51 / 51
間話1
間話 自己矛盾
しおりを挟む
街をがさつそうに大股で歩くアリクイの獣人がいた。彼の腰には剣を備えられており、その剣に手を掛けて手持無沙汰を嫌うように慌ただしく刀身をわずかだけ出し入れしていた。
彼の名はサカタ。子鬼の森でナナシを傷つけ、突如現れたカジに敗北したプレイヤーである。彼は死亡間際、カジに絶対に殺すと叫んでおり、そんな憎悪を滾らせているはずの彼であるが、その表情はなぜか暗いものだった。
「くそ、俺は何を」
そう言いながら彼は焦るように剣を手で弄りながら歩く。
彼は自身の現実での現状がとても憎かった。どれだけ仕事しても見えない昇進、出世街道を気ままに進む同僚、同じ自慢話しかしない上司。努力しているはずの自分には何も起きず、上がらず、生まれない。その虚無のような現在が彼をひどく追い詰めていた。
そんな彼は現実逃避のようにこのゲームを始めたが、ゲームの中で懸命に生きているNPCを見て、嫉妬してナナシを暴行するという暴挙に出たはずであった。
だが、彼はその現実の苦しみに加えて、新たな問題を抱えていた。それは、激しい罪悪感である。あれほど、徹底的に痛めつけたはずなのに、負けたカジに向かって啖呵を切っていたはずなのに、その傲慢な感情はなぜか消え失せ、代わりのように激しい罪悪感が彼を包んでいたのである。
このゲームを止めるという手もあった。だが、現実が嫌で、現実逃避がしたかった彼にとってはこの罪悪感が支配するゲーム内でさえもいまだ逃げ場として機能しており、止めるという選択肢は取ることができなかった。
「くそっ!」
彼は道の壁を八つ当たりのように強く叩いた。通行人のNPCたちが好奇の目で彼を見ているが、それに構うことなくまた歩きだした。
この状況は彼にとって辛いものであった。なぜならば、サカタはなぜ自分があんな行為に及んだかが全く分からないからだ。確かにNPCに対する嫉妬というものは大いにあった。だが、果たしてあんな残虐で野蛮な行動を起こしてしまうほどのモノだったのか?という思いが心に残っていた。
だが、現実としては自分はその行動を行っており、その事実が彼を蝕んでいた。過去の自分と今の自分の心が大きくすれ違っていたのだ。
「ああ、あの小僧だ……!そうだ、あいつに負けたから俺はこんな」
そのような過去と現在の自己矛盾の状況で、サカタの出した答えというのは責任転嫁であった。カジに味あわされた敗北に全ての責任を押し付け、自分の矛盾した心の安定を図ろうとしたのだ。
「捜さねぇと。そうじゃないと……俺は」
まるで、カジに会えば自分のなにもかも救わるというありもしない希望に縋るかのように彼の口から声が吐かれる。
彼はカジを捜すために彼は街を周った。
そんな時、道の曲がり角をサカタが曲がろうとした時だった。突然、腹部に軽い衝撃が走った。
「痛……!」
そこにいたのは地面に尻餅をついた猫の獣人であるナナシであった。
サカタは目を見張った。以前と格好が違うが、それは紛れもなく自分が痛めつけたはずの獣人のNPCであることに気付いたからだった。
ぶつかったナナシもまた、自分がぶつかった相手が以前に自分を痛めつけていた男であることを理解した。理解したとたん、その表情はひどく怯えた表情をし、泣きそうな顔で叫んだ。
「ご、ごめんなさい……!」
それは奇しくもサカタがナナシを傷つける原因となった状況と鏡合わせかと思われるぐらいに、全く同じであった。
サカタの手がナナシに伸びる。
「っ」
それを見てナナシは反射的に目を閉じ、自分にどのような痛みが来るかを暗闇の視界の中で想像してしまう。
「……?」
だが、痛みは来ることは無かった。その代わりに首元の服を引っ張られて自身の体を起き上がらされ、ナナシはその場から立たされていた。
ナナシが目を開くと、そこには泣きそうな表情をしたサカタの顔が見えた。
「え」
その信じられない状況からナナシの喉から戸惑いの声が上がる。
「……っ、あっ、ありが」
良く分からないまま感謝をナナシが告げようとすると、握っていた首元の服を離してサカタはそそくさとその場を後にした。
その姿をナナシは見つめる他なかった。
その場を逃げるように離れたサカタはナナシとの距離を離し、そのまま近くの壁に体を寄りかかっていた。そして、自分の頭を押さえながら天を見上げた。
「……ああ、くそ。何やってんだよ、おれ」
カジを捜す彼にとってはナナシとの再会は都合の良いものだったはずだろう。あのNPCにやさしいカジならば、まだ助けたNPCと交流があってもおかしくはない。それならば、また痛めつけて彼の居場所を聞くのが手っ取り早い、というのはサカタも気づくところだろう。
