未定

プロローグ

もし、死ぬ間際に一つだけ願いが叶うなら、みんなは何を願うのだろうか。

 延命、家族の幸せ、生まれ変わる事、いや、そもそもそんな事考える時間もないまま死んでしまうのかもしれない。

 それくらい〝死〟というものは突然やってくるという事なのだ。

 だから僕も、最初は何が起きたのかわからなかった。

 さっきまで同級生と屋上で昼食を食べていたはずなのに、次の瞬間には身体が宙を浮き、同級生が何故か僕より高い位置にいて僕の名前を必死に叫んでいた。

 でも僕はそれで十分すぎるくらいに理解した。

 自分が屋上から落下しているんだという事に、きっと寄りかかっていた柵のネジが緩んでて外れてしまったのだろう。

 しかし僕は不思議と落ち着いていた。

 しかもあまりに不運すぎる自分を笑う事さえできた。

 刹那とも言えるような時ですら、僕には永遠に感じられた。

 落ちている時に体感する時間が長く感じられるのは、あながち迷信ではないみたいだ。

 僕は家族の事、同級生の事、その他にもいろいろな事を思い浮かべた。

 そんな僕の唯一心残りな事、それは読みかけの異世界物の小説を読みきれなかった事だ。

 内容自体はどこにでもあるような、ひょんな事から異世界に飛ばされてしまった男の話だ。

 何故か僕はそんな事を考えていて、そのせいか無意識に『異世界に行きたい』と呟いた。

 そんな馬鹿げた事を死ぬ間際に言った自分の馬鹿さ加減にまた笑った。

 ただ次の瞬間異変は起きた。

 ーーその願い、叶えてやろう。

 「っ！？」

 空耳にしてははっきりしすぎるくらいに、聞こえたと言うより頭の中で響いたその声に僕は驚きを隠せなかった。

 そして僕は、そのまま意識を失っていった。