赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

文字の大きさ
36 / 144

⭐︎フツメンと美野獣

しおりを挟む
「それはフィクションの見過ぎだよ。僕もそこまでは痛くて嫌だし」 

 えっそうなの?

「もちろんそういうプレイを楽しむカップルもいるけど、そんなの人それぞれだよ。何だってそうだけど」

「そういうもんなのか」

 日常生活に縁があろうがなかろうが。何のジャンルでもなかなか奥深いもんだーーつか、やっぱワケがわからんわ!

「セーフワードはこないだと同じでいいね?」

 そう言って玄英は膝を着いて、俺の前に手首を揃えて差し出した。俺の手にはさっき外した俺のネクタイとベルトがあった。
 これもう、このまま続けないとケリがつかない感じか?

 セーフワードは「恒三」ーーそう決めた時の記憶は無いんだが、まるで文化財級の江戸っ子でスパルタな師匠でもある俺の祖父ちゃんの名前だ。

「いや、やっぱいくら何でも祖父ちゃんの名前ってのは……秒で萎えるし、さすがに後ろめたい」

 そう言いながら何となく雰囲気に押されてとりあえずネクタイで縛ってみる。

「その方がいいんだよ。お互いヒートアップしてエスカレートするなんてよくある事だしーー僕は恒星になら殺されたって恨まないよ。それくらい愛してるもの」

 玄英は乱れた前髪の隙間から淡い色の瞳を爛々とさせ、緩めてあったシャツの胸元まで上気させながら肩を震わせた。

「馬鹿言ってんじゃねえ!あんたはそれでよくても、俺の順調に平凡な小物人生のその後をどうしてくれるんだ!」

 俺は思わず叫んだ。

 が、確かに医療系の友人から、倒錯趣味的な行為の末にニッチもサッチもいかなくなって救急搬送されて来た患者の話を聞いたことはある。最悪の結果になってダー◯ィン賞のリストに載る場合もあるようだし……マジか。シャレにならん。

「わかったよ。『恒三』でいいわ」

 祖父ちゃん、ごめん。「知らぬが仏」ってこの事だよな……

「これで恒星がハード系をやってみたくなっても大丈夫だね。僕もご主人様のためなら修行だと思って頑張……」

「なるかよ!つか、お前はこれ以上頑張るな!」

「あっ……でも、ハイヒール履いた恒星には一度踏まれて見たいかも。ふふっ」

「履くわけねえだろ」

 よく考えたらそれって女王様じゃん。

「それで早口の啖呵で罵られながら踏まれたい」

「啖呵だ?あのな、ああいうのは切れって言ってそう切れるもんじゃねえよ。お前に合わせてそんな都合よくポンポン出てくるかっての、馬鹿野郎」

 何だかイラついたので、残っていたベルトでさらに玄英の腕をぐるぐる巻きにしてみた。

「いいね、これ。その調子……」

 玄英は不自由な手で俺のスラックスを脱がせにかかかった。
 
「おい、何すん……」

 俺は思わず奴の頭を鷲掴みにして押さえた。

「嫌?」

 煙水晶スモーキークォーツ色の丸い二つの瞳が見上げているーー気質は穏やかだがずるずると言う事を聞かなくて、結局手に負えない大型犬みたいな奴だなと思った。

「嫌……じゃ、ねえけど……」

 俺はさらに押し戻した。玄英は無邪気に「ご主人様、真っ赤になってる。可愛い」と笑った。

「うるせえっ!俺ばっかりこんなの、恥ずかしいに決まってんだろうが。つかお前が先に脱げ。この変態!」

「はい、ご主人様」

 怒鳴られた玄英は嬉々として、しかし不自由な手でもたもたとボタンを外し始めた。

「何やってんだ、愚図だな」

「さっさとしないともう帰るぞ」

 などとエールを送りながらその愛らしい様を堪能した。

 いやしかし、やっぱりわからん。

 うっかり受け流してしまったが、さっきの「愛してる」ってーー愛の告白だよな?

 ごく個人的な性癖はさておくとして、容姿端麗で才能に恵まれた世界的な成功者ーー引き換え一方の俺ときたら東京の片隅にあるしがない造園屋の孫で中小企業勤務の、あらゆるスペックが平均値なモブ顔の凡人アラサーだ。同年代に言わせると、中味はまるきり昭和のオッサンらしいし。

 この人に見えてる俺って、一体どんななんだろう?少しはキラキラしたりしてるんだろうか?

 それにしたって、スーパーモデルの奥さんの次が俺なんて……どうなの?過去の恋愛がどうだったかなんて全く知らないし聞くつもりもないが、男の趣味に関しては見る目が無いんじゃないか?それか視力が……いや、プライベートで眼鏡かけてるくらいだから実際悪いのか。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

あの部屋でまだ待ってる

名雪
BL
アパートの一室。 どんなに遅くなっても、帰りを待つ習慣だけが残っている。 始まりは、ほんの気まぐれ。 終わる理由もないまま、十年が過ぎた。 与え続けることも、受け取るだけでいることも、いつしか当たり前になっていく。 ――あの部屋で、まだ待ってる。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

処理中です...