赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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⭐︎人の(ピー)を笑ってはいけない24時(なお、そこまで長くない模様)

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 「そうなの?」

 そう言われてもこの人のーー外向きのスペックだけは俺とレベル違いの完璧さを備えているこの人の中の、最も秘そやかで後ろ暗い欲求を掻き立ててしまうような俺って、一体どんな奴なんだろうーー全くピンと来ない。

「ふうん……なら、俺がいた方がいいんじゃないの?」

「えっ?」

「してみなよ。見ててやるから」

「……っ」

 さすがに本気で言った訳ではないのだが、奴は肩まで真っ赤にして顔を覆ってしまった。

ーーそれはダメなんだ?まあでもMと露出狂って違うのか

「あのさ。そこは開き直るなり怒るとかしてもいいとこなんじゃないの?」

 遠山は何を言われているかわからない、という表情で俺を見返した。

「俺かなり酷いことしたし、言ってるよ。いくら何でも嫌なら嫌ってちゃんと」

「……そんなこと、……言われても……」

 いまさら俺が言うなって感じだけどさ。

「……は……で……」

 掠れ声がますます小さくなった。

「何?聞こえない」

「……」

 今度は口をつぐんで押し黙ってしまう。悪い癖で、元が気の短い俺はまた少しイライラしてきてしまった。

「おーい。聞こえなかったんですかあ?」

 奴の頬をぺたぺたと軽く叩く。

「一人前に黙秘権あると思ってんのかよ?この変態が。紐と一緒にナニもちょん切っとくべきだったかな?ああ?」

「ちょっ……、ちょん切られるのだけはちょっと……」

 遠山はまたしゃくり上げ始めた。乱れた前髪の下で長い睫とガラス玉のような瞳がうるみ、紅い唇が絶望に震えているーー扇情的で庇護欲を掻き立てる表情だ。

 そして、ほんの数時間前まで俺を含む皆の尊敬と羨望の的だったこの人が今現在、あられもない格好でこんな表情をしているなんて事を知っているのは俺一人だけでーーそう思うと、今まで感じたことのない奇妙な高揚感が湧き起こってくる。

ーーやばい。もっと泣かせたい……

ーーいやいやいやいや。

 確かにガキの頃は血の気が多くて、自分よりタッパのあるヤローをタコ殴りにするなんて日常茶飯事だった。が、あくまで売られた喧嘩を買った上での事だ。いくらなんでも人を一方的に痛めつけて興奮する趣味なんかない。

「……嫌、では、ないので……」

 嗚咽と一緒にそんな言葉が聞こえ、奴は腰の上に掛かっていたジャケットを取り払った。

ーーえっ、嫌じゃないんだ?わけわからん。

 彼は意を決したように真っ直ぐ俺を見た。涼やかだった白目が可哀想なくらい充血していたが、薄灰色の瞳と睫に留まった水滴が艶めかしく光っていて綺麗だった。
 膝を崩し、折り曲げた長い脚を前に投げ出す。

「少し……側に来ていただけますか?」

「お、おう」

 実は家族同様に職人さんが出入りしていたほぼ「男の世界」であった実家でも、「下ネタ上等」な悪友連中とツルんでたマイルドヤンキー時代ですら同性のそういう現場は見たことはない。
 頭良くて綺麗で高潔な人格者で、一見そういった欲求を拗らせてなさそうなこの人も俺らと同様のことをするのかというさらに下世話な好奇心と、「えっ本当にするわけ?」という困惑がぐちゃぐちゃになって、内心かなりビビっている。が、気取られる訳にはいかないーーだってダサいじゃん。
 お互いの息が掛かり体温が伝わる、何なら頭突きもキメられる近さまでハッタリ半分でにじり寄る。

「あの、よければ一緒に……」

「……っは?一緒に、何だと?」

「……ですよね……いえ何でも……」

 嫌でも赤い縄目が刻まれた滑らかな肩と豊かな胸が至近距離で目に入る。個室トイレの薄暗がりではなく、居住空間の明るい照明の下で改めて見ると、手加減をせずにでたらめに縛られた跡がより痛々しい。無意識のうちに互いの髪と熱が触れてもつれ合う。

「これ以上馬鹿言ったら今度こそ切り落とすぞ」

「……わかりました……あ」

「今度は何?」

「名前……呼んでもいいですか?」

「へっ?ああ、うん」

「では、お言葉に甘えて……恒星……」

 コイツの声、元々いい声だけどかすれて切迫感あるとめっちゃどエロい。あとやっぱ、人によって違うのな。座った方がやりやすいとか寝そべるとか……って、どうでもいいが。

「恒星……恒星……」

 形のいい唇から甘い低音で呼ばれてるのが自分の名前というより魔女の呪文のように聞こえる。辺りの空気が変に濃くなり、荒くなった奴の息とともに肩が上下する。
 学生の頃、自分の酒量を知らずに飲んでえずく友人を解放している時のような気分になり、無意識のうちに自分のつけた痕を手でなぞるーー後悔や罪悪感も感じてはいるのだが、そんな事以上に鮮烈に思い出したのは子どもの頃、日焼け後の皮を剥いたりかさぶたを剥がしたりした時の痛々しい快感だ。
 それか、まっさらな新雪の上を泥混じりの靴で歩き回るような、新品の教科書に落書きをするようなーー背徳感や虚無感と背中合わせの達成感だったり。

ーーちょっと待てよ。俺、昨夜もこんな調子でコイツと……?
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