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夢現(ゆめうつつ)のキス

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後部席で眠る美名を腕に抱きながら綾波はその寝顔を見つめて居た。


ワインの薫りが鼻腔を付き、アルコールの気に当てられそうになりながら僅かに眉をしかめる。



(あいつら……相当飲ませやがったな)



「ふ……んん」



眠ったまま、美名が無意識に抱き付いて来て、綾波は身体がビクリと震えた。



無防備に腕の中に居る美名を、この場で組み敷きたくなる欲望を必死に押さえ、顔を逸らし窓の外の夜の景色に目をやった。



マンションに到着し、美名を抱えてタクシーから降りてエントランスへ上がりエレベーターに乗り込む。



(酒を飲まされた他に、何かされていないだろうな……?)



そんな考えが浮かぶと、いても立っても居られず部屋のドアを乱暴に開けて中へ入ると美名を寝室のベッドへ寝かせた。







ベッドに栗色の艶やかな長い髪が広がり、その艶かしさに思わず息を呑み立ち尽くした。



一体自分はどれ程の時間、この愛しくて可愛い美名に触れずに居たのだろう。


呼吸で僅かに上下する柔らかい甘い胸や、今にも起きて歌い出しそうなピンクの唇、スカートから覗く白い美しいラインの脚を見ているだけで身体も心も疼き、今にも正気を失ってしまいそうに心臓が激しく鳴っている。


手を伸ばしかけて、歯を食い縛りまた引っ込める、という動作を何度と無く繰り返す。








静かな室内に美名の小さな息の音が響くが、自分の身体を熱く駆け回る血潮の音が漏れ聞こえるのではないか、と思う位に全てがたぎっている。



(ここに居たらいけない――!)



側から一歩下がり、背を向けようとした時、微かに美名の声がした。



「……ん……」



綾波は、その唇の動きに釘付けになる。



咲き溢れそうな花弁の様な唇が震え、小さく、はっきりとこう言った。



「いか……ないで……つよしさ……ん」




次の瞬間綾波は、美名の身体を強く抱き締めていた。







「美名……美名っ」



力を緩めたら何処かに浚われてしまいそうな気がして、強く強く抱き締めると、美名の身体がピクリと動く。


「んん……つ……よし……さん……」


目を半開きにして綾波の姿を認めると、ニッコリと笑い、またカクンと眠りに堕ちた。


大事な宝物を扱うように、その髪を指で撫でてキスをすると、自分の中で歯止めが利かなくなって行く。


美名の気持ちがちゃんと固まるまで、触れてはならないという決心がもう崩れそうだ。


二週間、側で見守り、美名が寂しがっているのを目にする度に着ぐるみを脱ぎ捨てて抱き締めたくなった。

だが、目の前で綾波を恋しがる姿を見ていても、それでも不安に思う自分が居た。



今まで散々強引にしていたのに、一度距離を置いた途端に怖くなった。


――俺の様な人間が、思いのままに愛して良いのだろうか。

と。






美名は仕事の時にはちゃんと気持ちを切り替えて、メンバーや志村に対しては勿論、周囲のスタッフや共演者にも気配りを忘れなかった。

いつも明るく一生懸命に振る舞う美名に、周りの人間誰もが好感を持つのが傍目から見ていてもわかった。


美名は、愛される人間なのだ。


俺が愛さなくても、今にもっと美名に相応しい人間が現れて、そいつと結ばれた方が幸せなのではないだろうか?