だが、サカタにはその行動はできなかった。逆にナナシの怯える姿を見て、彼の心はより罪悪感に蝕まれてしまった。
しばらくその格好で黙っていたサカタであったが、また歩を進めていく。
それは自身の自己矛盾を解消してくれるであろうカジを捜し、殺すために……。
彼の名はサカタ。子鬼の森でナナシを傷つけ、突如現れたカジに敗北したプレイヤーである。彼は死亡間際、カジに絶対に殺すと叫んでおり、そんな憎悪を滾らせているはずの彼であるが、その表情はなぜか暗いものだった。
「くそ、俺は何を」
そう言いながら彼は焦るように剣を手で弄りながら歩く。
彼は自身の現実での現状がとても憎かった。どれだけ仕事しても見えない昇進、出世街道を気ままに進む同僚、同じ自慢話しかしない上司。努力しているはずの自分には何も起きず、上がらず、生まれない。その虚無のような現在が彼をひどく追い詰めていた。
そんな彼は現実逃避のようにこのゲームを始めたが、ゲームの中で懸命に生きているNPCを見て、嫉妬してナナシを暴行するという暴挙に出たはずであった。
だが、彼はその現実の苦しみに加えて、新たな問題を抱えていた。それは、激しい罪悪感である。あれほど、徹底的に痛めつけたはずなのに、負けたカジに向かって啖呵を切っていたはずなのに、その傲慢な感情はなぜか消え失せ、代わりのように激しい罪悪感が彼を包んでいたのである。
このゲームを止めるという手もあった。だが、現実が嫌で、現実逃避がしたかった彼にとってはこの罪悪感が支配するゲーム内でさえもいまだ逃げ場として機能しており、止めるという選択肢は取ることができなかった。
「くそっ!」
彼は道の壁を八つ当たりのように強く叩いた。通行人のNPCたちが好奇の目で彼を見ているが、それに構うことなくまた歩きだした。
この状況は彼にとって辛いものであった。なぜならば、サカタはなぜ自分があんな行為に及んだかが全く分からないからだ。確かにNPCに対する嫉妬というものは大いにあった。だが、果たしてあんな残虐で野蛮な行動を起こしてしまうほどのモノだったのか?という思いが心に残っていた。
だが、現実としては自分はその行動を行っており、その事実が彼を蝕んでいた。過去の自分と今の自分の心が大きくすれ違っていたのだ。
「ああ、あの小僧だ……!そうだ、あいつに負けたから俺はこんな」
そのような過去と現在の自己矛盾の状況で、サカタの出した答えというのは責任転嫁であった。カジに味あわされた敗北に全ての責任を押し付け、自分の矛盾した心の安定を図ろうとしたのだ。
「捜さねぇと。そうじゃないと……俺は」
まるで、カジに会えば自分のなにもかも救わるというありもしない希望に縋るかのように彼の口から声が吐かれる。
彼はカジを捜すために彼は街を周った。
そんな時、道の曲がり角をサカタが曲がろうとした時だった。突然、腹部に軽い衝撃が走った。
「痛……!」
そこにいたのは地面に尻餅をついた猫の獣人であるナナシであった。
サカタは目を見張った。以前と格好が違うが、それは紛れもなく自分が痛めつけたはずの獣人のNPCであることに気付いたからだった。
ぶつかったナナシもまた、自分がぶつかった相手が以前に自分を痛めつけていた男であることを理解した。理解したとたん、その表情はひどく怯えた表情をし、泣きそうな顔で叫んだ。
「ご、ごめんなさい……!」
それは奇しくもサカタがナナシを傷つける原因となった状況と鏡合わせかと思われるぐらいに、全く同じであった。
サカタの手がナナシに伸びる。
「っ」
それを見てナナシは反射的に目を閉じ、自分にどのような痛みが来るかを暗闇の視界の中で想像してしまう。
「……?」
だが、痛みは来ることは無かった。その代わりに首元の服を引っ張られて自身の体を起き上がらされ、ナナシはその場から立たされていた。
ナナシが目を開くと、そこには泣きそうな表情をしたサカタの顔が見えた。
「え」
その信じられない状況からナナシの喉から戸惑いの声が上がる。
「……っ、あっ、ありが」
良く分からないまま感謝をナナシが告げようとすると、握っていた首元の服を離してサカタはそそくさとその場を後にした。
その姿をナナシは見つめる他なかった。
その場を逃げるように離れたサカタはナナシとの距離を離し、そのまま近くの壁に体を寄りかかっていた。そして、自分の頭を押さえながら天を見上げた。
「……ああ、くそ。何やってんだよ、おれ」
