赤いトラロープ〜たぶん、きっと運命の

ようさん

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元ご主人様、全力で現職の外堀を埋めにかかる

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「いや、そっちじゃない。今、俺は警視庁の捜査一課で刑事をしているんだが」

「へええ。大出世じゃないスか。警察もよっぽど人いないんスね」

「茶化すな」

 親戚のウザい説教おじさんみたいだった小川さんのノリが、急に本職っぽいシリアスなトーンに変わる。

「いいか、落ち着いて聞けよ。今日、うちの課に傷害容疑でお前の告訴状が出された」

 告訴状?

「って、何?」

「端的に言うと、お前を訴えたいから捜査してくれって書状だ。恒星。お前、あのSNS王のユーラ・チャンと何か揉めたのか?」

「は?訴える?野郎、そんな事言ってんですか?訴えたいのはむしろ俺の方なんですが」

「……トラブルがあったのは事実なんだな」

 電話の向こうで頭を抱えてため息をつく小川さんの姿が見えるような気がした。

「おおかた盛大な人違いだろうと思ってたんだが」

 聞くと今朝方、ユーラ・チャン本人ではなく代理人がーーしかも大物財界人や芸能人の訴訟で度々ワイドショーやネットを賑わす名物弁護士ばかりで構成された錚々たる「弁護団」が、ご丁寧にも警察OBの国会議員まで引き連れて警視庁を訪れたのだという。
 訴状に書かれたユーラの言い分によると、先日の船上パーティーにおいて彼は俺から殴られそうになってかわした弾みに腰椎を傷め、PTSDを発症して全治半年の診断を受けたのだそうだ。

 ご丁寧に、医師の診断書の他に目撃者の証言や絶妙に誤解されそうなアングルの証拠写真まで添えられているという。

 ……って、何だそりゃ?!?

 パンチ避けて腰痛めたとか、九十の爺さんじゃあるまいし……だいたいアンタ金と暇に飽かせてジムでゴリゴリ鍛えてんだろうがよ!あの後ホールで、玄英とスイスイ踊ってたじゃんかよ!

 ちなみに胸ぐら掴んで殴りかかろうとしてた玄英への言及はなし。「和解」というのはあくまで玄英との間の事であって、俺に対しては白を黒、縦のものを横と言い張り地球は平面でアポロ計画は全編スタジオ撮りのフィクションだと力説してでも容赦する気はないんだろうな。

 もうツッコミどころしかなくて笑うしかないんだが。

「それを言うなら俺だって、突き飛ばされて尻餅ついてアザまで残ってたし次の日まで痛くて」

「そのケガは?医者に行って診断書とったのか?」

「まさか。湿布と気合いで治しました。すっかり綺麗なもんですよ」

 現役時代はツッパる事とケガが男の勲章だったのである。ライトな腰掛けとはいえ、元ヤンのヤンキー精神をナメないで欲しい。

 が、小川さんからは「だろうな」と最大風速のため息が返ってきた。

「まさか俺、こんな事で逮捕されちゃうんスか?」

 玄英の名前は出さず、たまたま知人について行ったパーティーだという事にして俺はだいたいの事情を話してみた。

「事実がその通りなら起訴猶予ーーいや、告訴状自体が受理されない可能性はあるな。告訴状とか被害届なんてのは言ってみれば事務手続きだから、本人なり代理人が所轄の警察署に提出するのが普通だ。警視庁総監宛なんてのは俺も初めて見た」

 運悪く受理されたら捜査義務が生じるので、任意で出頭してもらう事になるかもしれないとも言われたがーー暇か!?
 ドラマの通り24時間走り回ったりうんちゃらブリッジ封鎖したりーーしてるかどうかは知らんが「花の捜査一課」って凶悪事件担当の激務なんじゃないの?

 しかもその翌日、俺宛てに書留が届く。
 差出人は東京地方裁判所、中身はまたしてもユーラ・チャンからの訴状だ。
 何でも俺の暴行未遂による精神的苦痛の慰謝料と奴の言うPTSD被害による休業中の収入を補助しろとかーー金額だけ見たら、子ども銀行券か人生ゲームでしか見た事のない、正気を疑うのを通り越して爆笑するしかない額だ。

 何にもなければ手の込んだ架空請求詐欺を疑っていたところだ。あからさまな仮病まで使いやがってーー全世界の精神的疾患者から糾弾されやがれ。

 
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