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政ーー弐
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敬助は歳三とともに副長の職に就いてから以前のように左之助とつるむ暇も無くなった。
特に今回のように芹澤が騒動を起こした後は近藤が謹慎中のため代わりに歳三と二人で藩屋敷に呼ばれたりと多忙を極めている。最後に差しで飲んだのはいつだったかーー浪士組の道中の宿場町とか、そんな感じだったかもしれない。
「そんな事は我々だって百も承知だ。芹澤は武家の出で年上出し、どうしたって水戸の連中の方が数は多いからな。近藤さんも揉めたくはないんだろう」
「てやんでえ」
左之助が平助をばっさりと切り捨てた。
「何が武家だよ。手柄も立てずに破落戸まがいの事ばっかりして。家格だけで頭領が務まるんなら、平助にでもやらせときゃいいだろ」
「私には無理だ」
「そりゃわかってるよ。芹澤が武家の出ったって、そこまで自慢できたもんかよって言いたいんだ。
何なら原田家だってついに親が、御先祖代々の田畑を売ってまで御家人株を買ったらしいがな。俺だって芹澤と互角かもしれんぜ」
「左之さんが局長なのはもっと御免だ」
平助は徹頭徹尾真顔で答え、一は何かを我慢するように咳き込んだ。
「そういう話じゃねえっつってんだろうが。俺ぁ国屋敷に何年も勤めてたから、武家だ侍だって威張り散らして上にだけペコペコしてる連中のしょうもなさはよく知ってんだよ。そんな連中より近藤先生や歳さんの方がよっぽど侍らしいや」
「そんな事は私だってわかっている」
「芹澤のお陰でこっちまで同じ破落戸に思われていい迷惑だよ。神道無念流の達人だとかいう触れ込みだって怪しいもんなのに、奴に憧れて隊士になりたいって輩が訪ねてくるんだから。世の中わからねえもんだよなあ」
左之助が心外な事に、芹澤の言動は徐々に世の中から厄介者視されつつある強硬派の攘夷論者、特に若い浪士や志士もどきから喝采を浴びた。
また、特にこれという思想を持たない大多数の庶民も「持てる者」への嫉妬や不満は常に抱えておりーー何なら諸藩の間にすら貿易の恩恵で豊かになった藩と、開国派として非難を浴びせるそれ以外の藩とで歴然とした格差が存在するようになっていたーー無責任に芹澤を称賛する者も少なからずいたのである。
「だからってよう、筋は筋じゃねえのか?『泣く子も黙る壬生浪士組』ってなあーー確かに俺ら、恐れられる事も仕事のうちだけどもよ。そういう事じゃねえだろ?」
左之助は平助から徳利をひったくるようにして自分の杯に注ごうとしたが、すでに空だった。
「おうい。おまさちゃん、酒」
呼ばれたおまさは愛嬌のある声でころころ笑いながら
「原田はん、飲み過ぎや。お冷にしとき」
と言い、水の入った湯呑みを「どん」と置いた。
「声も大きいで。下に新見さんら来とったよ」
「おい!本当か」
左之助は一瞬青ざめた。
「嘘や」
おまさはころころ笑いながら中に入って行った。
「おいおい。客をからかうわ、注文は聞かないわ……こんな料理屋がどこにあるんだよう」
これには平助も一もついに噴き出し、腹を抱えて笑った。
「芹澤局長は水戸で昔……」
ほんの少し酒が回った様子の一が、珍しく話の口火を切ろうとした。
「んっ?なんでぇ?一の字」
「あ、いえ……」
「気になるじゃねえか。言ってみろ。芹澤がどうしたって?」
数人での雑談ーー特に人の噂話にはあまり入ってこようとしない一が珍しく自分から何か言いかけたので、左之助も平助も身を乗り出して続きを求めた。
「芹澤局長が『烈公の元家臣の家柄』というのは本当なんでしょうか?」
気遅れしたのか別な理由か、無難な話に話題をすり変えられたような気もしないでもないが所詮、酒の席で深掘りするような事でもない。
「いやいや。俺に言わせりゃ相当胡散臭いぜ。あいつは清河とおんなじ臭いがする」
芹澤のやってる事は場所や立場がちがうだけで焚き火騒ぎの時とさほど変わってないようにも思う。ぶれずに自分を貫いていると言えばそれまでだが、幼稚な思考でハッタリにすら進歩が無い。
