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番外編
エルノ・ブレンバリ教授の失恋1
しおりを挟む私はソニヤ・ハールス子爵夫人。
私の前で先触れもなくいきなりやってきて、眉間に皺を寄せしかめっ面をして何を話すでもなく、十七年ゼミのように唸っているこの愚弟、エルノ・ブレンバリの姉です。
愚弟は十一年が離れていて、小さい頃は天使のようでしたが、今ではただのセミです。
弟の育て方を間違えたのを痛感している私は無駄な時間を過ごすことが嫌いな性分ですのでさっさと要件を済ませて帰っていただくことに致しましょう。
「エルノ!」
「……」
「エルノ! あなたはいくつになりましたの?」
「……二十九です」
「先触れも寄越さないで十七年ゼミのように唸るためにここに来たのなら、さっさとお帰りなさいな」
「セミ……」
「賢者の一族と謳われたブレンバリ家の末席にいるのなら、やらなければならないことはきちんとやる。そのように教育したはずですが、何をしているのですか!」
そこまで言われて何か思うことがあったのか、愚弟はやっと私と目を合わせました。そして言いにくそうに目を逸らしポツポツと話し始めました。
「姉上、あの……恋愛とは……何でしょうか……」
「はい?」
「私は……ある令嬢にプロポーズをしたのですが……断られまして……」
「……それで、理由は?」
「『私は条件を満たす結婚でなく相手を思い合う結婚がしたいのです』と……」
私は扇を広げると大きなため息をついた。
「その令嬢は心堅しい方のようね。あなたはどんなアプローチをしたの?」
「普通に……贈り物を……」
「あなたの事だから、大きな魔石とか怪しい魔導書とか、おおよそ恋愛とは無縁のモノを送ったのではなくて?」
「! ……何を贈ったら良いか解らなくて……残らず返されて……」
「子供じゃないのですから、相手の女性の事を考えなさいな。はあーっ、朴念仁もここまでくると哀れね。それで?」
「部下に相談したら、『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』と言われて、直接彼女の実家に挨拶に……」
「えっ! ちょっと! まちなさい! ご令嬢の許可を得ずに挨拶に行ったの?」
思わず扇を閉じ握りしめ、愚弟に投げつけたい衝動を抑えます。
「お父上は歓迎してくれたんだが……本人に執事の前で思いっきり断られた……」
「当然でしょうね……ところでそのご令嬢のお家は?」
「ヴァートレン侯爵家の次女……」
「格上! あなた、ブレンバリ家に泥を塗るどころか、家を潰す気ですか!」
「部下だったんだ! 職場結婚はよくあることだし……」
「はあーーっ、悪手でしたわね……あなた、本当にそのご令嬢の事が好きなの?」
「……彼女の聡明さや機転が利いた柔軟な考え方、対外交渉術もすべて好ましいと思った……あと、香水臭くないし、女を全面に押し出してないし、清楚さが良いと……」
「それは全部条件ですわね」
「! そう言われた! あと髪が艶やかでいい香りがする……」
「やっとそれらしい言葉が出ましたわね……それから?」
「……」
「それだけ?」
「……あと……自分の仕事を手伝ってもらえないかと……」
私の中で何かが切れました。ええ、切れましたとも! ここまで自分勝手な愚弟だったとは!
「エルノ! 手の甲を教鞭で打たれたくないなら其処へ直りなさい!」
「えっ! 姉上!」
「それだけ仕出かしておいて、その言い分! 大事にせずにいてくれた、そのご令嬢に対して申し訳が立ちません! これから説教です! 覚悟なさい!」
「ひぃぃ……」
◇◆◇◆
怖い姉上にビシビシ怒られる教授。「ざまぁ」になったかな?
教授が正式にフラれるのは、次回。
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