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大人になってからの研修会や学習会って、クセの強い講師とか交流会という名の飲み会でやたらノリのよかった奴の事しか覚えてなかったりするよね。
しおりを挟む青葉造園および本日の業務の体験見学(という名の単発ボランティアか?)で汗をかいた後、一風呂浴びた玄英と俺は祖父ちゃん自慢の庭を見渡せる「落ち縁」に並んで掛けて涼んでいる。客間より一段低い場所に作られたデッキ式の縁側で、昭和の最後でも既に建てる人は稀であった数寄屋の家により懐古的な風情を添えている。
俺はTシャツにジャージの部屋着の上下だが、試しに玄英に客用の浴衣を着付けてやったら大喜びしていた。
着付けと言っても旅館にあるような部屋着用のだから大した作業じゃないが、問題は家に用意してある浴衣は最大丈でも俺とか清さんサイズ(170~175)だから全然丈が足りなくて腕や脚が大分出ている。
カコーン……
鹿威しが鳴る夕闇の日本庭園はそう広くはないが、竹垣や池の周りの石組みなど祖父のこだわりが高密度に詰め込まれており、青葉造園のショールームとも言える。
鹿おどしを傍らに、玄英が落ち縁に掛けている光景はそのまま、意識高い系癒やし雑誌のグラビアやインバウンド用ポスターにできそうなほど絵になっているのだが、寸足らずな浴衣だけがただただ惜しい。
「何かごめんな。俺の部屋着貸そうか?」
それもおそらく、寸法が足りないと思うが。
「どうして?浴衣、とても素晴らしいじゃない。似合わない?」
「いや、似合うけど、こういう物は丈がピッタリの方が『粋』なんだ」
「そうなの?僕は全然気にしないよ?」
玄英が気にする、しないとかじゃなくてなあ……
「おい恒星、この野暮天野郎!」
続いて風呂からあがって来た青葉造園社長(通称・親方。兼俺の祖父ちゃん)が、背後からいきなり雷を落とした。
「お客人にこんな、ツンツルテン着せとくしみちがあるかい。もっとデカいの出してこい。このボケナスが」
「いや、これが一番大きいサイズなんだよ」
カコーン……
「そうかい」
自分の丈ピッタリにこしらえさせた専用の浴衣を粋に着こなした祖父は玄英の反対側に陣取った。清さんが甲斐甲斐しく盆に乗せた冷酒のセットを運んで来る。
「どうにも不調法で、堪忍しておくんなさい。今度までにちゃんと、玄英さん用の浴衣もあつらえておきますんで」
「わあ、楽しみだなあ。ありがとうございます」
祖父ちゃんと玄英はさっそく杯を交わしている。イギリス(などあちこち)育ちの玄英は日本ならではの「盃をやり取りする」文化に馴染みはないはずなのだが、戸惑う様子はない。
俺は、祖父ちゃんには適当に言い訳して、さっきまで玄英とシェアしていたスポドリの続きを飲んでいる。孫と飲むのは楽しみだが、飲みすぎるのも心配なんだろう。
「不調法と言やぁ、今朝方はうちの若いもんがとんだご無礼をいたしました」
「若いもん」つってもダイ以外は玄英より歳上だけどな。さらに清さん以外は定年間近~雇用延長世代だ。
「こいつも昔から口から先に生まれたようなところがありまして、下手な冗談でかえって人様を怒らすようなところがありまして……不肖の孫でお恥ずかしい」
何のことだ?ああ、玄英が俺の嫁さん候補と間違われた事か。完全にツッコミ待ちだっただけで、別に嘘はついていない。まさか間に受けるとは思わなかった。
ーーって、そうか!この手があったか!
確かに、俺も初見でこのバージョンの玄英を女性と見間違えたが、まさかここまでナチュラルに「彼女」認定されるとは思わなかった。ちょっと惜しかった気もする。
とは言え、先々の事を考えると何度も誤魔化しきれるもんじゃないしなあ。
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