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2.生徒会は今日から平和じゃなくなった
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今日も今日とて何事もなく平和な日々を過ごしていた。僕、愛子は放課後に生徒会室でパイプ椅子に座って机に頬杖をついている。
(……眠い。あったかい、居眠り日和だ)
窓の向こうは日差しが差し込んで室内は暖かい。こんな日こそ外で寝るのが気持ち良さそうだ。
そんなのんきな事を考えてる時。人の気配を感じて見上げたら、この学園の生徒会会長こと若薙先輩が近づいてきた。
「今日も生徒会室に来てくれたんだなぁ。感心、感心」
「はぁ……暇だったんで」
「ここに来てくれただけで充分! いるだけで嬉しいんだ、俺はな」
上機嫌の若薙先輩は僕の頭をポンポンと撫でて隣のパイプ椅子に座った。
若薙先輩はこの高校の三年生だ。正義感はあって打算はなく行動をしていて弱い者をほっとけない人望が厚い人だった。それはいい事だと思う。それだけは。
この人は何をやっても駄目な人で結局は人の手を借りないと解決できない事が多いのがわかった。
この間だって迷子の猫を折角捕獲したと思ったらうっかり隙をついて逃げられるわ、落とし物を持ち主に届ける途中にどこかに無くすわ、大切な書類は吹き飛ばされるわで仕事がさらに増えて捗らない。
若薙先輩の頼もしい印象はやる気と明るさで補正されてるようだ。
(困った人……。でもさっぱりとした性格は嫌ではない)
「みぃーっちゃん、お菓子食べる? とっておきの美味しい芋けんぴあるわよ」
「ありがとう、ハナちゃん先輩」
にこにこと笑顔の山田花子先輩ことハナちゃん先輩が僕の顔を覗くように見て芋けんぴの袋を渡す。今日のけんぴは……何と金吉印の芋けんぴだ。僕の顔が嬉しさで緩み、直様芋けんぴを頬張った。
「たくっ、来て早々に餌付けするなよ」
「いいじゃないですか~。私はみっちゃんの食べてる顔が好きなのよ。だって齧ってる姿はリスッぽくて可愛いでしょ?」
「愛子がか……可愛いのはわかる。だけどな、そのリスが餌だけのために生徒会に来るようになったら何か寂しいだろう?」
「ぅん? 僕は先輩たちに会いたいから来てますよ?」
「愛子……お前って奴は何てかわい━━」
「それに若薙先輩が失敗ばかりで生徒会が心配で。僕がここにいれば、またやらかしてもすぐにお手伝い出来ますよね」
「愛子ぃっ……━━」
若薙先輩はゆっくりと手を伸ばし僕の言葉で肩をガクッと落としている。僕の方に伸ばした手は途中で下を向いた。心無しか元気がなさそうだ。
(……? 若薙先輩に変な事言ったかな)
「はいっ……そこまでぇ! 仕事よ、仕事。若会長ぉ、今日のご意見いっぱい来てるわよ」
「う……始めるとするか……」
若薙先輩は元気のなく俯いていたが、ハナちゃん先輩の明るい声で仕事となると立ち上がった。仕事モードに切り替えて背筋を伸ばしてコホンっと咳払いをした。
「えーっと、今日のご意見は……購買には何故カレーパンがないのか、おっぱいが大きい先生がいないのか、学校指定の運動着がカッコ悪くて芋臭いとか……」
「本当にしょうもない意見ばかりですね」
「ははっ……愛子ははっきりいうなぁ」
若薙先輩が意見を書いた紙切れの読み上げた。その内容に僕は率直に感想を述べる。
毎日のみんなの意見はこんな些細なものだ。生徒会が学校で悩んでる人や困ってる人が意見しやすいように目安箱を設置したが、どれも深刻な問題でもなくどれも大した中身ではない緊急性がないものばかりだ。
……いつもと変わんない。平和平和。
「ん? 何だこの内容はぁ!」
「どうかしたのか? 若」
若薙先輩は複数の紙切れを見て眉間に皺を寄せている。如月先輩は書類の作業中に手を止めて若薙先輩の後ろに回り覗き込んでいた。その内容を見た如月先輩も一言も発言せずに難しい顔をしている。
面倒事の気配が……。嫌な予感がする。
二人の表情からすると良いご意見とは離れてそうだ。悪質な苦情かはたまた無理難題な意見かどちらなのかそれとも……。
若薙先輩は困惑した微妙な表情で口を開いた。
━━華唐学園の生徒にカツアゲされました。クラスの同級生も何人か被害受けてます。何とか何ないですか。
━━華唐学園の怖そうな男子に身体の関係を強要されました。私は逃げられたけど、他の子は●●されたって聞きました。怖くて外に出られません。
━━帰り道一人で歩いてたら、華唐学園の怖いグループに背後から襲われて大怪我をしました。このグループをやっつけて下さい。
…………。
「これはほっといたら、不味い問題だな。暴力沙汰とは穏やかじゃねぇな」
「か弱い立場の女の子にも暴力だなんて許せないっ! こんなゴミクズ共なんてこの腕で地獄の果てを見せてやるわよぉぉっ」
「落ち着け、山田。我が生徒が巻き込まれたとなれば絶対に見過ごせない。……そうだろう、若」
生徒会の冷静ながらも険しい顔付きの如月先輩と怒りを露わにしているハナ先輩そして僕が一斉に若薙先輩の方に顔を向けた。若薙先輩は僕らを見回して真剣な顔で頷いた。
「おしっ! これから緊急生徒会会議を始める。全員席につけっ」
会長の一声で生徒会のみんなが速やかに着席する。これから会議が始まるようだ。
