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序章
プロローグ
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冬の朝独特のひんやりとした凍てつく空気の中、紅茶の甘い香りがふんわりと漂う。
その香りを十分に楽しんでから口に含むと、冷えていた身体がじんわりと温まるのを感じた。口元を綻ばせて、また口に含む。
ゆっくりと、そして優雅に流れる朝の時間が、私はとても好きだった。
窓から差し込む朝の柔らかな日差し。耳に届くのは小鳥の囀りだけ。手には美しい模様があしらわれたティーカップ、机には手作りの洋菓子。
これを優雅と言わずして何と呼ぼう。
思わず鼻歌が漏れそうだ。まあ、漏れたところで誰も居ないこの家にそれを聞くものはいないのだけど。
小鳥の囀りに誘われるように窓から外を見る。
春も夏も秋も、外は色とりどりの草木で鮮やかに染まる。しかし今――冬だけは、ここは白銀の世界になるのだ。
他の季節の風景も絶景でもちろんどの季節も好きだが、冬はやはり格別だと感じる。
よく見ると雪色に染まった世界に、赤い実がなっている。見た目が似ている為私が勝手にナナカマドと呼んでいるそれは、擂って熱湯に一晩つけると風邪薬にもなるし、砂糖やレモン汁やらと煮詰めたらジャムにもなる代物だ。ジャムの味を思い出すと顔は自然と緩む。
お昼ごろに少しだけ採りに行こうかなと悩んで、まだ使い切っていないジャムの存在を思い出した。
めったに病気にかからないため、ナナカマドで作った風邪薬にお世話になったことは無い。そのため薬としての実も必要は無い。
そう結論付けて、やっぱり実を採るのは使い切ってからにしようと頭を振った。
あまり採り過ぎると鳥たちの食料を奪ってしまうことになる。森に囲まれているから、余程のことが無い限りそんな事態にはならないことはわかっているが、それでも採りすぎは褒められたことじゃない。
――あたしたちはね、この森から全て借りているのさ。
私にそう教えてくれたのは、ここに住ませてくれていたヨヨキだ。
一杯目を飲み終え、少しだけ休憩して二杯目を淹れる。紅茶の美味しい淹れ方なんて知らなかった私だけど、これもヨヨキが教えてくれた。
ティーバックでしか紅茶の淹れ方を知らなかった私に、驚きを通り越して呆れていたヨヨキがため息を吐きながら丁寧に指導してくれたのだ。
やってみると意外に奥が深く、のめり込んだ結果今ではヨヨキより美味しい紅茶を淹れれるようにまでなった。自分の成長を感じてふふんと得意気になる。
次はミルクを入れようかと顔を綻ばせながら手を伸ばした瞬間。キイと音を立てて家の扉が開いた。
この家の扉を開ける者はもうひとつしかいない。
「あぁ、おかえり」
振り返ると、そこにいたのは綺麗な銀色の毛並みを持つ大きな狼だった。
まるでただいまとでも言うようにスンと鼻を鳴らした銀狼は、ゆったりとした足取りで私の元まで足を運ぶ。私が手を伸ばすと、それに擦り寄るかのように顔を寄せた銀狼に思わず頬が緩む。外に出て冷えたのだろう。いつもより冷たい毛並みをできるだけ優しく撫でる。
銀狼の毛並みは柔らかく、ひどく心地がいい。昼寝をするときにはいつもこの大きな狼の毛並みに包まれている。今日はいい天気だし、久しぶりに日向ぼっこでもしてみようか。
気持ちよさそうに目を閉じながら身を寄せてくる銀狼に癒されながら片手で少し冷えた紅茶に手を伸ばす。
こんなことが日常だと思ってしまうくらいには、私はこの世界に馴染んでしまっていた。
―――事の発端は、もうかれこれ3年前になる。
3年前、私は16歳だった。青春時代と謳われる高校生活をそれなりに楽しんでいた私は、ある日突然見知らぬ世界に落とされた。