等という思いも過った。


自分で自分の考えた事が信じられなかった。


こんな風に思うのは初めてだった。



だが、美名が真理にからかわれたり、触れられたりしているのを目の当たりにするとそんな考えは一瞬で吹っ飛ぶ。


(誰にも渡さない、触れさせたくない)


強烈な激情に支配されてしまうのだ。






「全く……
我ながら支離滅裂だな」


思わず小さく呟くと、美名はくすぐったそうに僅かに身体を捩りフフ、と笑った。



その仕草にまた甘く撃ち抜かれ、身も心も欲情の渦に堕ちて行く。



このまま腕に抱いていたら、壊れるまで貪ってしまう――



離そうと思うのに、腕が美名の身体に絡み付いて離れない。

目を逸らそうとしても、腕の中の愛しい女に釘付けになってしまっている。



眠る美名の目尻に涙がふと浮かぶと、頬を伝い落ちた。



「……つ……よしさ……」


「美名――」



また譫言で名前を呼ばれ、自分の中の何かが決壊してしまう。



もはや躊躇う気など無かった。



美名の唇に自分の唇を重ね、髪を撫でながら、次第にその口付けは深く烈しくなっていった。








美名の唇が小さく動き、綾波の舌に応えて絡めてくる。


二人の甘く烈しい唇と舌のやり取りは暫く続いた。


呼吸も忘れていた事に気付き、綾波は唇を離して喉の乾いた狼の如く口を開きハアハアと息を吸う。


美名はゆっくりと瞼を開くと、その黒目に綾波の姿を映して微笑んだ。



「美……」



喋る間も無く、美名の手が綾波の頬を掴み引き寄せ、優しい小鳥が啄む様なキスを降らせた。



「……っ……美……名」



困惑してしまう位に美名は積極的に仕掛けてくる。

ようやく美名は唇を離し、綾波を見つめた。



「これは……夢の中?
剛さん……」



「……美名……」



その問いに、ズクンと胸が激しく痛んだ。








「何故……そう思う」



涙に濡れる頬を手で包み込み、やっとの思いで答えると、美名は次から次へと熱い思いを吐き出した。



「だ……って……
ずっと会いたくて……
夢でもいいから会いたくて……
もしこれが現実じゃなかったら私……っ
だから……夢なら、もし夢なら……
そう言って?
剛さん……っ」



綾波の中に、いとおしさや色んな感情全てが押し寄せて来て倒れそうな位に心が揺れる。


波に浚われまいとして何かに掴まるかの様に美名を抱き締める。



「美……名……
愛してる……っ」








あまりの思いの強さと熱さに、その言葉を吐き出す事によって喉や唇が火傷してしまうかの様だった。


だが、美名は綾波を涙目で睨み、こう言ったのだ。



「愛してるから……何?」


「な……」



綾波は、たじろいだ。

愛している、と自分の想いの総てをぶつけたのに、美名は綾波の告白をバッサリと切り捨てる様にそっぽを向く。



僅かに頬を膨らませて、何を考えているのか……


「愛してる……と何度言えば……
満足するんだ?」



その頬に口付けて精一杯の囁きを投げ掛ける。



「……聞かなきゃ分からないなんて……
剛さんのバカッ!」



美名は振り向いて、小さな拳で綾波の胸を叩いた。






「美……ひめっ」


「バカッバカッバカバカバカ――――!」



酩酊してぐったりしていたとは思えない位に美名は両の拳を活発に動かし狼狽える綾波の胸や腹を殴り続けるが、綾波が包み込む様に強く抱き締めると、美名は叩くのを止めて身体を預けて溜め息を吐いた。



