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決心

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 「ほなみーっ!久し振りよねえー!ライブ以来じゃないの?!

 智也も久しぶりね!相変わらず何考えてるか分かんない、いけ好かない面してるわね?……どうだった、久々の日本は?ほなみと存分に仲良く出来たのっ?

 ……何よ珍しくニヤニヤして……いやらしい笑いだわね……

 きゃあっ!もしかして野暮な事聞いちゃった?ごめんあそばせ!おほほほ……

 でもさ、相変わらずの弾丸スケジュールよねえ。三日前に帰って来たと思ったら、もうフランスに戻るなんてね?

 ……愛妻と離れがたいでしょうけど、あんたが留守の間は、ほなみのことは私に任せて頂戴っ!」

 あぐりは、新幹線の改札口前で一気にまくしたてた。

 キオスクで購入した郷土銘菓『にわとり』を紙袋ごと智也に渡す。

 擦れ違う人が振り返る程の美人のあぐりが、往来で大きな声で身振り手振りを交え、時には歌ったりしながら見送りを盛り上げているので、周囲の注目が集まっている。

「なんだよこれ?」

 智也が、紙袋を見て眉を少し動かす。

「余裕で一ヶ月以上?もっと長くかしら?日本を離れて仕事でしょ?

 おフランスのお菓子やお料理も素敵だけどさ、身体の中に青い血が流れてる冷血人間のあんただって、一年に二回くらいは故郷が恋しくなるでしょ。日本の素朴なお菓子が食べたくなるでしょ?

『にわとり』……よく出来たお菓子よねえ……全体の丸いフォルム、つぶらな愛らしいお目々!人間ってね、こういう形状の物に癒される生き物なの!

 ……智也が寂しくないように、あぐり様が用意してあげたのよっ!私優しい~!おほほほ」

「あ……そろそろ時間じゃない?」

 まだ喋り続けるあぐりを余所に、ほなみは時計をちらりと見たが、智也と目が合い、胸が一瞬痛んだ。

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