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身体が先か、恋が先か?

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「ひっ」


 堺は、奇妙な声を出し、固まる。



「ひっ……て……酷い反応ね」


 ――この人はちょっと、いや、かなり変だわ、と初対面の時から分かっていたけれど、それを差し引いても彼のこの態度はいただけない。

 先程まで心も身体も熱く昂らせ、求めてきた癖に。抱き合っていた時にはあんなに情熱的だったのに、終わった途端にまた挙動不審になるとはどういう事なのか。「君が好きだ」と囁いたではないか。まさか、その場のノリで口走っただけだとでも? 


「ぐえっ……苦し……みかはらさ……っ」


 いつの間にか彼に馬乗りになって首を絞めていた事に気付くが、怒りが込み上げてくる。



「ねえ、なんでまた呼び方が苗字に戻ってるのっ?」


  




 しのは、堺の苦しそうな顔を見て一瞬締める力を弱めたが、脚の間がツキン、と痛み、悲しさと怒りがこみ上げ、再び強く首を締めた。

 堺は目を白黒させて「ぴっ……」と奇妙な声を上げ、悶絶する。しのはそんな彼に益々憤る。


 ――何よ……私を抱いて楽しんだ癖に……私を可愛いって言った癖に……何のフォローも甘い言葉も無いの?そりゃあ……私から誘ったかも知れないけど……何か言ってくれてもいいじゃない!


「ぐがっもがっしぼっちょっ――」


 しのの大きな瞳から、ボロボロと涙が溢れ、堺は息苦しさに悶えながら慌てる。
 
 まあ、堺が何か言おうにも、きつく首を絞められているのでまともに喋れないのだが。




 


「――痛っ……」


 先程貫かれたばかりの身体の中心が強く痛み、しのは耐えきれず、堺から手を離し、彼の胸に倒れこんだ。


「ゲホッ……し、しの……」


 堺が咳き込みながら、心配して背中を擦るが、しのに涙目で睨まれてビビる。


「――気安く呼ばないで!」

「ええっ……だ、だってさっきは」


 名前で呼んで欲しい、と、蕩けそうな声で誘惑してきたくせに――と喉元まで出かけた言葉を呑み込み、堺はしのの涙を指で拭った。


「ごめん、本当にごめん、痛いよね……」

「――謝られるとか冗談じゃないわよ!」


 しのはキレた様に叫び、彼の指を振り払った。





「私は……貴方に抱かれたくて抱かれたの!貴方はそうじゃないの?私を欲しくて……抱いたんじゃないの?」


 しのは、激情に燃える瞳を堺に真っ直ぐ向けて、小さな拳を握り、彼の胸を叩いた。


「げほっ……しの……っ」



 ――彼女を誤解させてしまった。ただ、心配になったのだ。初めての彼女の身体を好きなように犯して快感に狂い、しかも避妊もしていない。彼女よりも一回り以上大人の自分が気遣ってやらなくてはならなかったのに……
だから、つい出てしまった言葉だった。だが、その言葉で彼女を傷つけてしまった……



 堺は、誤解を解きたくて、何か言おうとするのだが、しのに胸を叩かれて咳き込み、上手く喋れない。

 唇を震わせながら、離れようと身を起こすしのを堺は腕を伸ばして掴まえようとするが、突然腕と肩が吊ってしまい激痛に奇妙な叫びをあげる。


「ひいっいっいっへ――!」



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