぇな……)
普段から最低限度の決まった小銭しか持たない俺は途方に暮れていた。
「君、大丈夫? 足りない分あげようか?」
「……あ?」
後ろから男の声がして咄嗟に振り返って立ち上がった。声の主を見ると、顔の偏差値だけでなく身長も高い優男みたいな奴が立っていた。
制服を見て大方、今日の対戦相手の蒼空中学校の奴に違いない。
しかし顔をよくよく見たら、さっきイチャ付いていたカップルの男の方だった。
「……いらねぇよ」
と内心舌打ちする。特にリア充に貸しなんか作りたくない。それに素性の知らない他校の野郎相手だ。これをきっかけに下手にいざこざがあったりしたら、ややこしい事になりなねない。
だが、こんな最高に暑い真夏の時期に水分なしでは非常に不味い状況だ。仕方ない、どこかの水道水で我慢するかと考えていた。
「暑くて喉が渇かないか? あげるのが駄目ならお金を貸すよ」
「……いいらねってば」
「遠慮しなくていいから」
「だから別にいい……」
いらないと断ったのにも関わらずにこの男は俺の手を取って両手で包むように小銭を握らせる。視線を外さずに柔らかく微笑んでなかなか手を離してはくれない。
男は嬉しそうにじっと見つめられながらがっちりと両手で握られて俺はげんなりした。同性に手を握られる気持ち悪さだけでなく気まずさから耐えられずに無理矢理手を振り解いた。
正直、気持ちわりぃ……。
「あ……悪いな、後で返すわ」
「ううん、気にしなくていいよ」
男の笑顔が一瞬崩れたような気がしたが、またさっきのようににこやかに笑う。
ヒナタにでも頼んで小銭を借りてすぐに返そうと思っていた。
「そうだ、携帯持ってるかな。君の連絡先を教えてくれない?」
「……あ? 何でだよ」
「ほら、返して貰う都合もある事だし、何かのご縁だから僕と友達にならない?」
「……友達? アンタとか?」
「そう、君と友達になりたいんだ」
駄目……かな? と男は目尻を下げて懇願する。その場で返してこの件は終わらせようとしたが、男は友達になりたいと携帯の連絡先を聞いてきた。
知らない奴に連絡先教えるのを躊躇する。友達にとは言うが、これは社交辞令で金を返せばきっとこの関係もそれで終わりなはずだ。そう踏んで深く考えずに迷いなく返事をした。
「……わかった」
「ありがとう」
男は礼を言ってポケットに手を入れて携帯を出した。俺も携帯を取り出して連絡先を交換した。そこで初めてお互いの名前を知った。
「──これで完了だね。それじゃあ、また今度会おうね。一之瀬」
「あぁ、ま、機会があればな」
男は携帯をしまい笑顔で手を振ってこの場を去っていった。顔のいい奴は去り際も爽やかで後ろ姿もかっこよく決まっていた。その姿さえも苛つきながら羨ましがる俺は所詮非リア充の僻みだ。
(春風か……。周りでは見かけねぇ苗字だな)
珍しいとは思うのだが、さほど気にする事なく飲み物を買ってすぐにみんなが待っている会場に向かった。
借りを返したら終わりだと勝手に思っていた。ほんの些細なきっかけがこの物語の幕開けとなる引き金になってしまった。
(んー、これでいいか……)
さっさと飲み物を決めて小銭の入り口に百円玉を入れようとしたら、無意識に手元が狂い百円玉は下に落ちて跳ねる。
そしてころころ……と綺麗に真っ直ぐに奥まで入り込んでいった。自販機の下をしゃがんで覗き込んだ。
うわっ……汚ねぇ……。
蜘蛛の巣らしき大量の白い糸……ゴミらしきものは確認出来るものの暗くてよく見えない。棒のような長いものがあれば拾えるかもしれない。
……がしかし、周りを見渡すと木の枝どころか紙屑すらも落ちてはいない。
(これじゃ届かねぇし、手ぇ使いたくねぇな……)
普段から最低限度の決まった小銭しか持たない俺は途方に暮れていた。
「君、大丈夫? 足りない分あげようか?」
「……あ?」
後ろから男の声がして咄嗟に振り返って立ち上がった。声の主を見ると、顔の偏差値だけでなく身長も高い優男みたいな奴が立っていた。
制服を見て大方、今日の対戦相手の蒼空中学校の奴に違いない。
しかし顔をよくよく見たら、さっきイチャ付いていたカップルの男の方だった。
「……いらねぇよ」
と内心舌打ちする。特にリア充に貸しなんか作りたくない。それに素性の知らない他校の野郎相手だ。これをきっかけに下手にいざこざがあったりしたら、ややこしい事になりなねない。
だが、こんな最高に暑い真夏の時期に水分なしでは非常に不味い状況だ。仕方ない、どこかの水道水で我慢するかと考えていた。
「暑くて喉が渇かないか? あげるのが駄目ならお金を貸すよ」
「……いいらねってば」
「遠慮しなくていいから」
「だから別にいい……」
いらないと断ったのにも関わらずにこの男は俺の手を取って両手で包むように小銭を握らせる。視線を外さずに柔らかく微笑んでなかなか手を離してはくれない。
男は嬉しそうにじっと見つめられながらがっちりと両手で握られて俺はげんなりした。同性に手を握られる気持ち悪さだけでなく気まずさから耐えられずに無理矢理手を振り解いた。
正直、気持ちわりぃ……。
「あ……悪いな、後で返すわ」
「ううん、気にしなくていいよ」
男の笑顔が一瞬崩れたような気がしたが、またさっきのようににこやかに笑う。
ヒナタにでも頼んで小銭を借りてすぐに返そうと思っていた。
「そうだ、携帯持ってるかな。君の連絡先を教えてくれない?」
「……あ? 何でだよ」
「ほら、返して貰う都合もある事だし、何かのご縁だから僕と友達にならない?」
「……友達? アンタとか?」
「そう、君と友達になりたいんだ」
駄目……かな? と男は目尻を下げて懇願する。その場で返してこの件は終わらせようとしたが、男は友達になりたいと携帯の連絡先を聞いてきた。
知らない奴に連絡先教えるのを躊躇する。友達にとは言うが、これは社交辞令で金を返せばきっとこの関係もそれで終わりなはずだ。そう踏んで深く考えずに迷いなく返事をした。
「……わかった」
「ありがとう」
男は礼を言ってポケットに手を入れて携帯を出した。俺も携帯を取り出して連絡先を交換した。そこで初めてお互いの名前を知った。
「──これで完了だね。それじゃあ、また今度会おうね。一之瀬」
「あぁ、ま、機会があればな」
男は携帯をしまい笑顔で手を振ってこの場を去っていった。顔のいい奴は去り際も爽やかで後ろ姿もかっこよく決まっていた。その姿さえも苛つきながら羨ましがる俺は所詮非リア充の僻みだ。
(春風か……。周りでは見かけねぇ苗字だな)
珍しいとは思うのだが、さほど気にする事なく飲み物を買ってすぐにみんなが待っている会場に向かった。
借りを返したら終わりだと勝手に思っていた。ほんの些細なきっかけがこの物語の幕開けとなる引き金になってしまった。
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