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8月11日(日)
やっとたどり着いてラッキー!と思ったら、咲姉がなかなかの塩対応だった件
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気づくと俺は五年ぶりの帰省で、そこにこの台風騒ぎだ。が、どうにも中途半端な場所で足止めを食らったり、列車で缶詰になったりーーという事もなくここまでたどり着いた。
昔は実家近くまで駅からの路線バスが通っていたが、最近廃線になった。八十を越えて最近色々"たいぎそう"な父親に荒天の中、山から遥々迎えに来てもらう訳にもいかないから、タクシー使うしか無いかと思っていたら、Uターン婚で駅近に住む咲姉が、実家に行くついでに回ってくれると言ってくれた。何だかんだそこまで運が悪いわけでもなさそうだ。
「それにしてもねー、昌弘だけホントに来るとは思わなかったわー。しー姉もいっちゃん達も、今回は流石にやめるわって言ってたのに」
「マジで?」
しー姉というのは咲姉の義姉、いっちゃんと言うのは俺の三人の姉のうち、盛岡で暮らす長姉だ。が……
「"達"って?姉さん達、三人とも来ないの?」
「何で家族で連絡取ってないのよ?おばさんとも『昌弘だっていい大人なんだから、自分で判断するでしょ』なんて話してたんだけど」
咲姉の笑い声は力の抜けた呆れ笑いに変わっていた。
「マジ?俺、こんな時に帰って来て非常識だった?」
「さあねぇ。何だかんだ、おじさんとおばさんは昌弘の顔見たら喜ぶんじゃない?ところで、一緒に来た彼は昌弘の友達?仕事の後輩?」
「ああ、ごめん。紹介忘れてた。ボランティア仲間なんだ」
と、俺は急いで答えた。何だか雲行き怪しい?
「安東圭人です」
圭人は前を見て運転中の咲姉の背中に、悪びれる事なくペコリと頭を下げた。
「今夜は昌弘んち泊まるんだ?」
「や、本当は宮古の民宿泊まるはずだったんだけど、三鉄止まってたんで、キャンセルして」
「そりゃそうよね」
「駅前のホテルも何か、結婚式入ってて満室だって言われて」
「台風が来るのに結婚式か。呼ばれる方も災難だな」
何の気なしに思わず言った俺に、咲姉はたしなめるように
「天気ばかりはどうしようもないでしょ。本人達は『雨降って地固まる』だといいわね」
と、某国民放送アナウンサー風「上手い事」系の返しをした。咲姉、オヤジ化した?ーーなんて事、口が裂けても言えないけど。
「しっかし、五年も経つとさすがの"マーちゃん"も老けるよね」
話に脈絡無さすぎ。てかそれ、今いる情報?
「マーちゃんて呼ぶの、やめてよ」
老けたのはお互い様じゃないか、とはやはり怖くて口が裂けても言えない。わざわざ言わなくてもよくないか?
「お客さんが来るって、おばさんには連絡してあるの?」
「いや、してない。客じゃないし」
「は?」意味わかんない」
咲姉はミラー越しに眉を吊り上げた。
「いきなり友達連れて来て泊めるとか、高校生の頃じゃないんだからさ」
別に友達じゃない、と返したらますます面倒なことになりそうだ。
「や、どっかの空き家で野宿するとか言い出すからさ。警察沙汰になっても気の毒だから、どうせならうちの納屋にしとけって事で」
もしタクシーだったら二人で割れば安くなるな……なんて事も実はちょこっと考えた。
「大丈夫だよ。こいつ、配信者でそういうネタも売りにしてる奴だし」
「はい。そう言うわけなんで、お構いなくです」
圭人が咲姉の背中に向かって頭を下げた。
「いや、そう言うわけにもいかないでしょ?馬鹿なの?」
「馬鹿」とは四十過ぎの男が、面と向かって言われていい言葉ではなくないか?俺はさすがにムッとして
「何で?何が問題?」
と聞き返した。
「……そういうところだよね」
咲姉は長いため息をついた。
「あのね。困った時はお互い様だし、人助けするのはいい。ただ、こっちは気楽にお構いなくって言ったって、あの世代の人はめっちゃ空気読むし、斜め横に気ぃ遣ってうんとお構いしちゃうんだよ。せめて連絡くらい入れてあげてよ」
咲姉はそれこそ高校生の息子にでもするように、辛抱強く丁寧に言って聞かせるような口調だった。
「そうかな……」
「ついでに言わせてもらうけど、お姉ちゃん達が来なくておばさんを手伝う人がいないんだから、マーだっていつもみたいに末っ子長男様で、上げ膳据え膳されてちゃ駄目なのよ」
咲姉の言葉に棘がある。
都会暮らしの世知辛さや、気遣いや持ち出しや苦労の割に報われないルーティーンを延々と繰り返す虚しさを忘れて、たまの帰省の時くらいゆったりした時間や懐かしい味に癒されて心を満たしたかっただけなのに、そんな風に思われてたなんて心外だーーいや、当たってるんだろうけど。
そこまで俺、常識無い感じ?
