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音符に乗って、君をさらいに行く
①
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「俺、家にほとんど帰らないと思うけど、それでも良ければ結婚する?」
――四年前の今日。智也(ともや)は、ほなみにプロポーズした。
ふたりは幼なじみで、ずっと同じ学校でつかず離れずの関係だった。
特別に仲良しでもなく、逆に仲が悪くもなく、智也への印象は「会えばあいさつする程度の付き合いの優等生」。
ほなみの父親は智也の家が経営している会社の従業員だったが、智也の父と親しく、小さな頃に何回か家に遊びに行った事がある。
中学生の時に両親が自動車事故で亡くなり、親戚もほとんど居ないほなみは天涯孤独の身の上になり、手を差し延べてくれたのが智也の両親だった。
ほなみを引取って大学まで行かせて、智也の両親の会社の事務員の仕事まで世話してくれた。
智也とは、高校生の時に交際を申し込まれ付き合っていたが、中学生の頃から毎日ひとつ屋根の下で過ごしていたせいか、恋人どうしという実感がない。
同級生の友達が、彼からのメールが来ないとか、次会えるのがいつだとか、寂しいだとか、恋バナで盛り上がっていた中で、ほなみは一応彼氏がいるとはいえ、毎日家で顔を合わせるからメールをする必要もなく、会えなくてやきもきするような事もなかった。
もっと言ってしまえば、結婚前に「好きで仕方がなくて超盛り上がった」という記憶も思い出も皆無。
彼にいつから好かれていたのかも知らない。
プロポーズされた時、ほなみはリビングで朝食の納豆を一心にかき混ぜている最中だった。
そんなロマンチックでもなんでもないような日常の中で「結婚しない?」と言われた訳だが、断る理由も特になかった。
彼のことは嫌いではないし、中学生で天涯孤独になり施設行きになる寸前だった自分を智也の両親が引き取ってくれて何不自由なく育ててくれたのだし、智也が望むなら結婚してもいいーーと。
親友の吉岡あぐりは、ほなみに結婚式の二次会で酔っぱらって説教した。
「ほなみ~あんたはね。結婚する前に本気の恋愛をするべきだったのよ。
そりゃあ岸智也はイケメンだし学年一の優等生で、家もお金持ちで条件としては最高だけどさあ。智也以外と付き合った事がないまま結婚してもいいの?
いいっ?結婚ていうのはねっ!
ハッピーエンドじゃなくて"新しい日々の始まり"なのよ!わかるっ?
ハッピーエンドになるかバッドエンドになるか全然わからないのよっ!?
……それに結婚は契約だからね。夢物語じゃないのよっ!」
ほなみはハラハラしながら隣の智也を見たが、彼はただ静かに微笑してワインを飲んでいた。
智也は「俺、ほとんど家に帰らないと思うけど」と言ったが本当だった。
結婚式を挙げ新婚旅行から帰り、新居のマンションで引っ越しの段ボールも開けていない状況で智也は海外赴任になった。マンションには年に二回帰ればいい方だ。
ほなみは結婚してから仕事は辞めたが、生活費は智也が送ってくるし、両親が従業員扱いでお給料を振り込んでくれるので生活には困らない。
あぐりのお誘いがなければ、マンションの周辺の街を散歩したり、お天気が良くない雨の日には部屋の掃除に明け暮れ、あきたらネット検索で出てきたおいしそうな菓子を大量に作った。
ほなみが居た会社は、職場結婚をした場合、妻は職場に復帰できない決まりだ。
友達もいたし、守衛の「中野さん」というおじさんとはよくおしゃべりしていたので正直かなり寂しいし、職場に戻れないのは不満だった。
けれど、自分は逆らえるような立場ではない。智也はめったに帰ってこないし、恋人時代にも甘い言葉をかけてくれた事はなかったが、大切にしてくれているのがわかる。
――四年前の今日。智也(ともや)は、ほなみにプロポーズした。
ふたりは幼なじみで、ずっと同じ学校でつかず離れずの関係だった。
特別に仲良しでもなく、逆に仲が悪くもなく、智也への印象は「会えばあいさつする程度の付き合いの優等生」。
ほなみの父親は智也の家が経営している会社の従業員だったが、智也の父と親しく、小さな頃に何回か家に遊びに行った事がある。
中学生の時に両親が自動車事故で亡くなり、親戚もほとんど居ないほなみは天涯孤独の身の上になり、手を差し延べてくれたのが智也の両親だった。
ほなみを引取って大学まで行かせて、智也の両親の会社の事務員の仕事まで世話してくれた。
智也とは、高校生の時に交際を申し込まれ付き合っていたが、中学生の頃から毎日ひとつ屋根の下で過ごしていたせいか、恋人どうしという実感がない。
同級生の友達が、彼からのメールが来ないとか、次会えるのがいつだとか、寂しいだとか、恋バナで盛り上がっていた中で、ほなみは一応彼氏がいるとはいえ、毎日家で顔を合わせるからメールをする必要もなく、会えなくてやきもきするような事もなかった。
もっと言ってしまえば、結婚前に「好きで仕方がなくて超盛り上がった」という記憶も思い出も皆無。
彼にいつから好かれていたのかも知らない。
プロポーズされた時、ほなみはリビングで朝食の納豆を一心にかき混ぜている最中だった。
そんなロマンチックでもなんでもないような日常の中で「結婚しない?」と言われた訳だが、断る理由も特になかった。
彼のことは嫌いではないし、中学生で天涯孤独になり施設行きになる寸前だった自分を智也の両親が引き取ってくれて何不自由なく育ててくれたのだし、智也が望むなら結婚してもいいーーと。
親友の吉岡あぐりは、ほなみに結婚式の二次会で酔っぱらって説教した。
「ほなみ~あんたはね。結婚する前に本気の恋愛をするべきだったのよ。
そりゃあ岸智也はイケメンだし学年一の優等生で、家もお金持ちで条件としては最高だけどさあ。智也以外と付き合った事がないまま結婚してもいいの?
いいっ?結婚ていうのはねっ!
ハッピーエンドじゃなくて"新しい日々の始まり"なのよ!わかるっ?
ハッピーエンドになるかバッドエンドになるか全然わからないのよっ!?
……それに結婚は契約だからね。夢物語じゃないのよっ!」
ほなみはハラハラしながら隣の智也を見たが、彼はただ静かに微笑してワインを飲んでいた。
智也は「俺、ほとんど家に帰らないと思うけど」と言ったが本当だった。
結婚式を挙げ新婚旅行から帰り、新居のマンションで引っ越しの段ボールも開けていない状況で智也は海外赴任になった。マンションには年に二回帰ればいい方だ。
ほなみは結婚してから仕事は辞めたが、生活費は智也が送ってくるし、両親が従業員扱いでお給料を振り込んでくれるので生活には困らない。
あぐりのお誘いがなければ、マンションの周辺の街を散歩したり、お天気が良くない雨の日には部屋の掃除に明け暮れ、あきたらネット検索で出てきたおいしそうな菓子を大量に作った。
ほなみが居た会社は、職場結婚をした場合、妻は職場に復帰できない決まりだ。
友達もいたし、守衛の「中野さん」というおじさんとはよくおしゃべりしていたので正直かなり寂しいし、職場に戻れないのは不満だった。
けれど、自分は逆らえるような立場ではない。智也はめったに帰ってこないし、恋人時代にも甘い言葉をかけてくれた事はなかったが、大切にしてくれているのがわかる。
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