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第一部 第一章「月夜の出会い」
第6話 目覚め
しおりを挟む目をうっすらと開けると、見覚えのある白い天井が視界に映りこむ。
……ここは俺の部屋なの……か?
確か俺は……教室にいたはず……。
「俺は……一体……」
起きてすぐだからか分からないが、若干頭の中がクラクラする。
何故、俺は……自分の部屋にいる?
これは……夢か?
少しだけ重怠い身体のまま、ベッドから出ようとしたしたその時だった。
部屋の扉が僅かに開く音が聴こえ、視線をそこに向けると、僅かに開いたその隙間から眼鏡のレンズらしきものが部屋の中を覗いていることに気づいた。
「……いいよ。入って来て」
ジーっと鋭い視線を送り続けてくる彼女に向かって俺がそう言うと、彼女は綺麗に三つ編みされた黒髪を靡かせながら部屋へと入って来た。
「お兄ちゃん。大丈夫? 変なところとか無い?」
「心配しなくて大丈夫だよ。俺はこの通り元気だからさ」
今にも泣きそうな顔で心配してくる彼女の頭を撫でながら、笑いかける。
彼女の名前は玄野凜。
俺の2歳年下の妹だ。
……未だにこの伊達眼鏡を愛用しているんだな。
妹の頭を撫でながら、彼女がかけている眼鏡に視線を向ける。
すると、その視線に気づいたのか、眼鏡の奥から紅色に輝く瞳が不思議そうにこちらを見ていた。
……見られているな。
「……なあ、凜。少し変なことを聞くかもしれないけど。何で俺はここにいるんだ?」
俺は頭の中から眼鏡の事を消し去り、今まで疑問に感じていたことを正直に話した。
我ながら本当に変な質問をしていると思う。
でも、仕方がない。
教室から家に帰って来るまでの記憶が一切無いのに加え、次に目が覚めると自分のベッドの上にいるといった状況だ。
怖い夢でも見ていたという可能性が大いにあるだろう。
「……」
不思議そうにずっとこちらを見つめたままの凜の視線が先程から無言なのも相まって酷く怖い。
「……すま――」
「何も覚えてないんだね。まあ、当たり前よね。だって、お兄ちゃん、気を失ってたんだもん。詩織お姉ちゃんがお兄ちゃんを担いで家まで運んで……」
凜の口から出てきた名前を耳にした途端、俺の頭の中は真っ白になった。
……何で、詩織姉がそこで出てきた?
もう訳が分からなかった。
……椎名詩織。
凜の口から出てきた名前であり、俺と凜の母親の妹。つまり、叔母に当たる人物だ。
ここ2年間くらいまともに会うことが無かったのに加え、叔母の仕事は大雑把にしか聞いたことが無い為、何をしているかまでは知らない。
ただ、少なくとも教師とか学校関係者ではなかった気がする。
……でも、一つだけ分かった。
俺を連れて帰って来た詩織姉なら何か知っているかもしれない。
「……なあ、凜。今、詩織姉ってどこにいるの?」
「詩織お姉ちゃんなら、今。下の階でお母さんと――」
「そうか。サンキュー」
俺はベッドから飛び降りるとそのまま自分の部屋を出た。
「……行っちゃった。……それにしても、お兄ちゃん。どうしたんだろ? 感情の揺らぎが普通じゃなかったなぁ」
・・・
部屋から飛び出して、階段を下りていると、階下の方から何かを激しく言い合っている女性の声が聴こえてくる。
……何話してるんだろ?
「……っ!! あの子には……。だから……」
「……それでも……してはおけない。……れた」
会話は途切れ途切れに聞こえてくる。
声的に母さんと詩織姉のものだろう。
……あの二人が言い争うなんて珍しいな。
そんなことを考えていると、足音で俺が下りてきていることに気づいたのか。2人の会話は途端に聴こえなくなる。
「……ふぅ」
俺は扉の前で一息つくと、ガチャリとリビングの扉を開けた。
部屋の中に入ると、テーブルに2人が向かい合って座っており、室内を気まずい雰囲気が支配していた。
「……起きたのね。零。体調は大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。母さん」
心配そうにする母さんに対して俺は笑いかけるが、母さんの表情は何故か曇っていく。
……どうしたの?
「母さん?」
「……零。姉さんのことは少し放っておいてやってくれないか?」
俺が母さんのことを心配していると、母さんの向かい側に座っているポニーテールに黒服という如何にも仕事が出来そうな女性に止められる。
「……詩織姉」
「……久しぶりね。零」
詩織姉はそう言いつつ、母さんの隣の席に座るように促して来る。
俺は詩織姉に促されるまま、椅子に腰を掛けると、詩織姉はにこやかな笑みを浮かべる。
「……さて、零も来たことだし。これからの事について話し合いたいんだけど。その前に、零には謝っておかないといけないことがあるの」
「……え?」
――俺に謝らないといけない事?
「今回の件。仕事の都合上、全てを話すことが出来ないけれど。私たちの組織……いや、どうせ、これから零が関わらないといけないだろうから、ちゃんと名前は言った方が良いわね。私たち公安警察第0課が一般人であるあなたを巻き込んでしまった。その事について組織を代表して謝らせて欲しい。零。本当にごめんなさい」
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