比喩ではない。
私は本当に―――落とされたのだ。
その香りを十分に楽しんでから口に含むと、冷えていた身体がじんわりと温まるのを感じた。口元を綻ばせて、また口に含む。
ゆっくりと、そして優雅に流れる朝の時間が、私はとても好きだった。
窓から差し込む朝の柔らかな日差し。耳に届くのは小鳥の囀りだけ。手には美しい模様があしらわれたティーカップ、机には手作りの洋菓子。
これを優雅と言わずして何と呼ぼう。
思わず鼻歌が漏れそうだ。まあ、漏れたところで誰も居ないこの家にそれを聞くものはいないのだけど。
小鳥の囀りに誘われるように窓から外を見る。
春も夏も秋も、外は色とりどりの草木で鮮やかに染まる。しかし今――冬だけは、ここは白銀の世界になるのだ。
他の季節の風景も絶景でもちろんどの季節も好きだが、冬はやはり格別だと感じる。
よく見ると雪色に染まった世界に、赤い実がなっている。見た目が似ている為私が勝手にナナカマドと呼んでいるそれは、擂って熱湯に一晩つけると風邪薬にもなるし、砂糖やレモン汁やらと煮詰めたらジャムにもなる代物だ。ジャムの味を思い出すと顔は自然と緩む。
お昼ごろに少しだけ採りに行こうかなと悩んで、まだ使い切っていないジャムの存在を思い出した。
めったに病気にかからないため、ナナカマドで作った風邪薬にお世話になったことは無い。そのため薬としての実も必要は無い。
そう結論付けて、やっぱり実を採るのは使い切ってからにしようと頭を振った。
あまり採り過ぎると鳥たちの食料を奪ってしまうことになる。森に囲まれているから、余程のことが無い限りそんな事態にはならないことはわかっているが、それでも採りすぎは褒められたことじゃない。
――あたしたちはね、この森から全て借りているのさ。
私にそう教えてくれたのは、ここに住ませてくれていたヨヨキだ。
一杯目を飲み終え、少しだけ休憩して二杯目を淹れる。紅茶の美味しい淹れ方なんて知らなかった私だけど、これもヨヨキが教えてくれた。
ティーバックでしか紅茶の淹れ方を知らなかった私に、驚きを通り越して呆れていたヨヨキがため息を吐きながら丁寧に指導してくれたのだ。
やってみると意外に奥が深く、のめり込んだ結果今ではヨヨキより美味しい紅茶を淹れれるようにまでなった。自分の成長を感じてふふんと得意気になる。
次はミルクを入れようかと顔を綻ばせながら手を伸ばした瞬間。キイと音を立てて家の扉が開いた。
この家の扉を開ける者はもうひとつしかいない。
「あぁ、おかえり」
振り返ると、そこにいたのは綺麗な銀色の毛並みを持つ大きな狼だった。
まるでただいまとでも言うようにスンと鼻を鳴らした銀狼は、ゆったりとした足取りで私の元まで足を運ぶ。私が手を伸ばすと、それに擦り寄るかのように顔を寄せた銀狼に思わず頬が緩む。外に出て冷えたのだろう。いつもより冷たい毛並みをできるだけ優しく撫でる。
銀狼の毛並みは柔らかく、ひどく心地がいい。昼寝をするときにはいつもこの大きな狼の毛並みに包まれている。今日はいい天気だし、久しぶりに日向ぼっこでもしてみようか。
気持ちよさそうに目を閉じながら身を寄せてくる銀狼に癒されながら片手で少し冷えた紅茶に手を伸ばす。
こんなことが日常だと思ってしまうくらいには、私はこの世界に馴染んでしまっていた。
―――事の発端は、もうかれこれ3年前になる。
3年前、私は16歳だった。青春時代と謳われる高校生活をそれなりに楽しんでいた私は、ある日突然見知らぬ世界に落とされた。
比喩ではない。
私は本当に―――落とされたのだ。
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