「しかも友達連れて来た分、二手間増えるんだから。二人で後片付けと掃除くらいはやりなさい」
「わかってるよ」
犬を飼いたかったら、自分でちゃんと世話しなさいーー的な事をわざわざ言われてる気がして、ちょっとカチンときた。
「おばさんだって歳で疲れやすくて、最近大変なんだから。お盆の準備だってあるしーー」
咲姉は他にもさらに何か言いたげだったが
「ーーまあ、行ってみればわかるわよ」
と、含みを持たせてそれきり話を終えた。
昔は実家近くまで駅からの路線バスが通っていたが、最近廃線になった。八十を越えて最近色々"たいぎそう"な父親に荒天の中、山から遥々迎えに来てもらう訳にもいかないから、タクシー使うしか無いかと思っていたら、Uターン婚で駅近に住む咲姉が、実家に行くついでに回ってくれると言ってくれた。何だかんだそこまで運が悪いわけでもなさそうだ。
「それにしてもねー、昌弘だけホントに来るとは思わなかったわー。しー姉もいっちゃん達も、今回は流石にやめるわって言ってたのに」
「マジで?」
しー姉というのは咲姉の義姉、いっちゃんと言うのは俺の三人の姉のうち、盛岡で暮らす長姉だ。が……
「"達"って?姉さん達、三人とも来ないの?」
「何で家族で連絡取ってないのよ?おばさんとも『昌弘だっていい大人なんだから、自分で判断するでしょ』なんて話してたんだけど」
咲姉の笑い声は力の抜けた呆れ笑いに変わっていた。
「マジ?俺、こんな時に帰って来て非常識だった?」
「さあねぇ。何だかんだ、おじさんとおばさんは昌弘の顔見たら喜ぶんじゃない?ところで、一緒に来た彼は昌弘の友達?仕事の後輩?」
「ああ、ごめん。紹介忘れてた。ボランティア仲間なんだ」
と、俺は急いで答えた。何だか雲行き怪しい?
「安東圭人です」
圭人は前を見て運転中の咲姉の背中に、悪びれる事なくペコリと頭を下げた。
「今夜は昌弘んち泊まるんだ?」
「や、本当は宮古の民宿泊まるはずだったんだけど、三鉄止まってたんで、キャンセルして」
「そりゃそうよね」
「駅前のホテルも何か、結婚式入ってて満室だって言われて」
「台風が来るのに結婚式か。呼ばれる方も災難だな」
何の気なしに思わず言った俺に、咲姉はたしなめるように
「天気ばかりはどうしようもないでしょ。本人達は『雨降って地固まる』だといいわね」
と、某国民放送アナウンサー風「上手い事」系の返しをした。咲姉、オヤジ化した?ーーなんて事、口が裂けても言えないけど。
「しっかし、五年も経つとさすがの"マーちゃん"も老けるよね」
話に脈絡無さすぎ。てかそれ、今いる情報?
「マーちゃんて呼ぶの、やめてよ」
老けたのはお互い様じゃないか、とはやはり怖くて口が裂けても言えない。わざわざ言わなくてもよくないか?
「お客さんが来るって、おばさんには連絡してあるの?」
「いや、してない。客じゃないし」
「は?」意味わかんない」
咲姉はミラー越しに眉を吊り上げた。
「いきなり友達連れて来て泊めるとか、高校生の頃じゃないんだからさ」
別に友達じゃない、と返したらますます面倒なことになりそうだ。
「や、どっかの空き家で野宿するとか言い出すからさ。警察沙汰になっても気の毒だから、どうせならうちの納屋にしとけって事で」
もしタクシーだったら二人で割れば安くなるな……なんて事も実はちょこっと考えた。
「大丈夫だよ。こいつ、配信者でそういうネタも売りにしてる奴だし」
「はい。そう言うわけなんで、お構いなくです」
圭人が咲姉の背中に向かって頭を下げた。
「いや、そう言うわけにもいかないでしょ?馬鹿なの?」
「馬鹿」とは四十過ぎの男が、面と向かって言われていい言葉ではなくないか?俺はさすがにムッとして
「何で?何が問題?」
と聞き返した。
「……そういうところだよね」
咲姉は長いため息をついた。
「あのね。困った時はお互い様だし、人助けするのはいい。ただ、こっちは気楽にお構いなくって言ったって、あの世代の人はめっちゃ空気読むし、斜め横に気ぃ遣ってうんとお構いしちゃうんだよ。せめて連絡くらい入れてあげてよ」
咲姉はそれこそ高校生の息子にでもするように、辛抱強く丁寧に言って聞かせるような口調だった。
「そうかな……」
「ついでに言わせてもらうけど、お姉ちゃん達が来なくておばさんを手伝う人がいないんだから、マーだっていつもみたいに末っ子長男様で、上げ膳据え膳されてちゃ駄目なのよ」
咲姉の言葉に棘がある。
都会暮らしの世知辛さや、気遣いや持ち出しや苦労の割に報われないルーティーンを延々と繰り返す虚しさを忘れて、たまの帰省の時くらいゆったりした時間や懐かしい味に癒されて心を満たしたかっただけなのに、そんな風に思われてたなんて心外だーーいや、当たってるんだろうけど。
そこまで俺、常識無い感じ?
「しかも友達連れて来た分、二手間増えるんだから。二人で後片付けと掃除くらいはやりなさい」
「わかってるよ」
犬を飼いたかったら、自分でちゃんと世話しなさいーー的な事をわざわざ言われてる気がして、ちょっとカチンときた。
「おばさんだって歳で疲れやすくて、最近大変なんだから。お盆の準備だってあるしーー」
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と、含みを持たせてそれきり話を終えた。
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