僕は生徒会に来てから初めて会議参加する事になった。
(暴力沙汰……か。寝ないように聞かないと……)
(……眠い。あったかい、居眠り日和だ)
窓の向こうは日差しが差し込んで室内は暖かい。こんな日こそ外で寝るのが気持ち良さそうだ。
そんなのんきな事を考えてる時。人の気配を感じて見上げたら、この学園の生徒会会長こと若薙先輩が近づいてきた。
「今日も生徒会室に来てくれたんだなぁ。感心、感心」
「はぁ……暇だったんで」
「ここに来てくれただけで充分! いるだけで嬉しいんだ、俺はな」
上機嫌の若薙先輩は僕の頭をポンポンと撫でて隣のパイプ椅子に座った。
若薙先輩はこの高校の三年生だ。正義感はあって打算はなく行動をしていて弱い者をほっとけない人望が厚い人だった。それはいい事だと思う。それだけは。
この人は何をやっても駄目な人で結局は人の手を借りないと解決できない事が多いのがわかった。
この間だって迷子の猫を折角捕獲したと思ったらうっかり隙をついて逃げられるわ、落とし物を持ち主に届ける途中にどこかに無くすわ、大切な書類は吹き飛ばされるわで仕事がさらに増えて捗らない。
若薙先輩の頼もしい印象はやる気と明るさで補正されてるようだ。
(困った人……。でもさっぱりとした性格は嫌ではない)
「みぃーっちゃん、お菓子食べる? とっておきの美味しい芋けんぴあるわよ」
「ありがとう、ハナちゃん先輩」
にこにこと笑顔の山田花子先輩ことハナちゃん先輩が僕の顔を覗くように見て芋けんぴの袋を渡す。今日のけんぴは……何と金吉印の芋けんぴだ。僕の顔が嬉しさで緩み、直様芋けんぴを頬張った。
「たくっ、来て早々に餌付けするなよ」
「いいじゃないですか~。私はみっちゃんの食べてる顔が好きなのよ。だって齧ってる姿はリスッぽくて可愛いでしょ?」
「愛子がか……可愛いのはわかる。だけどな、そのリスが餌だけのために生徒会に来るようになったら何か寂しいだろう?」
「ぅん? 僕は先輩たちに会いたいから来てますよ?」
「愛子……お前って奴は何てかわい━━」
「それに若薙先輩が失敗ばかりで生徒会が心配で。僕がここにいれば、またやらかしてもすぐにお手伝い出来ますよね」
「愛子ぃっ……━━」
若薙先輩はゆっくりと手を伸ばし僕の言葉で肩をガクッと落としている。僕の方に伸ばした手は途中で下を向いた。心無しか元気がなさそうだ。
(……? 若薙先輩に変な事言ったかな)
「はいっ……そこまでぇ! 仕事よ、仕事。若会長ぉ、今日のご意見いっぱい来てるわよ」
「う……始めるとするか……」
若薙先輩は元気のなく俯いていたが、ハナちゃん先輩の明るい声で仕事となると立ち上がった。仕事モードに切り替えて背筋を伸ばしてコホンっと咳払いをした。
「えーっと、今日のご意見は……購買には何故カレーパンがないのか、おっぱいが大きい先生がいないのか、学校指定の運動着がカッコ悪くて芋臭いとか……」
「本当にしょうもない意見ばかりですね」
「ははっ……愛子ははっきりいうなぁ」
若薙先輩が意見を書いた紙切れの読み上げた。その内容に僕は率直に感想を述べる。
毎日のみんなの意見はこんな些細なものだ。生徒会が学校で悩んでる人や困ってる人が意見しやすいように目安箱を設置したが、どれも深刻な問題でもなくどれも大した中身ではない緊急性がないものばかりだ。
……いつもと変わんない。平和平和。
「ん? 何だこの内容はぁ!」
「どうかしたのか? 若」
若薙先輩は複数の紙切れを見て眉間に皺を寄せている。如月先輩は書類の作業中に手を止めて若薙先輩の後ろに回り覗き込んでいた。その内容を見た如月先輩も一言も発言せずに難しい顔をしている。
面倒事の気配が……。嫌な予感がする。
二人の表情からすると良いご意見とは離れてそうだ。悪質な苦情かはたまた無理難題な意見かどちらなのかそれとも……。
若薙先輩は困惑した微妙な表情で口を開いた。
━━華唐学園の生徒にカツアゲされました。クラスの同級生も何人か被害受けてます。何とか何ないですか。
━━華唐学園の怖そうな男子に身体の関係を強要されました。私は逃げられたけど、他の子は●●されたって聞きました。怖くて外に出られません。
━━帰り道一人で歩いてたら、華唐学園の怖いグループに背後から襲われて大怪我をしました。このグループをやっつけて下さい。
…………。
「これはほっといたら、不味い問題だな。暴力沙汰とは穏やかじゃねぇな」
「か弱い立場の女の子にも暴力だなんて許せないっ! こんなゴミクズ共なんてこの腕で地獄の果てを見せてやるわよぉぉっ」
「落ち着け、山田。我が生徒が巻き込まれたとなれば絶対に見過ごせない。……そうだろう、若」
生徒会の冷静ながらも険しい顔付きの如月先輩と怒りを露わにしているハナ先輩そして僕が一斉に若薙先輩の方に顔を向けた。若薙先輩は僕らを見回して真剣な顔で頷いた。
「おしっ! これから緊急生徒会会議を始める。全員席につけっ」
会長の一声で生徒会のみんなが速やかに着席する。これから会議が始まるようだ。
僕は生徒会に来てから初めて会議参加する事になった。
(暴力沙汰……か。寝ないように聞かないと……)
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