小さな息が耳に触れて身体の奥がゾワリとして、綾波は美名をベッドへ沈める。




「美名……
これ以上……何を言えばいい?
俺は……今、今まで生きてきた中で一番困ってるぞ……
情けないが……」



美名は綾波の真っ直ぐな髪に指で触れて、小さく囁いた。



「言葉なんかより……
私を……抱いて……」



「――美名――!」







「もう……夢でも何でもいいの……
今は……剛さんを感じたい……」



細い腕が首に絡み付いて来ると、綾波は美名の胸元に顔を埋めた。


その優しい柔らかさは、どこまでも綾波を癒した。


美名の指が、綾波のシャツを捲り上げている。



「美名……っ」



端正な唇を歪めて身体を震わせると、美名が得意気に笑った。



「剛さん……ベッドで狼狽えるなんて……
初めて見たかも……うふふ……なんか嬉しい」



さっきまで泣いていたのに、今やその美名に責められる形になってしまい綾波は戸惑いながらも身体を熱くしていった。



小さな指がシャツのボタンを頼りない手付きで外していき、露になった肌に美名はしがみつき、唇を這わせた。







「う……っ美名っ」


小さな花弁で撫でられて居る様なこそばゆさは、やがて欲情を煽って行く。

綾波は美名の長い髪を撫でながら呻くだけで精一杯だった。


これ以上、少しでも動いたら爆発してしまう。



「……剛さん……
硬く……なってる?」



小さく囁き、指と唇が下腹部に降りると、その僅かな刺激で綾波の獣は一気に増大した。



「くっ……美……名……ダメだっ」



美名の指が獣を包み込む様に握ると、綾波は身体を仰け反らせて小さく叫ぶ。








「剛さん……
私……ね……んっ」


美名は獣を人差し指と親指で圧を加えながら優しく上下に動かし、舌も這わせながら呟く。



「……だ……ダメだと言ってるだろう……う……あっ!」



「何故……?……ふ……ん……っ……前は……剛さんが……やれって……ん……言ってたじゃない……」



指の動きと舌が亀裂を愛する感触に、吐息までが増大した獣を苛み、綾波は暴発しそうになり呻く。



「う……い……いい加減に……しないと」



「――しないと……?」



「美名っ……!」



「あっ」



綾波は堪らず美名を再びベッドへ倒すと、ワンピースの前を乱暴に左右に引いた。



ボタンが飛び、白いレース生地のブラに包まれた美しい膨らみが顕れる。







「いい加減にしないと……こういう……事になる……」



綾波は早口で呟きながら、性急な手付きでワンピースを剥ぎ取って行く。


美名は待っていたかの様に綾波のするに任せ、欲情に支配された目の前の男が何をしてくるのか胸をときめかせていた。


綾波は白い上下揃いの下着だけの姿になった美名の身体の曲線を存分に目で犯す様に見つめる。




「奴等に……何かされなかったか?」



美名の手の甲にそっと口付けて訊ねるが、美名はキョトンと目を見開くだけだ。



綾波は美名の髪を肩へ流しうなじを露にすると、舌を這わせて行く。



「大丈夫か……今から調べてやる……
身体じゅう全部……」




うなじから背中へ舌を移動しながらブラのホックを素早く外し、下着を腕から抜き取らずにそのまま乳房へ両手を滑らせると美名は甘く叫んだ。



「やあっ……剛さ……」







手に吸い付く様な柔らかい感触に夢中になり、執拗に揉みしだきながら指先で小さな突起に触れて刺激すると、美名は一際高い声で啼いた。



「ああ……あんっ……」



「ここは……大丈夫みたいだが……他はどうだ……っ」



「あっ……」



綾波は美名の両足首を掴み肩へ乗せると、手を足首から太股へゆっくりと滑らせる。



「……あっ……あああ」



綾波に、キスをされながら手で触れられて、甘い疼きを隠す事が出来ずに美名は甘く息を吐き、蕾が潤うのを感じた。



綾波はそれを分かっているかの様にニヤリと笑うと、ショーツに手をかける。



「あとは此処を……調べてやる……」








「……っ……剛さ……」



ショーツが剥ぎ取られ、綾波に太股を掴まれて拡げられた。



なめ回す様な綾波の視線を感じ、蕾の中は溢れ痙攣を始める。



「……堪らんな……見られているだけでこんな……」


唇を舐める音がしたかと思うと、綾波が顔を脚の間へ埋めて潤う蕾の中へと舌を捩じ込んで来る。