「清河……」
「あ、そうか。一は清河も知らんか。
特に今回のように芹澤が騒動を起こした後は近藤が謹慎中のため代わりに歳三と二人で藩屋敷に呼ばれたりと多忙を極めている。最後に差しで飲んだのはいつだったかーー浪士組の道中の宿場町とか、そんな感じだったかもしれない。
「そんな事は我々だって百も承知だ。芹澤は武家の出で年上出し、どうしたって水戸の連中の方が数は多いからな。近藤さんも揉めたくはないんだろう」
「てやんでえ」
左之助が平助をばっさりと切り捨てた。
「何が武家だよ。手柄も立てずに破落戸まがいの事ばっかりして。家格だけで頭領が務まるんなら、平助にでもやらせときゃいいだろ」
「私には無理だ」
「そりゃわかってるよ。芹澤が武家の出ったって、そこまで自慢できたもんかよって言いたいんだ。
何なら原田家だってついに親が、御先祖代々の田畑を売ってまで御家人株を買ったらしいがな。俺だって芹澤と互角かもしれんぜ」
「左之さんが局長なのはもっと御免だ」
平助は徹頭徹尾真顔で答え、一は何かを我慢するように咳き込んだ。
「そういう話じゃねえっつってんだろうが。俺ぁ国屋敷に何年も勤めてたから、武家だ侍だって威張り散らして上にだけペコペコしてる連中のしょうもなさはよく知ってんだよ。そんな連中より近藤先生や歳さんの方がよっぽど侍らしいや」
「そんな事は私だってわかっている」
「芹澤のお陰でこっちまで同じ破落戸に思われていい迷惑だよ。神道無念流の達人だとかいう触れ込みだって怪しいもんなのに、奴に憧れて隊士になりたいって輩が訪ねてくるんだから。世の中わからねえもんだよなあ」
左之助が心外な事に、芹澤の言動は徐々に世の中から厄介者視されつつある強硬派の攘夷論者、特に若い浪士や志士もどきから喝采を浴びた。
また、特にこれという思想を持たない大多数の庶民も「持てる者」への嫉妬や不満は常に抱えておりーー何なら諸藩の間にすら貿易の恩恵で豊かになった藩と、開国派として非難を浴びせるそれ以外の藩とで歴然とした格差が存在するようになっていたーー無責任に芹澤を称賛する者も少なからずいたのである。
「だからってよう、筋は筋じゃねえのか?『泣く子も黙る壬生浪士組』ってなあーー確かに俺ら、恐れられる事も仕事のうちだけどもよ。そういう事じゃねえだろ?」
左之助は平助から徳利をひったくるようにして自分の杯に注ごうとしたが、すでに空だった。
「おうい。おまさちゃん、酒」
呼ばれたおまさは愛嬌のある声でころころ笑いながら
「原田はん、飲み過ぎや。お冷にしとき」
と言い、水の入った湯呑みを「どん」と置いた。
「声も大きいで。下に新見さんら来とったよ」
「おい!本当か」
左之助は一瞬青ざめた。
「嘘や」
おまさはころころ笑いながら中に入って行った。
「おいおい。客をからかうわ、注文は聞かないわ……こんな料理屋がどこにあるんだよう」
これには平助も一もついに噴き出し、腹を抱えて笑った。
「芹澤局長は水戸で昔……」
ほんの少し酒が回った様子の一が、珍しく話の口火を切ろうとした。
「んっ?なんでぇ?一の字」
「あ、いえ……」
「気になるじゃねえか。言ってみろ。芹澤がどうしたって?」
数人での雑談ーー特に人の噂話にはあまり入ってこようとしない一が珍しく自分から何か言いかけたので、左之助も平助も身を乗り出して続きを求めた。
「芹澤局長が『烈公の元家臣の家柄』というのは本当なんでしょうか?」
気遅れしたのか別な理由か、無難な話に話題をすり変えられたような気もしないでもないが所詮、酒の席で深掘りするような事でもない。
「いやいや。俺に言わせりゃ相当胡散臭いぜ。あいつは清河とおんなじ臭いがする」
芹澤のやってる事は場所や立場がちがうだけで焚き火騒ぎの時とさほど変わってないようにも思う。ぶれずに自分を貫いていると言えばそれまでだが、幼稚な思考でハッタリにすら進歩が無い。
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「あ、そうか。一は清河も知らんか。
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