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お前は俺の物だろ!by貴也

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――しかし。

当然な事だが、戦隊ヒーローもどきのZECOM警備隊は現れない。

そもそもブザーが鳴らなかったのだ。

ゆうみが決死の思いで叩き付けたブザーは、カチッと空しい音を立てただけだった。



「な、なにい――!?

なんで?なんで――!」


完璧に思えた脱出計画が失敗に終わり、ゆうみはパニクって絶叫する。

いまやゾウさん柄トランス一丁になった貴也が、尻を押さえながらジリジリとゆうみに近寄り、後ずさるももう逃げ場は無かった。

背中が部屋の最奥の壁に当たり、ヒヤリとした感触が走る。

貴也がゆうみの顔の側の壁に両手を突いて――所謂、女子が大好きと言われる壁ドンだが、あくまでもそれは二次元ファンタジーの中でイケメンにされるから素敵なのであって、リアルに好きでもない奴からされたって、何もトキメキもないし、寧ろ恐ろしいくらいなのだが――

貴也は、ゆうみがもう逃げられないとタカを括り、勝ち誇った様にどや顔で言った。



「ゆうみ……俺のマグナムを味わえる事を光栄に思えっ!!

諦めて俺の子を産め――!」


「なんであんたの子を出産しなきゃならんのよ――!」








貴也は、心底意外だ――という風にびっくりした顔をし、当然のような口調で言った。



「だってさ、お前は、俺のモノだろ?」


「な……なんでっ私があんたのモノなのよ!」



貴也は尻から流血しながら平気な顔をして――いや、寧ろいつもよりも三割増しの本気顔でゆうみを熱く見詰めた。

だが、ゆうみにはそんな貴也の悩殺テクニックは通用しない。兎に角この状況から逃げ出す事しか考えていない。

貴也はそんなゆうみにはお構いなしに、耳元であまーく囁いた。




「なんでって……それは運命さ」


「はあああ――――っ???意味わからなっ」



ゆうみが絶叫した次の瞬間、倉庫の中の電気が消え暗闇に包まれ、野太い叫びが響いた。




「――野郎共!!

待ちに待った出動だ――!!

突入――――――!!」


「オッス!!」


号令のような叫びに呼応して、低くむさ苦しい男たちの叫びの合唱が起こり、追い掛ける様に桜林お嬢の金切り声も聞こえる。


「た――か――や――様――っ!

今、助けに参ります――!」


「ゆうみ君っ……萩原君っ……そこを、動かないで……今行きますよ……」


いつもにもまして早口の茂野の声も。



「な、何だ?」


貴也が、大勢の人間の声に何事かと後ろを振り返ると、パンという破裂音と共に白い煙がもくもくと広がり始めた。
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