「―――――!」



一番敏感な、しかも既に感じて潤っている場所に舌が侵入して来て美名はその瞬間に達してしまい身体じゅう痙攣させる。



「……もう、そんな風になるのか?
まだ早いぞ……」



綾波は喉をゴクリと鳴らすと美名に跨がり獣を蜜口へあてがった。








美名の身体が震え、その目が潤んで熱を持つ。


綾波はその目を見つめたまま、獣を溢れる寸前の美名に一気に押し込んだ。




「あ、ああ――!」


「くっ……!」


「あ……あっ……剛さ……動い……て……早く……あああっ」


早くも暴発しそうになるのを堪えて歯を食い縛り動かずにいる綾波に焦れて、美名は自ら腰を動かして快感に咽び泣いた。


「うっ――!
……はっ……うっ……美名っ……」



堰を切った様に綾波も腰を打ち付け始めた。







「あああっ……剛さ……そんな……ダメッ」



急に烈しく動く綾波の責めに、美名は自分が腰を動かす余裕が無くなりただ叫ぶ。



「ふっ……なんだ……
動けと言ったのはお前だ……うっ!」



綾波は額に汗を滲ませ、揺れる美名の悩ましい身体を眺めながら口の端を上げて快感に溺れる。


先程までの躊躇いは最早何処にも無く、美名の身体を貪り尽くす獣となっていた。



「剛……さ……あっ」



何かを言いかける美名の唇をキスで塞ぎながら腰を一層活発に打ち付けた。







「ふ……く……っ」



「んん……ん」



美名は夢中で綾波の頭を掴みキスを受け入れながら嵐の様な律動で身体を揺らされる。



綾波の指が乳房へと降りてくると巧みに円を描きながら揉まれ、美名は我慢出来ずに叫んだ。



「やあっ……変に……なっちゃ……ああっ」



「何も……変な事はない……綺麗だ……
もっと……叫べ……っ」



綾波は目をぎらつかせると、指を蕾の中へと差し入れながら尚も獣で打ち付けた。


指も獣も締め付けられ、綾波は目をギュッと瞑り果てそうになるのを堪えたが、限界はもうそこまでやって来ている。






蕾からは止めどなく蜜が溢れ二人の快感に拍車をかける。


美名の視界は白く靄がかかり、意識が飛びそうになる一歩手前だった。


「ああ……もっ……ダメッ……
もう……」



「俺は……ダメじゃない……
凄く……イイ……ぞ」



髪を乱しながら、爆ぜそうな自分を極限までもたせて美名を啼かせ、綾波は妖艶に笑った。



「ああ……剛さん……剛さん……
行かない……で……何処にも……
ああっ……はっ」



美名は喘ぎながら、シーツを掴み綾波を見つめている。



綾波は泣き出したくなる程のいとおしさが込み上げ、言葉を返す代わりに一層巧みに烈しく突き上げた。








「―――――!」


蕾は獣から欲望を吐き出させようと千切れんばかりに締め上げ、美名は声にならない矯声をあげて昇りつめる。


「美名――!」


綾波も同時に爆ぜて、崩れ堕ちた。



静かな暗闇の部屋の中、二人の乱れた息遣いだけが暫く響いていた。


綾波は美名の胸元に鼻先を埋めて、ベッドに広がる長い髪を指で鋤きながら息を整える。

美名は、まだ放心した様にぐったりしていた。



「美名……」


綾波が手を握り軽くキスをして真剣に見つめると、美名の唇が小さく囁いた。



「剛……さん……私……何があっても……
あなたを……愛してる……」








「美名……
俺もだ……俺は……っ」



その白い両手を握り締めて頬に寄せると、美名はいつの間にか眠りに落ちていた。



「……美名……」



喉まで出掛かった言葉を呑み込み、溜め息を吐く。


腕の中で甘く淫らに乱れた恋人は、今や小さな少女の様に眠りこけている。


身体に毛布をかけてやり、頬に貼り付いた髪をそっと退けると柔らかく口付けを落とした。



綾波はベッドから降りて、散らばった服を集め一枚ずつ身に付けて行く。


スヤスヤと息を立てる美名の口許が笑っているのを見ると、綾波も顔を綻ばせた。



ブラインドに指を挟み外を見ると、空が白み始めている。



目覚ましのアラームをセットして枕元に置き、身を屈めてもう一度頬にキスした。




「すまん……
もう少し……もう少しだけ待ってくれ……
必ず……お前を……」




指で頬に触れ、小さく囁くと、綾波は静かに部屋を出ていった。


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