カジを捜す彼にとってはナナシとの再会は都合の良いものだったはずだろう。あのNPCにやさしいカジならば、まだ助けたNPCと交流があってもおかしくはない。それならば、また痛めつけて彼の居場所を聞くのが手っ取り早い、というのはサカタも気づくところだろう。
だが、サカタにはその行動はできなかった。逆にナナシの怯える姿を見て、彼の心はより罪悪感に蝕まれてしまった。
しばらくその格好で黙っていたサカタであったが、また歩を進めていく。
それは自身の自己矛盾を解消してくれるであろうカジを捜し、殺すために……。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します
miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。
そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。
軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。
誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。
毎日22時投稿します。
現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活
シン
ファンタジー
世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。
大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。
GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。
ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。
そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。
探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。
そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。
たまに有り得ない方向に話が飛びます。
一話短めです。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略
神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。
そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。
これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
転移特典としてゲットしたチートな箱庭で現代技術アリのスローライフをしていたら訳アリの女性たちが迷い込んできました。
山椒
ファンタジー
そのコンビニにいた人たち全員が異世界転移された。
異世界転移する前に神に世界を救うために呼んだと言われ特典のようなものを決めるように言われた。
その中の一人であるフリーターの優斗は異世界に行くのは納得しても世界を救う気などなくまったりと過ごすつもりだった。
攻撃、防御、速度、魔法、特殊の五項目に割り振るためのポイントは一億ポイントあったが、特殊に八割割り振り、魔法に二割割り振ったことでチートな箱庭をゲットする。
そのチートな箱庭は優斗が思った通りにできるチートな箱庭だった。
前の世界でやっている番組が見れるテレビが出せたり、両親に電話できるスマホを出せたりなど異世界にいることを嘲笑っているようであった。
そんなチートな箱庭でまったりと過ごしていれば迷い込んでくる女性たちがいた。
偽物の聖女が現れたせいで追放された本物の聖女やら国を乗っ取られて追放されたサキュバスの王女など。
チートな箱庭で作った現代技術たちを前に、女性たちは現代技術にどっぷりとはまっていく。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
NPCの会話がしっかりしてる…
これはもう異世界と呼んでもいいんじゃないか?w
感想ありがとうございます!
そうですね。なぜ彼らはあそこまで現実的なのかも理由があります。面白い話を作っていきたいと思いますのでよろしくお願いします!